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「こっちに土トカゲの串追加ー!!」
「子供にハンバーグお願いー!」
「カツも天ぷらもまだまだあるよー!
ミソ煮込みもどうぞー!!」
土トカゲの群れの撃退に成功し―――
魔界王・フィリシュタさんの城及び城下町への
損害をほぼゼロに抑えた後、
大量の肉を手に入れた事で、各所でかつてない
賑わいを見せていた。
「おおー。
本当にミソって便利ですね」
「本来はダシを入れるんですが、味噌だけでも
味付けは出来ますから」
料理に興味のある魔族の方々に、各種の調理法を
教えながら……
私も土トカゲの消費を手伝っていた。
結局、突進を食い止め―――
獲物として入手したのはおよそ800ほど。
私が『無効化』したのが700、
ジャンさんが右サイドで倒したのが50、
左サイドのメルと後から合流したアルテリーゼが
その残り、といった具合。
調理出来る分は片っ端から加工し……
余りは氷魔法を使える魔族の人に冷凍して
もらった。
「シンー、そっちはどう?」
「こっちはもう少しで材料が切れそうじゃ」
「ピュ~」
同じ黒髪の―――
セミロングのアジアンテイストのメルと、
ロングの西洋モデル風のアルテリーゼが、
ドラゴンの子供と一緒にやって来た。
『材料が切れそう』というのは、一応調味料を
持って来ていたのだが、あくまでも宴用であり
大々的にする事は想定外だったため、
味噌を始め、マヨネーズやソース、タルタルなどが
あっという間に底を突きかけていたのである。
塩だけでもまあ美味しいけど、と思っていると、
「シンさん、追加です!」
「マヨネーズ、タルタル、醤油にソース、
めんつゆもお持ちしましたー!!
あとカツに使うパン粉も!」
そう言いながら駆け付けてきたのは―――
外ハネしたミディアムボブの髪型の魔族と、
ダークエルフのような褐色肌の女性二名。
イスティールさんとオルディラさんだ。
「ありがとうございます!
助かります!」
彼女たちに頼んで、公都『ヤマト』へ追加発注を
行ったのだ。
おかげで公都は今―――
調味料作りでにわかに活気付いているとの事。
「これで調理は何とかなるかな。
でも問題は―――」
痛くなった腰を伸ばすようにして、くの字になって
空を見上げる。
「見事に肉しかない……って事だよねえ」
「偏り過ぎじゃの。
野菜や葉物があればいいのだが」
「ピュウ」
小麦っぽい物はあったが、とうてい足りるとは
思えない貯蔵量で―――
だからと言って穀物類を公都に要請も出来ない。
地上は今、冬なのだ。
今や二千人以上となった公都から、そうおいそれと
無心は出来ない。
ならば、今回大量に獲れた土トカゲの肉と交換なら
どうかと思ったが……
向こうでパック夫妻に調べてもらった結果、
『ちょっと魔力が多過ぎですね……』
『大人なら多少食べても問題はありませんが―――
少なくとも子供には食べさせられません』
と、高カロリーならぬ高魔力食品だと判明し、
NGを出されてしまったのである。
「野菜や穀物は……」
「やはり、今回は出せないという事でして」
「交換出来る物であれば良かったんですけど」
イスティールさんとオルディラさんが、
申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえ、お2人の責任ではありませんから。
しかし困ったな……
肉以外、せいぜい味噌汁くらいしか植物性の
ものが無いとなると」
健康や栄養バランスを考えれば、決して良いとは
言えまい。
何より魔族にも子供がいるから、彼らの事を
考えると―――
「しかし、そこまで考えて頂かなくとも」
「ええ。何でもかんでもシンさんの手を
煩わせるわけには」
魔族の女性二名が擁護するように話す。
しかし、これはどちらかと言うと自分の意地、
こだわりのようなものだ。
「大豆なら結構余っているって聞いたけどね」
「こっちで豆腐やら油揚げやら作るか?」
「ピュピュ?」
メルとアルテリーゼが代案として聞いてくる。
小麦や米、芋類に比べれば優先順位が低いのか、
それとも主に味噌や醤油の原料として使っている
からか、そちらは余裕があるらしい。
……待てよ。
私はふと、褐色肌に真っ白な長髪を持つ女性と
目を合わせ、
「オルディラさん。
納豆ってどれくらい用意出来ます?」
「―――!
お望みであれば、いくらでも」
目を光らせ鼻息の荒くなった彼女とは対照的に、
周囲は微妙な表情となり、
「あの……いくら何でも、それは」
「そーだよ、シン!」
「せっかく肉で盛り上がっているところに、
それは暴挙じゃぞ?」
「ピュッピュ!」
総スカンを食らうような形になるが、
「まあ、そのまま出す事はないよ。
一応見てもらった方がいいか。
たいして手間もかからないから」
彼女たちをなだめ、とにかくやってみる事にした。
「包丁?」
「どうするのだ?
まさか納豆を切るというのか?
というか切れるのか?」
妻二人が、不安気な目でそれを見る。
まな板に見立てた木の板の上に納豆を置き、
包丁を手に取る。そして……
トントン、と叩くように納豆を刻んでいく。
「た、確かに細かくなっていきますが―――」
「これをいったい、何に使うおつもりで
しょうか?」
魔族の二人の女性も、はらはらしながらそれを
見つめ……
ある程度刻んだところで、包丁と手で挟むように
して納豆を持ち、
作り置きのお味噌汁へと投入。
『うぉ』『ぬわ』という声をスルーして、
そのまま温め直し、
「では、試食を―――」
そう言ってまずはオルディラさんへ渡す。
彼女は器に鼻を近付け、クンクンと嗅いで
いたが、
「……あの強烈な匂いがほとんど消えてますね。
他にもっと具があれば、嫌いな方でも気に
ならないくらいになるんじゃないでしょうか」
説明しながら今度は口を近付け、すする。
ズズ……という音と共に飲み込まれ、
「何とも……落ち着いた味です。
同じ豆から出来ているからか、相性はすごく
いいです」
それを見ていた他の女性陣も、手に手に
器を持って、
「あ……」
まずイスティールさんが目を丸くし、
「アレ? なかなかイケる?
これなら食べられる人もいるんじゃない?」
「スープで薄められたからか、匂いも粘りも
大人しくなっておるのう」
「ピュー」
家族も、それまでとは違う感想を口にする。
「ひきわり汁とか、納豆汁とか言うんですけどね。
私の世界というか国では、割とポピュラーな
食べ方でした」
私も手を洗った後、久しぶりのそれを味わう。
すると、オルディラさんがジト目で私をにらみ、
「何で今まで教えてくれなかったんですかぁ~……
これなら、もっと納豆を普及出来たかも知れない
のにぃ~……」
「すいません!
素で忘れていました!!」
私の両肩をつかむ彼女を、イスティールさんや
メル、アルテリーゼが何とか引き離し……
現地の魔族の協力も得て、ひきわり汁の量産体制へ
入った。
「おお、こりゃ確かにウマイな」
「肉以外で、こんなに美味しいものが
あるなんてねー」
筋肉質のアラフィフの男と、美形なエルフといった
体の、ロングの金髪を持つ魔族の女性が、汁物を
すすりながら語る。
「悪くない。
これならば余の好みだ」
「しかし、これが両方とも豆から作られて
いるなんて―――」
薄黄色の短髪を持つ幼い少年のような外見の
魔王と、
細身の魔法剣士といった格好の女性が、
椀に入った中身を見つめていた。
「複雑で、それでいて深い味わいですねぇ」
「何でもいいんだよ!
ウマけりゃよお!!」
魔導士のような男が両手でお椀を持って口を付け、
スキンヘッドにゴツい鎧を着込んだ大男が、豪快に
ガブ飲みする。
「これは……
この豆は、魔界でも育つのでしょうか」
ネズミのような丸耳をした、丸眼鏡をかけた
秘書官がたずねてくる。
「多分、栽培するのは問題無いと思いますよ。
ただずっと一ヶ所で育てるのは問題が―――」
大豆は基本的にどの土地でも、それほど手間を
かけずとも育つが、連作障害が出やすい植物
でもある。
その点さえ注意すれば大丈夫だと説明。
「醤油や、この納豆とかは」
続いての質問に、私はオルディラさんの方を見て
回答を譲る。
実質、担当者のようなものだし……
今や私より作り方に関しては精通している、
専門家といっていいだろう。
「醤油や味噌は少々手間がかかりますが、
麹や菌さえあれば割と簡単ですよ。
納豆なんかは、もともと納豆を包んでいた
ワラに、蒸した大豆を放り込んで―――
それで数日放置すれば完成です」
彼女の言葉に、マギア様とイスティールさんが
反応し、
「意外と簡単に出来るものなのだな」
「もっとこう、複雑な手順や工程があると思って
いましたけど」
オルディラさんは一口、ひきわり汁を飲んで、
「その分、品質は落ちますけどね。
あと先ほども言いましたが、麹や菌があれば
発酵食品は単純に作れるのです。
その麹も菌もすでにこちらが提供出来るので、
技術導入にさしたる問題はないと考えます」
ふむふむ、と魔界側の魔族がうなずく一方で、
魔界王様が口を開き、
「しかしねー。
そうなると余計、こちら側が出せる物が……
シン、何かいいもの見つけた?」
「いえ、いきなりあの土トカゲの襲撃が
ありましたので、調べるどころでは」
フィリシュタさんの質問に、苦笑で答える。
「ありゃー本当に災難だった。
しかし、あの群れを直線で突っ切るだけで、
城下町を守る事が出来たなんて……
いったいどんなカラクリ?」
彼女の質問に私は頭をかいて、
「群れを倒すのではなく、方向をそらせた
だけです。
ベクトル、という考えがあるのですが―――
群れに対し、大勢で真正面から対抗するのでは
なく……
方向を変えさせる事を目的に動いただけです」
城下町を狙っての突進ならともかく、ただ通り道に
あるだけなら、そこに執着する理由はない。
前方にいる仲間たちが次々と倒され、何か危険が
前方から迫ってくると認識したのなら―――
生存本能として方向を変えるのは当たり前。
さらに一直線に『脅威』が城下町からやってきたと
するなら、そこを避けようとするのは当然だろう。
「フーム……
それなら、次にアイツらが来ても対処は
可能かな」
魔界王が独り言のようにつぶやき、次いで、
「でも困りましたね。
結局、交易に使えそうな品がまだ見つかって
いない事には代わりないんですから」
秘書官が眉間にシワを寄せて話を元に戻す。
そこでジャンさんが、
「当面は、最初に持ってきた鉱石とかで
いいんじゃねぇか?
アレ、すげぇ濃い魔力をしていたぜ」
それを聞いたミッチーさんとジアネルさんが
振り向き、
「はあ、確かに魔力は濃かったと思いますが」
「地上では珍しいのか?
そういう装飾品を人間は好むのか?」
と、それぞれ疑問を口にするが、ギルド長は続けて
「魔導具に使えるんだよ。
アレも動力は魔力だから、特殊な鉱石に
魔力を溜めておくんだが……
やっぱり鉱石によって、溜めておく量に
差があるらしいんだ。
技術者じゃねぇから詳しくはわからんが、
あれだけ魔力が濃い石って事は、その分
溜められる量もでけぇって事になる」
つまりバッテリーのようなものか。
それも大容量の。
魔導士タイプのメレニアさんが興味を持ったのか、
「ほほお、人間も同じ事を考えるんですねぇ。
ちなみに、どんな物があるんですかねぇ?」
ジアネルさんも、浮遊城に何やら仕掛けたとか
言ってたし、似たような物があるのかも。
今度はメルとアルテリーゼが会話に参加し、
「外灯とか送風器?
夜でも道を明るく照らすとか、暑い時に
風を送るとか」
「あと料理補助のための魔導具なら、
王都で見たのう」
「ピュウ」
するとアーゴードさんが首を傾げ、
「何だそりゃ?
ンな事して何の意味がある?
何の戦力にもならなねぇだろ」
「これだから脳筋は困りますねぇ」
「ンだとコラ!!」
魔導士タイプと戦士タイプの魔族が言い争い、
「大人しくしてよー。
ここは私の城だぞ?」
魔界王の言葉に、二人ともピタッと止まる。
「しかし、有益な情報には違いあるまい。
フィリシュタ、その石が採れる鉱山などは
所有して無いのか?」
少年の姿の魔王が魔界王の女性に問うと、
「こう……ざん?」
理解不能の言葉を聞いたかのような反応が
彼女から返ってきて、
「えーと、言い方を変えましょう。
そういった石は、一ヶ所の土地や山に
集中している事が多いのです」
「ですので、そういう石が転がっていたり、
よく出てくる場所はありませんか?」
フィリシュタさんは数秒ほど両目を閉じて、
考えたり思い出したりしていたようだが、
「ミッチー、お願い」
「は、はい。
ええと、前回お渡ししました交易品の中で……」
説明をバトンタッチされた秘書官により、
詳しい話を聞くことになった。
「……なるほど。
洞窟みたいなところはある、と」
「はい。ただ魔物の巣窟になっている場所も
あるので、魔族でも要注意なのです」
ミッチーさんから一通り情報を聞いて、自分の中で
整理する。
人工的に、かつ計画的に鉱石が掘られる事は無い。
城や建物の材料に使う石材を調達する事はある
らしいが……
それもその都度、どこかで見つけてきて、という
感じ。
基本的には個人が必要な分だけ採取するだけで、
危険な場所に挑むのは当人次第だという。
ある意味、究極の実力主義と極端な個人主義が
半々で混じり合ったような世界だし。
「しかし―――
まるでダンジョンだなあ」
「だんじょん?」
「何じゃ、それは?」
「ピューウ?」
思わず口に出てしまい、それを家族が目ざとく
聞き返してくる。
「これも物語というか想像上のものなんだけど……
洞窟が迷路みたいになっていて、その中に魔物が
たくさんいて―――
その攻略をするのが『冒険者』なんだよ」
ファンタジーの定番であり、異世界ものの
セオリー。
それをメルとアルテリーゼに説明する。
「攻略って?
それやったら何かいい事でもあるの?」
「中に宝箱や罠があったり、最奥で強い魔物が
待ち構えていたりもしますが」
魔界王の質問に私は答え、
「宝箱に罠? それは誰が用意するのだ?」
マギア様がするどいツッコミを入れて来て、
「それに最奥に魔物と言いましても。
防御拠点なら考えられますが、そこに戦力を
集中させたとしても、無視されたら終わりでは」
「そもそも、罠があるとわかっているところに、
わざわざ飛び込んでいく意味がわかりません」
部下の魔族女性二名の正論に―――
心の中でソーデスネー、としか言えず、
「いえあの、あくまでも物語、
創作ですので……」
やや困って答えているとジャンさんが、
「シンはなあ……
合理的な事を言っているかと思えば、
時々意味ワカラン事も言うから」
フォローなのか容認なのかわからない事を
言われ、
「当たりハズレが大きいんだよねー、
シンは」
「当たりの方が多いし―――
ハズレもまあ、実害があるようなものでは
無いのが救いじゃが」
「ピュウゥウ~」
家族も追認というか、呆れるような感じで話す。
「それで、話を元に戻しますが―――
攻略というのは?」
「私も興味がありますねぇ。
何をもって攻略とするのか」
ジアネルさんとメレニアさんも食いついてきて、
「たいていは……
一番奥までたどり着いたら、クリアですかね」
「敵全部叩きのめしてか?
1人で?」
アーゴードさんも話にノッてくる。
「基本的には―――
複数の人数でパーティーと呼ばれる班を組み、
中を探索するのが普通で……」
「そっかー。
行ってくれるんだねー。
すごく助かるー♪」
「……はい?」
説明の途中でフィリシュタさんが何事か決め、
さらに進めた事に―――
私は間の抜けた声を上げた。
「あのー、何かすいません。
フィリシュタ様、言い出したら聞かなくて」
身を縮めるようにして、秘書官の魔族が
頭を下げる。
「しっかし、人使いが荒いな。
ま、俺は大歓迎だけど」
「ギルド長、まだ暴れ足りないんですか?」
ジャンさんがウォーミングアップのように
体をほぐし、それをメルが呆れながら見ている。
「ここぞとばかりに使ってくれるのう、
本当に」
「で、でもここの鉱石が安全に採れるように
なれば、有力な交易品となるから」
もう一人の妻、アルテリーゼになだめるように
話しかける。
とある岩山に開いた洞窟入口の前で―――
私たちは、ここの調査及び探索の準備を
していた。
あれからなし崩しに、有力な洞窟の『攻略』を
フィリシュタさんから依頼され……
またギルド長もノリ気だった事もあり、
土トカゲの群れ襲来の翌日―――
ミッチーさんの案内でここを訪れていた。
(ラッチはお城預かり)
彼女の話によると、この岩山の洞窟から
採れる鉱石が、特に魔力が高いらしい。
ただ人の手はほとんど入っておらず、魔物の
住処にもなっているので……
よほどの物好きか、腕試しがてらに入る魔族しか
いないとの事。
またそういう者がいたという事は、一応中は
空気が通っており、酸欠の心配は無いのだろう。
「アルテリーゼ、念のため風を送り込んで」
「わかったぞ」
ドラゴンである彼女は、たいていの魔法を
一通り使える。
個人的には水と土が苦手らしいが、
人間からすれば膨大な魔力が元となっている
それは、シルバークラスに匹敵するらしい。
入口から流し込み、電車がトンネルの中を
通過するような音が聞こえ―――
やがて静まると同時に、ガチャガチャと金属を
こすり合わせるような音が響く。
「……何の音?」
「た、多分石蝙蝠ではないかと。
こういったところを好んで巣にするようです」
私の質問に、地元の秘書官が答える。
「デカいコウモリって事か?」
「それだけではなく、防御力も高いです。
鉱石を食べているからと言われておりますが」
今度はジャンさんが質問し、それにまた
ミッチーさんが答え―――
「とっととやっちゃいましょ。
一番奥まで行って帰ってくればいいのね?」
「は、はい!
明かりは私が担当いたしますので。
―――『灯』!」
メルの言葉の後に、このパーティーの中では唯一の
魔族が、入口に手をかざすと……
途端にまばゆい光に照らされる。
「おお、こりゃスゲぇ」
「便利じゃのう」
まるで室内の照明のように、通路が歩き
やすくなり、先を進む。
光だけなら魔導具でも可能だろうが、この灯は……
パーティー全体どころか、洞窟内の先の先まで
見通せる。
「しかし長いですね……
帰り道は大丈夫でしょうか」
迷ったりしたら―――
ふと、そんな恐怖が頭をよぎる。
「私が覚えておりますので、大丈夫です。
『記憶魔法』もありますし」
そんなところまでミリアさんに似ているのか。
後で会わせてみたいな。
「―――!
かなり広いところに出た。
……って事は」
ギルド長が剣を片手に身構える。
同時に、風圧がパーティーを襲い、
「……ッ」
目を閉じると斬撃の音が聞こえ、
両側を風と一緒に何かが通り抜けていった。
振り向くと、真っ二つにされた魔物の体が
転がっていて、
「さすがギルド長。
一刀両断ですか」
「やるのう」
メルとアルテリーゼがそれを称え、
「み、見えなかった……」
ミッチーさんが眼鏡に手をかけながら
感想を話す。
「これが、石蝙蝠ですか?」
体長にしておよそ三メートルほどの死体を見て、
魔族の彼女に確認を取る。
「そうですね。
エサが鉱石のせいか、体が硬質化しており
まして―――」
しかし、見事に半分にされたものの……
どちらかというと外見は、プテラノドンに近く、
「コウモリっていうか、こんな魔物
見た事もねぇぞ。
それを言うなら、昨日の土トカゲもそうだが」
「まあ魔界だし?」
「妙な生き物よのう」
死体を一瞥すると―――
パーティーはいつの間にかジャンさんを
先頭に、奥へと進んでいった。
「ここは……」
「た、多分一番奥だと思われますが」
私たちがたどり着いた『そこ』は―――
まるで吹き抜けのように、恐ろしく天井が
高い空間。
さらには、上部分でこれまでの道中で倒してきた、
翼竜らしき群れが飛んでいた。
そして……
「あれがキング―――
いや、クィーンか?」
「でかっ!」
「ヒミコくらいの大きさだのう」
岩壁に逆さまにぶら下がるようにして、
七・八メートルはあろうかという巨大な
プテラノドンが、こちらをにらみつける。
どうしてこういうところだけ、既存のコウモリに
似ているのか、と思っていると、
「あ、あわわわわ……
多分あれ、この群れのボスです!」
「見りゃわかる」
ミッチーさんの言葉に、ジャンさんは
事も無げに答える。
ずっと見上げて首が痛くなってきたところで、
ふと、そのボスが口を開き―――
火球でも撃ってくるのか? と思って
身構えていると、
「―――!!
避けろっ!!」
ギルド長の一声で、メルとアルテリーゼが
私の両手を引っ張って飛び、
ジャンさんはミッチーさんを片手で抱えて
その場から離脱する。
同時に、さっきまで我々がいた場所に土煙が
上がり……
「だ、大丈夫、シン!?」
「あ、ああ」
「そっちの2人も無事か!?」
三人と二人の二手に別れ、まずはお互いに
無事を確認し、
「こっちも無事だ!
しかし何だありゃ!
何も見えなかったぞ!
おい、何したかわかるか?」
「わわ、わかりません~!
何も見えなかったです~!」
魔族の彼女の知識にも無い攻撃か。
厄介だな。
そうしている間にも、二発目、三発目が
撃たれ―――
「うおっとと!」
「うひゃ!?」
精度がそれほど高くないためか、直撃は
免れているが……
一方的な遠距離攻撃にさらされる。
「ぬう、シン!
ドラゴンになってあやつを倒すか!?」
「待ってくれ!
どんな攻撃がわからない内は危険だ!」
それに肉弾戦ならともかく―――
アルテリーゼに火球なんて放たれたら、
この洞窟が崩壊する可能性もある。
しかし、この『見えない攻撃』は何なのか。
いっそプテラノドンごと無効化してしまえば
いいかとも考えるが……
ただその場合―――
この攻撃を無効化したわけではない。
すぐに絶命するならまだしも、最後の力を
振り絞って反撃、なんて事になったら目も
あてられない。
……いや、待てよ。
一応あの攻撃はこちらを狙ってきたものだ。
じゃあ、どうしてこちらを狙えるんだ?
今はミッチーさんの灯魔法があるから、
こちらも見えるが、そもそも彼らは暗闇の
洞窟の中で生活していたはず。
そしてコウモリのようにぶら下がっていた―――
という事は……
「……ジャンさん!」
私が叫ぶと、『無効化』に同意したのか、
彼もコクリとうなずく。
あの攻撃は多分、『超音波』。
レーダーのようにそれを発し、返ってくる
地形や獲物を察知しているのだろう。
それに多分魔力を上乗せし―――
衝撃波となって、見えない攻撃になっているに
違いない。
その推測が正しければ……
「魔力で強大な威力となる―――
そんな超音波など、
・・・・・
あり得ない」
動き続ける中、私が小声でつぶやくと、
「ッ!?
グギギャッ、グゲッ!?」
巨大な翼竜が天井にぶら下がったまま、
何度も口を開け、困惑にも似た鳴き声を出す。
「メル! ミッチーを頼むぜ!」
「あいよっ!
アルちゃん、シンお願い!」
それで察したのか、ギルド長が秘書官を
放り投げ、メルがキャッチ。
同時に私もアルテリーゼに、お姫様抱っこのように
抱えられ……
そしてジャンさんは両手にショートソードを
構え直すと、
「ん?」
「え?」
私たちが見ている目の前で大きくジャンプ。
その先の岩壁に剣を突き立てて―――
それを軸に腕の力だけでさらに上へと跳躍。
(もちろん身体強化も使っているだろうが)
ショートソード二本を岩壁へと、登山家が打ち込む
ようにして、それを起点とし、
あっという間に天井近くにまで迫ると、
「あばよ―――」
ギルド長は元の剣に持ち替え……
ボスの翼竜の首を斬り落とした。
「クエエェッ!?」
「ギエェーッ!? グエーッ!!」
群れは統率者を失い、しばらく上の方を
旋回していたが、
どこかに外へ通じる抜け穴でもあるのか、
次第にその数を減らし―――
やがて一匹もいなくなった。