遥香が旅行に出かけると、広瀬さん、北田さん、前川さんの全員がホッとしている気がする。
私への嫌がらせを聞いているだけでも気分が良くないだろうし、最近では文句を言わない私を変わり者として扱うように、3人は業務上必要最低限の会話しか私としなくなっている。
「ちょっとっ、誰かいるかしら?」
ダイニングの清掃をする私と広瀬さん、キッチンの清掃をする北田さんと前川さんは、隣同士の空間にいるので一斉に手を止めて、甲高い声を上げながらやってきた奥様を見た。
「誰か、私の新しいネックレスを知らない?先月買った物なんだけど、どこにもないのよ」
「私たちは奥様のジュエリーには触れませんから、わかりかねますがご一緒に探しましょうか?」
北田さんがそう言うのを聞きながら、この奥様も遥香と変わらぬ魂の持ち主なのだろうと思う。
私たちに対する声のトーンや口調が、母子でそっくりだ。
「触れませんというのはこれまでのことで、この真奈美っていう子は触ったかもしれないでしょ?」
え……私?
遥香がいなくてもこうなるのか……という空気が漂う中、ここは身の潔白を証明しないといけないと口を開く。
「私は奥様のお部屋清掃の担当をしていませんので、入室もしていません」
「担当でなくても、入ることは可能でしょ?」
「入っていません。ネックレス……最後に着用されたのはいつですか?その時のお洋服やバッグのポケット……」
「まだ新品なの」
そんなもの誰も知らない。
私たち4人が顔を見合わせ、知らない…と目配せし合う。
「私がお部屋の清掃もしていますから、探すのも適任だと思いますので、奥様と一緒に探します」
北田さんがそう言ってキッチン清掃のために着けていた手袋を外すのを見ながら、私はあることを思い出した。
「奥様……もしかしてですけれど……」
「何よ?やっぱりアナタが盗ったって白状する?」
本当に似た口調の母子だね。
「そのネックレスは、雑誌の表紙を飾ったタレントがつけていたという少し大きなタイプのシルバーネックレスですか?」
「あら…やっぱりアナタ、よく知っているじゃない?その通りよ。どこにやったの?まさか売ったりしてないわよね?」
北田さんたちも疑わし気に私を見たけれど
「数日前に遥香様がシンプルなワンピースにそのネックレスをつけて投稿されていた、ネックレスの紹介内容です」
と、私は事実を伝えるのみ。
「へっ?遥香が……?」
一気に勢いを弱めた奥様はスマホを操作すると
「……遥香なら仕方ないわね」
とスマホを眺めたまま戻って行った。
コメント
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似たもの親子だわね。あっこの方も取って付けた奥様だったわ。
ヲイ!謝罪せい。オバハン
はぁ… 真奈美ちゃん、これからは自分の部屋の中を毎日必ずチェックをした方がいいよ。 タブレットとかそういう復讐のための大事なアイテムをわからない所に隠さないと! あれは勝手入るだろうし、盗人扱いに仕立てあげられちゃうよ。 小型の音声付き隠しカメラこっそりつけてもいいかも。念には念を…