「それにしても困りましたね。
皆さん、どうやったら出てこられるんでしょう?」
と壱花が呟くと、冨樫が、
「そもそも、何故、この花札は次々あやかしを吸い込んでいるのか?
が問題ですよね」
と壱花と斑目の手にある花札を見ながら言ってきた。
すると、斑目が言う。
「そりゃやっぱり、白いままじゃ寂しいから、絵柄が欲しいんだろうよ。
きっとこの花札を作っていた職人が作っている途中で死んだんだ。
花札はすべての札に絵を入れ、立派な花札となって、立派に博打で使ってもらいたいんじゃないのか?」
意外と想像力豊かですね、斑目さん……と壱花が思ったとき、斑目が、
「そうだ。
この花札を使って、賭けをしないか?」
と言い出した。
「俺が負けたら、お前らの秘密はバラさない」
「俺たちの秘密ってなんだ」
「この福利厚生施設な、見世物小屋兼駄菓子屋でお前が愛人を雇って稼いでいることだろうよ」
「……どれひとつ合っていないのに、何故、俺がその賭けに乗る必要がある。
っていうか、この事態になんにも動じてないお前が怖いぞ」
そう倫太郎は言ったのだが、斑目はケロッとして言ってきた。
「世の中にはいろいろと不思議なこともあるだろう。
山に登って俺が呼べば、いつでもUFOが来るように」
「……斑目。
キャンプのとき見たあれは宵の明星だぞ」
「いや、確かに俺に向かって瞬いていたっ。
あれはUFOだっ」
「コンタクト入れろっ、このど近眼っ!」
「入ってるっ」
と幼なじみ二人は揉めはじめる。
冨樫はそんな二人はスルーして、あの赤い箱を手に呟いていた。
「しかし、百鬼夜行花札か。
名前からして怪しいな」
「百鬼夜行って、どんなんでしたっけ?」
と壱花が問うと、
「妖怪大行列みたいな奴じゃなかったか?
安倍晴明とか、小野篁とかが遭遇したとかいう」
と冨樫が教えてくれる。
そこで、斑目と小競り合いを続けながらこちらを向いた倫太郎が、
「百鬼夜行に遭遇すると死ぬんだよ」
と言ったあとで、
「そうだ。
こいつを遭遇させたらいい。
完全犯罪だ」
と斑目と取っ組み合いながら言い出した。
……そのあやかしによる完全犯罪、最初に私が言ったのと同じですよね。
っていうか、じゃれ合ってるようにしか見ないんですが、と思いながら、壱花はふたりが揉めるのを眺めていた。
すると、冨樫が、
「花札やって成仏させるのはいいんですが、まだ白い札がありますよ。
誰が吸い込まれます?」
と白い札を子狸と子河童たちに見せて、震え上がらせる。
「あ、そうだ。
絵とか描いたらどうですか?」
と壱花は言ってみた。
「あやかしの絵を描いて、とりあえず、札にするんです」
壱花はカウンターの上に札を一枚置くと、近くにあったペンをとり、絵を描きはじめる。
後ろから覗き込んでくる斑目に、近い近い近いっ、と思いながらも、壱花が描き終わると、斑目が深く頷き、
「ほう。
すごい才能だな。
こんな見たこともない生き物を即座に描けるとは」
と褒めてくれた。
「……猫です」
化け猫もあやかしだから、とりあえず、猫の絵を描けばいいかと思ったのだが……。
「よし、俺も描こう」
と倫太郎が残りの白い札に触れようとしたので、壱花と冨樫は思わず止めていた。
「社長っ。
吸い込まれますよっ」
「なんでだっ」
いやいや、社長もあやかしとの境目が曖昧な人ではないですか……と壱花は思ったのだが、倫太郎は、
「化け化けなお前が大丈夫なんだから、大丈夫だろうよ」
と壱花を見て言ってくる。
「私、名前が化け化けなだけですからねーっ。
っていうか、そもそも、化け化けじゃなくて、花花ですからねーっ」
花花で風花壱花ですっ、と名乗ると、斑目が、
「ほう。
可愛い名だな。
名は体を表すとは本当だな」
とまた褒めてくれた。
すっかり機嫌をよくした壱花は、
「斑目さんって、いい上司になりそうですね。
やっぱり、部下は褒めて伸ばせですよ」
と笑って言ったが、倫太郎に、
「まず褒められるところを作れ……」
と言われてしまう。
この人は駄目な上司の典型ですよ、ええ……。
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