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「お、美味そうな料理が並んでるな」
夜、啓介さんが帰宅する時間に合わせて料理をテーブルに並べて置いた事もあって、数々の料理を前にした啓介さんは『美味そう』と嬉しそうに言葉を零していた。
「いただきます」
そして、四人で食卓に着いて食べ始めた。
「やっぱり美味いな、雫の唐揚げは」
「あら、どういう風の吹き回し? いつもは褒めたりしないくせに」
「んな事ねぇだろ? 美味い時は美味いって言ってるっての」
「そうだったかしら? 滅多に無い事だから記憶に無いわ」
「あーそーかよ。ったく、相変わらず可愛げのねぇ女だな、お前は」
「啓介相手に可愛さなんて必要ないでしょ」
相変わらずというべきなのか、啓介さんと雫さんは喧嘩とまではいかないもののすぐに言い合いが始まってしまい、その度に私と由季くんは顔を見合わせて苦笑い。
「ん、この肉じゃがは雫の味付けじゃねぇな?」
「あ、それは私です……お口に、合わなかったでしょうか?」
「いや、美味いよ。雫も上手いけど、璃々子さんもなかなか上手いよ」
「そんな事無いですけど、褒めて貰えて嬉しいです」
「本当に美味しいよ、璃々子さんの料理」
「ふふ、由季くんも、ありがとう」
料理を褒めてもらったり、笑い合いながらご飯を食べるなんてすごく新鮮で、自然と笑みが溢れていく。
(良いな、こういうの)
貴哉と居たら、きっと知る事の無かった食卓風景。
貴哉と離婚さえすれば、もっともっと色々な世界を見られるのかと思うと、一分一秒でも早く離婚したくなっていく。
楽しい夕食を終えて由季くんと啓介さんが片付けをしてくれているさなか、私は雫さんと離婚へ向けての準備を始めていた。
「まずは書面で離婚の意思を伝えるけど、はっきり言ってこれだけで上手くいくケースはほぼ無いわ。離婚を渋る相手は必ず対策を立ててくる。弁護士は、恐らくもう雇ってるでしょうね。だけど、相手の方が圧倒的に不利だし、とにかく璃々子さんが今気をつけなきゃいけない事は、由季くんと二人になる事。男女が二人きりになれば、親密であろうがなかろうが必ずそこを理由に挙げて相手も何かを要求してくる恐れはあるからね」
「……はい」
「その為に、啓介が居るこの家に住むとは聞いたけど……男二人が住む家に女一人っていうのもね……親族ならまだしも璃々子さんは赤の他人な訳だし……」
「やっぱり、まずいでしょうか?」
「まあ、啓介も由季くんも探偵だし、相談を受けた貴方を保護しているという名目だから駄目では無いけど、多少のマイナスにはなるかもしれない……いっその事、私の家に住んでくれても構わないけど、仕事の関係で朝早くから夜遅くまで家を空ける事が殆どだから……璃々子さん一人の時に何かあったら困るわよね……」
言いながら雫さんは考え込む仕草をする。
それから少しして、
「いいわ、私も暫くここに戻って一緒住む。それが一番ね」
「え……でも、いいんですか?」
「啓介とはあくまでも円満別居だもの。子供が帰省してる時なんかもここに泊まるしね、問題無いわ」
雫さんが暫くこの家に戻って来るという話で、私の住まいについての問題は解消される事になった。
それから雫さんを筆頭に書面での離婚意思表示やそれについての理由などを書き連ねた手紙を作成して貰って今日はお開きになった。
お風呂を済ませ充てがわれた部屋のベッドの上に腰掛けながら、これからの事を考える。
(本当に良かったのかな? 雫さんと啓介さん、いくら円満別居だからって私のせいで暫く一緒に生活するだなんて……)
そんな事を考えながら、雫さんから貰っていたDV被害者向けの相談、支援内容などが書かれた記事を纏めた資料を手に取ってみる。
(私みたいな人って結構沢山いるんだな……。そう言えば、このシェルターっていうの、ここに頼ればみんなに迷惑をかけなくて済むよね……あ、でも自治体によって色々条件があるんだ……)
以前調べた時にもシェルターの存在を見たけれど、場所によってはお金がかかるところもあるし、制限が厳しいところも多い……なんていう記事を目にした事もあったし、当時はとにかく証拠を集めるまでは家を出たく無かったから視野には入れていなかった。
でも、家を出た今ならこういう施設に頼る事が一番なのではと気付く。
そこへ、「璃々子さん、少し良い?」という声と共に部屋の外からドアがノックされる。
「由季くん? どうぞ」
その声は由季くんのもので、何か話があるのかと思い「どうぞ」と返すとドアが開いて彼が中へ入って来た。