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ℛ𝒶𝒾
1,028
『俺の好きな先輩は、うそ上手』
Episode.1 天使みたいな先輩
《🎼🍵side》
…………………
高校一年。
春。
入学して、まだ間もない頃。
校舎の中には、まだ新品みたいな空気が残っていた。
真新しい制服。
まだ覚えきれていない教室の場所。
廊下ですれ違う、知らない先輩。
名前も顔も一致しないクラスメイト。
みんな、少しだけ浮かれていて。
みんな、少しだけ緊張している。
……そんな中で。
俺はというと。
🎼🍵「…………」
屋上にいた。
別に、何かあったわけじゃない。
ただ、 教室にいるのが、少し疲れただけ。
入学して数日。
クラスのみんなは、もうそれぞれのグループを作り始めていた。
休み時間になれば、机を寄せ合って笑っている。
放課後になれば、部活の話をしている。
「昨日のドラマ見た?」
「今度みんなで遊び行こうよ」
「部活どこ入る?」
そんな会話が、あちらこちらから聞こえてくる。
もちろん、話しかけられれば俺だって普通に返事はする。
友達がいないわけじゃない。
……ただ。
どうにも、馴染めない。
だから、昼休み。
俺はひとり、屋上に来ていた。
🎼🍵「……はぁー……」
春の風が、少しだけ冷たい。
屋上の柵に腕をかけて、遠くを見る。
校庭では、運動部らしき生徒たちが走っている。
その向こうには、街。
さらにその向こうには、青い空。
🎼🍵「…………」
……平和だなぁ。
こういうところにいると、何も考えなくて済む。
そう思っていた。
???「ねぇ、大丈夫っ?」
🎼🍵「…………え?」
突然。
すぐ隣から声がした。
🎼🍵「うわっ!?」
びっくりして、思わず身体を起こす。
俺は慌てて隣を見た。
そこには───
ひとりの女の子がいた。
薄い水色の髪。
肩のあたりで綺麗に揃えられたボブ。
風が吹くたび、さらさらと髪が揺れる。
濃い水色の瞳。
少し垂れた目。
その顔には、柔らかな笑顔。
そして。
女子制服にルーズソックス。
短めのスカート。
けれど、胸元についているのはリボンではなく、ネクタイだった。
???「きみー、一年生?」
🎼🍵「…………」
???「ネクタイの模様が緑色だね」
そう言って、その人は俺の胸元を指差す。
🎼🍵「ぇっ…………」
一年生のネクタイ……じゃなくて。
そっか。
学年ごとに色が違うんだ。
そんなことを思う余裕なんて、今の俺にはなかった。
だって。
近い。
めちゃくちゃ近い。
🎼🍵「えっと……」
???「ん?」
にこっ。
…………。
待って。
いや。
待って待って。
この人───
🎼☔️「っ私は高等部二年。雨宮こさめ!」
にっこり笑って。
その人は、胸の前で小さく手を振った。
🎼☔️「よろしくね、草井すちくん」
🎼🍵「…………」
俺の名前、 知ってる。
なんで?
いや、今はそんなことどうでもいい。
それより。
🎼🍵「ぇ……ぁ……ょろしくお願いします…………」
声が裏返りそうになった。
人生で初めて。
こんなに近くで。
「可愛い」と思った女の子を見た。
……いや。
可愛いなんて言葉じゃ足りない。
なんというか。
春の光みたいで。
ふわっとしていて。
見ているだけで、こっちまで穏やかな気持ちになるような。
そんな人。
🎼☔️「じゃーあ、またね、すちくん」
そう言って。
こさめ先輩は、屋上の扉へ向かって歩いていった。
🎼🍵「あ……」
思わず声が漏れる。
🎼☔️「ん?」
振り返る先輩。
🎼🍵「…………」
何を言えばいいのか分からなくて。
結局。
🎼🍵「……ありがとう、ございます…?」
それだけ。
🎼☔️「うん!」
こさめ先輩は笑った。
そして、扉の向こうへ消えていった。
🎼🍵「…………」
ひとりになった屋上。
さっきまでと、何も変わっていない。
同じ空。
同じ風。
同じ校庭。
なのに。
🎼🍵「…………なんだろ」
胸の奥だけが、妙に騒がしかった。
* * *
「っきゃー!!! いるま先輩素敵っ!!」
「みこと先輩も?! きゃー!!!」
「ねぇねぇ、いるま先輩とみこと先輩だったらどっち派とかある?!」
「私は断然いるま先輩!」
「バスケ部エースだし、成績も優秀! めちゃくちゃかっこいいし!!」
「えぇー、私はみこと先輩かなぁ」
「だって、裏では『王子様』って呼ばれるほど紳士で優しいのよー?」
「今年の文化祭、みこと先輩のバンドも出るって話じゃん!」
「えぇええうそ!!! 素敵!!」
🎼🍵「…………」
俺の名前は草井すち。
そこら辺にいる、ただの高校一年生。
受験は大変だったし、高校に入ったら少しは落ち着くかなーと思ったものの。
授業は眠たい。
部活は毎日。
家に帰っても寝るばかり。
そんな日常の繰り返し。
そして俺は、高校に入って早々、ひとつの挫折をすることになる。
それは───
🎼🌸「相変わらず人気だなー、あの人たち」
隣に座るのは、俺の高校の友達。
桃城らん。
中学の頃から成績優秀だったらしく、ここの高校ではトップ級の成績で入学。
そして、俺のとあるライバルでもある。
🎼🌸「俺もあんくらいイケメンだったらなー」
🎼🍵「らんらんは成績がいいんだし……」
🎼🌸「すちは自分に自信なさすぎな」
🎼🍵「いやぁ……それほどでも」
🎼🌸「褒めてねーよ」
🎼🍵「…………」
そこへ。
🎼🍍「お前ら、朝から元気だな」
日廻なつ。
俺のもうひとりの高校の友達。
顔面国宝級の見た目で、いるま先輩やみこと先輩と同格レベルの存在。
……ということにしておく(悔しい)。
🎼🍵「ひまちゃん、いつの間に……」
🎼🍍「イケメン共の話から聞いてたわ」
🎼🌸「おいっ、あれ!!」
🎼🍍「んー?」
らんらんが廊下へ目を向ける。
🎼🍍「あー。こさめじゃん。」
🎼🍵「…………!」
その一言で。
俺は勢いよく立ち上がった。
🎼🍵「ど、どこ?! こさめ先輩どこ?!」
🎼🌸「おい、すち! 押すなよ!」
🎼🍵「らんらんこそっ……!」
廊下の向こう。
薄水色の髪が見える。
🎼🍵「こさめ先輩……!」
次の瞬間。
「きゃー!! こさめ先輩!!」
「今日も可愛いよー!!」
「こっち向いてー!!」
廊下に大歓声が響いた。
こさめ先輩は男女関係なくモテる。
いつものように笑顔で手を振っている。
そして、 人の波の向こうへ消えていった。
🎼🌸「…………」
🎼🍵「あぁあ、ちょっと、らんらんっ! こさめ先輩見えないじゃん!」
🎼🌸「うるせっ! 俺が見んだよ!」
🎼🍵「なんでよ!」
🎼🍍「お前ら、ほんとこさめのこと好きだよな」
🎼🍵「っちょっと、ひまちゃん……!」
🎼🌸「うるせーぞ、なつ」
ひまちゃんは呆れたようにため息をつく。
俺は、廊下の向こうをもう一度見る。
もう、こさめ先輩の姿はない。
だけど。
あの日、屋上で見た笑顔は、今でもはっきり覚えている。
そう。
これが、俺が高校に入って早々に経験した挫折。
それは───
雨宮こさめに、恋をしたことだ。
NEXT.♡100
コメント
2件
うわあ、第1話からすごく好きな空気感……! 屋上でひとり、馴染めなさを抱えてるすちくんに、ふわっと現れたこさめ先輩。春の光みたいな笑顔って表現、すごくしっくりきた。それでいて「うそ上手」ってタイトルがじわじわ気になる。これからどうなるんだろう、続き読みたいなあ🤍