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 スパイキー・スパイク 〜 白幻の森にて 〜

 僕たちは、シモドリを抱えて走り出す。目指すは太陽が見える場所。ここからでも見える高い丘。

 「もう少しだよ、頑張って!」

 「(…。)」

 <数分前>

 シモドリの願いを聞いた時、僕たちはシモドリが言っていた、「太陽が見える場所」を思い出した。けど、場所がわからない。

 「れ、レイス! この森で、太陽が見える場所、どこ!?」

 「太陽だって?」

 「そう! 見せてあげたいんだ。この子に、最期に見せてあげたいんだ!」

 「…ここから、太陽が見える場所。」

 レイスは高く浮遊し、遠くをきょろきょろする。明るくなってきた空をみては、首の動きで弧を描いてはぴたっと止まった。やがて、僕たちの元へ降りてきた。

 「ここから少し行ったところに丘がある。もしかしたら、そこが…。」

 「太陽の見える場所、なんだね?」

 「けど、いいのかい? 太陽が昇りきるまで、時間がない。今から行っても…。」

 「それでもいい! いや、その前に絶対辿りついて見せる!」

 僕たちは、すぐに走り出した。レイスは僕たちの背中を見送った。けど、それでいいんだ。ここから先は僕たちの責任だから。

 <現在>

 朝日が近い。僕たちの足じゃ間に合わないかもしれない。と弱気になりながらも足は止めない。

 お願い、間に合って。

 吐息が白くなり、空へと消えて行く。

 レイス 〜 白幻の森にて 〜

 「…行ってしまった。」

 僕は、スパイキー達の背中を見送りながらも半分諦めていた。ここから、あの丘まで辿り着くのにかなりの距離がある。僕やヴァンプ達のように君に翼か浮遊能力があれば、僕の風で手助けができたんだろうけど。

 エーヴェルと出会う前は、風に流されて旅をしていた。その道中に、生命が目の前で散っていく様を何度も見てきた。

 時には、見守り。時には、看取ったこともあった。僕のような風の精霊は常に人間に寄り添って生きている。だから、悲しむのも忘れるのも自然でいた。

 もし、自分がスパイキー達だったら。

 僕は彼らのような行動を取れただろうか?

 いや、答えはきっとノーだ。

 「…ごめんね。スパイキー・スパイク。君たちの幸運を願っているよ。」

 願わくば、君たちにいい風が、吹きますように。

 僕は、目を回しているヴァンプの足を持って、エーヴェル達の元へと飛んでいった。彼らの背中を押すように風が吹いている。僕はそれに逆らってしまうけど。

 スパイキー・スパイク 〜白幻の森にて 〜

 だんだんと夜が明けてきた。丘までもう少しだけど、間に合わないかもしれない。

 いや、諦めるな。まだ、まだ時間はあるんだ。

 「(…すぱい、き、すぱいく。…ぼく、いろんな、わるい、ことをしてしまった、けど…。ゆるして、くれた、の…は。きみた、ちが始めてだよ…。)」

 「うん、うん! 許すよ、何回だって、何千回だって! 何百回だって! 僕たちは、君を許すよ! だから、諦めないで!」

 「(…ふふ、やさし、ね。)」

 シモドリを抱えている腕がだんだん濡れてきた。溶けてきてるのだ。布でできた手が溶けた水を吸っているため重くなってきている。足もそうだ。雪を踏み続けて足が重くなってきた。そのせいで、走る速度も遅くなってきた。

 「大丈夫、大丈夫!」

 「(…、すぱい、き、すぱいく…、ぼく、はきみたちと、であえて、よかった。だか、ら、もういいんだよ。ぼくは、たい、ようを、みれ、た。)」

 「…え?」

 僕たちは思わず空を見た。まだ、太陽は昇っていない。腕の中で、途切れ途切れの声を出すシモドリを見る。体は出会ったときより小さくなり、目はもう閉じているのか開いているのかもわからない。

 「シモドリくん! しっかりして!」

 僕たちは地面に落ちている雪をすくい、シモドリにくっつける。少しでも延命させなければと思い、今にでも凍ってしまいそうな手で多くの雪をすくい取る。

 「シモドリくん…駄目だよ、もう少し、もう少しなんだ!」

 「(…ああ、ぼくは、すご、く、しあわ、せだよ…。)」

 「ま、待って、まだっ!」

 「(…か、あさ、んに、きみ、を…しょうか、いしたかっ…たな。)」

 横顔を昇ってきた朝日が照らした。僕たちの体を避けるように陽がシモドリを照らし出した。

 シモドリの体が光出す。やがて体が物凄い速さで溶けて行っているのがわかる。自分の手の中で体が溶けていくシモドリに成す術もなく僕たちは悔しさで涙を溢れさせた。

 「待って…まだ、僕たちはぁ…。」

 「(なかな、いで…。ぼくは、うれしかったんだ、よ。最期に、きみ、たちという…たいようを、みれて。よかった…。)」

 優しく微笑むシモドリに、僕たちの流した涙がぽたぽたと当たる。やがて、シモドリの体そのものが光に包まれた時。シモドリの体は小さな光の塊となり、空高く舞い上がった。

 優しく、生ぬるい風が吹くと小さな光の塊は空の彼方へと飛んでいった。そして、後から強く吹いた風の音に混じって声が聞こえた。

 ありがとう…。僕の、オトモダチ。

 どんなに小さくて命が短くとも、それは美しく儚いものだった。

 さようなら、僕たちのオトモダチ。

 僕たちは、涙を拭いながらサーカスへと帰る。冬の彼方へ、さようならを告げて。

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