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【淡路島カントリーゴルフ場】
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日本でも歴史の古い国際的な宝石商(ITOMOTO)の四代目会長伊藤政宗(79歳)は、目の前に広がる鳴門のうず潮を眺めながら、手入れされた芝生にティーを差し込んだ
そしてゴルフボールにキスをし、そのボールをティーの上にそっとのせた、何度も見て来た彼なりの願掛けである
鳴門の潮風が舞い、天気は快晴だ、政宗はぐっと集中力を高めて、目標までの距離を目測すると、クラブをかまえた、そして息を吐きだし、フルスイングを振った、
―パシッ―
ボールは次のホールのピンフラッグの近くのグリーンに綺麗に落ちた
「ナイスショット!」
「お見事ですな!」
いかにもおだての誉め言葉が続く中、竜馬が群衆から一歩踏み出し、拍手をしながら、自分も次の球をセットし、構えた
綺麗なフルスイングでボールを遠くのグリーンに落とす、的確に会長よりもわずかに外れた場所に
「ナイスショット!」
「さすがだな、竜馬君」
「いえいえ、会長にはかないません」
竜馬はチラリと政宗を見た、この男の事はよくわかっているつもりだが、実際の所は何を考えているのか読めない、色んな事を分かっているのに、まるで何事もなかったように振舞うこともありうる
「もっと若かったらプロを目指すのにな」
政宗は淡々と言ってドライバーを掲げた、竜馬はすばやく政宗のドライバーを受け取る
「お持ちします」
「ああ・・・ありがとう」
二人はゴルフカートに向かってゆっくり歩いた
「この年になったら、孫娘が目の中に入れても痛くなくてね、そしてあれは君をいたく好いておる」
政宗の言葉を受けて、竜馬の顔にさまざまな表情が現れては消えていった・・・しかし竜馬は常に一生涯の恩人の彼の横を、騎士のように歩き、抜け目ない会話を一つ一つ頭の中で吟味した
「地金は希少性が高く・・・価値が安定しているため・投資対象としても人気がある・・・実際、君のお父さんは生前は地金屋で素晴らしい富を築いた、あんなことがあるまではな」
「ハイ」
正宗がため息をついた
「しかし・・・人間は時には傲慢と言う悪魔にとり憑かれることがあるものだ、君のお父さんは地金を宝石よりも価値のあるものと考えた・・・そこが間違いだったんだ、幸いきみを路頭に迷わせるには、君は優秀過ぎた・・・喜んでワシは君のお父さんの借金の肩代わりをし、従業員を引き受けみんなが路頭に迷わないようにした、君の会社の事業資金の提供もしたよ」
政宗はそう言いながら痛風を患っている左足を引きずりながら、美しい芝生をゆっくり歩きながら、話を続ける
「もっとも、君に貸した金はもうとっくに利子をつけて返してもらっているがね、でもワシはこの縁を大切にしたいんじゃ」
竜馬は自分と政宗のドライバーをキャディに渡し、日傘を政宗に掲げて、歩調を合わせて隣を歩いた、常に竜馬は政宗より一歩引いて・・・月のような存在に徹する・・・竜馬を政宗が気に入っている所だ
「父の失態を会長に助けて頂いた御恩は・・・一生忘れません・・・」
政宗はホッホッホッと笑った
「いやいや恩などそんなことはどうでもいいんだよ、この縁でワシの可愛い孫娘と君が一緒になってくれることで、本当の意味で君はワシの息子だ・・・天国のお父さんもきっとそれを望んでいるよ、家族の絆はなにより強い、これからのitomotoとメビウスも血の繋がりによって、発展繁栄してくいくのが一番望ましい形だ」
政宗は笑って言った
「君もこれで晴れてワシの家族のような社会的権威階層、「エスタプリッシュメント」の仲間入りだ」
次のホールへ向かうのに、歩くには距離があり過ぎる、歩道にゴルフカートが待機していた、竜馬は政宗がカートに乗り込むのに手を貸した
「今回はワシの孫娘のわがままを聞いてくれて感謝しているよ、竜馬君、あの子は世間知らずだ、しかし人生で一度は、わが身を呈して、金を稼ぐことを学はなければいけない」
「とんでもございませんア・・・リスさんは申し分ないお嬢さんです」
「孫娘の結婚相手などみな同じだよ、竜馬君、隆盛著しい会社の若い経営層や、新興勢力は、いくらでもいる、大事なのは君がワシの義孫息子になるということだ」
政宗がかすれた声を響かせて機嫌よく笑った
「アリスが君の所で働きたいと言った時は驚いたが、君の所なら安心だ、ビシバシしごいてやってくれ」
キラリと正宗が目を光らせて竜馬の肩に手を置いて言った
「早く君を「孫息子」と呼びたいよ、なぁ・・竜馬君」
竜馬は無言で頭をさげた
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【メビウス・広告マーケティング部】
ある日、季節外れの人事異動報告が各部署にメール配信された。そして元神崎広告代理店は新しい部署名(メビウスホールディングス・広告マーケティング部)にも、一人の人事移動報告が出た
さらに、月曜日の朝「メビウス人事部長」がジェニ達のオフィスに新人を一人連れて来た、その女性は小柄で可愛らしい女の子だった
中堅の小柄で七三分け頭に、丸い眼鏡をかけた人事部長はみんなに「くいだおれ」と呼ばれ「くいだおれ部長」がなよなよと力ない声で「がんばっとるかぁ~」と朝のダジャレを言い、それを聞いた神崎のみんなはお約束の様に一斉にずっこけた
そしてくいだおれ部長は本題に入り、新しく配属された彼女を紹介した
「当社には~お客様と直接向き合って仕事をする「営業部」とぉ~広告を作成する「技術部」とぉ~それを支える事務職がありますがぁ~、過去よりも今よりも明日を良くしたいという思いはぁ~、みな共通ですぅ~彼女にはマーケティング部の事務職全般を~お願いしたいと思いますぅ~」
くいだおれ部長の挨拶の後、ジェニと藤子達がパラパラと拍手した、そして彼女が一歩前に出てペコリと小さくお辞儀した
「伊藤アリスです。よろしくお願いします」
ボソッ・・・「文也君が言ってたけど、彼女社長の婚約者だって」
藤子が真紀にコソッと耳打ちした
「どうしてそんな人がうちに?」
「婚約者なら第一秘書課とかに普通行かない?」
藤子も非難がましく付け足した
「どっちにしても事務仕事してくれたら助かるけどね」
「今までいなかったからね、でも使いにくい人が来たわね」
二人の会話を後ろで聞いていたジェニは・・・誰にも気づかれないように内側の頬を軽く噛んだ・・・
―どうしてそんな人がうちの課にやってきたのだろう・・・―
ジェニの心は揺れていた
伊藤アリスさん・・・
竜馬さんの・・・婚約者・・・
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コメント
1件
いやあ、このエピソード、すごく重層的で面白かったです。政宗会長のゴルフ場での会話から、竜馬の過去や立場、そして「エスタプリッシュメント」という言葉に象徴される階級社会の空気感がひしひしと伝わってきました。特に、竜馬が常に会長より一歩引いて歩く“月のような存在”という描写が印象的で、彼の恩義と立場の微妙なバランスがにじみ出ていて好きです。そして最後のオフィスシーン、ジェニの内側の頬を噛む仕草に、彼女の複雑な心境が凝縮されていて、次の展開が気になりますね。
latte
732
芙月みひろ
494
#溺愛
桜咲かな
592
#長編
結愛
319