テラーノベル
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轟音と共に、新宿の地下が悲鳴を上げた。
影山が仕掛けた振動装置は、長年この街を支えてきた古い土台を正確に撃ち抜いた。
天井のコンクリートに巨大な亀裂が走り、戦時中から残るレンガの壁が砂のように崩れ落ちていく。
「兄貴!!こっちです、早く!!」
崩落の土煙の向こうから、山城の絶叫が聞こえた。
奴はガスの余韻で咳き込みながらも、逃げ遅れた老人を担ぎ、崩れゆく通路を必死に駆け抜けていた。
俺は暗渠から這い上がり、泥まみれの体で山城の元へ合流した。
頭上からは、地上にある街路樹やアスファルトが剥がれ落ち、新宿西口の地上の一部がそのまま地下へと飲み込まれていく、凄まじい「沈下」の音が響いている。
「源蔵さんは!? 他の連中はどこだ!」
「源蔵さんは第4区画のシャッターを閉めに行きました! あそこを閉じなきゃ、ここも全部埋まっちまう!」
俺は山城に老人を任せ、さらに奥へと走った。
そこでは源蔵が、土砂に半分埋まった手動レバーを必死に引いていた。
「和貴……!逃げろ、ここはもう持たねえ!」
「馬鹿言ってんじゃねえ! 一緒に行くんだよ!」
俺は源蔵の隣に飛び込み、二人でレバーに全体重をかけた。
ギギギ……と錆びた音が響き、重さ数トンの防潮扉がゆっくりと降り始める。
その隙間から、濁流のような土砂が勢いよく流れ込んできた。
「……落ちろッ!!」
咆哮と共にレバーを押し切ると、扉が激しい音を立てて閉まり、土砂を遮断した。
一瞬の静寂
だが、それは終わりではなかった。
「……志摩、聞こえるか。地上の状況はどうなってる」
俺はノイズの走る無線機に問いかけた。
『最悪だ、黒嵜。西口のバスターミナル付近に直径50メートルの陥没穴が開いた。公安はこれを「大規模なガス爆発と地盤沈下」として隠蔽し、周囲数キロを完全に封鎖したぞ。……これでお前たちは、物理的に「閉じ込められた」わけだ』
志摩の声には、隠しきれない絶望が混じっていた。
地上は公安の包囲網。地下は崩落による閉鎖空間。
『黒い百合』は、直接手を下すことなく、俺たちを「生き埋め」にしたのだ。
「…兄貴、これからどうすりゃいいんですか。食料も水も、土砂の下です……」
集まった鼠たちが、暗闇の中で怯えるように俺を見つめる。
俺は脇差の柄を強く握りしめ、崩れた壁の向こう側――
さらに深く、誰も足を踏み入れたことのない暗黒の奥を指差した。
「……暗くなるな。道がないなら、自分たちで掘り進めるまでだ。新宿の地下は、こんなもんじゃねえだろ?」
残された時間は、あと2208時間
退路を断たれた俺たちは、さらなる深淵へと潜っていく。
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