初級ダンジョン内に、特級に分類される魔物・ヒュドラが現れ、何者かによってそれが倒された――
そのニュースは衝撃を持って伝えられ、田舎町にまで新聞の号外が配られる騒ぎとなった。
「聞いた? すごいわよね、英雄よ、その人!」
「もしヒュドラなんて怪物が町に出てたら、死者が出てたかもしれないもんなぁ。すごいぜ、ほんとに。
名乗り出ないのも格好いいよな。陰のヒーローって感じでさ」
「あぁ、一目会って見たいわ、その人。きっと格好いんでしょうね」
おかげで町を歩けば、こんな噂話が聞こえてくる。
……本当は、こうなることを避けたかった。
そのため苦心して、ヒュドラの身体をばらばらに分解するなどしたのだが、しかし。
ヒュドラの目撃情報はあまりに多く、また山に残った傷跡も深かったため、隠しきることは不可能であった。
田舎町はそもそもニュースが少ない。
そこへもたらされた衝撃的な話には、学長や他の職員も興味津々らしかった。
「オルラドくん、君は『町を守りし謎の英雄』を見ていないのか? ヒュドラは見たんだろう? まぁ君の節穴のような目は期待していないが」
学長が俺に言う。
ヒュドラが出たことは、仕方なく活動報告書に記して提出していた。
そのため、俺がなにか情報を持っていると思ったのだろう(残り半分は、いつもの無能いびり)。
「一応、叫び声は聞きました。
ですが、すぐに生徒を避難させましたから、そこまでは見ていませんよ」
俺は当然知らぬふりを決める。
同時、『謎の英雄』などと呼ばれていることは恥ずかしく思うのだけれど顔には出さない。
普通にしていれば、バレることもない。
俺はただのしがない事務員なのだ。ヒュドラを倒せるなどと誰も思ってはいない。
ならばあとは、いずれ勝手に噂話として消えていくのを待てばいい。
俺はそう安堵しつつ、日々の労働に身をやつしていた……のだけれど。
数日後、そんな考えを覆すような事態が起きた。
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