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【サラ・ベーカリー】
午後の柔らかな陽光が、サラベーカリーのガラス窓を透過して店内に差し込んでいた
店頭の木製ラックには、今日も沙羅特製の焼きたてのパンが丁寧に棚に陳列されている
その棚の前に立つ沙羅は、クロワッサンをトングでつかみ、一つ一つ綺麗に並べていた、しかしその動きは機械的で、どこか心ここにあらずといった様子だった
バンッ!「ちょっと沙羅! これ見た!?」
突然、厨房のドアが勢いよく開き、カウンターに真由美が息を切らしながら駆け込んできた
彼女の手にはタブレットが握られ、画面にはブラックロックの公式ファンクラブからの通知が表示されている、真由美はカウンターを回り込み、沙羅にタブレットを突きつけた
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【ブラックロック公式ファンクラブからのお知らせ】
謹啓
平素よりブラックロックに格別のご声援を賜り、誠にありがとうございます。本日は、皆様に重要なお知らせがございます、弊バンドのリードボーカル、笹山力(Riki)が、咽頭癌の治療に専念するため、誠に残念ながらブラックロックは、2025年ツアーの残り13公演を中止とさせていただく事となりました。現在、力は最良の医療チームの元で治療を受けており、彼の健康を最優先に考えた結果、この決断に至りました
力からのメッセージ:
「いつも熱い応援をありがとうございます。今回のことでご心配をかけてしまって、本当に申し訳なく思っています。でも、僕は絶対にこの試練を乗り越えてもっとパワーアップしてステージに戻ります。ファンの皆さんの心の中で、ブラックロックの音楽が響き続けていることを信じています、少しだけ待っていてください!」
中止となる公演のチケットにつきましては、払い戻し手続きの詳細を近日中に公式ウェブサイト、およびメールにてご案内申し上げます。ご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。ファンの皆様の変わらぬ愛とご支援が、力およびブラックロック・メンバー全員にとって最大の励みでございます。これからもブラックロック、そして笹山力を温かく見守っていただけますよう、衷心よりお願い申し上げます。力が再びステージで輝くその日を、皆様と共にお迎え出来ますことを心より願っております
ブラックロック、スタッフ一同
公式ウェブサイト:www.blackrock@official.com
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真由美はタブレットを沙羅の目の前にかざしたまま、声を震わせた
「 沙羅!力! 咽頭癌だって!知ってた?何か力から連絡は?」
沙羅はトングをラックに置いてカウンターに両手をついた、彼女の声は小さく、力なく響いた
「連絡なんか来ないわよ・・・」
「どうしたの?力が心配じゃないの?」
真由美の言葉に沙羅はゆっくりと顔を上げた、その瞳には力への愛は枯れたような複雑な感情が揺れていた
心配、悲しみ、そして諦め・・・もう力のことで何かを諦めたのはこれで何度目だろう
沙羅は静かに真由美に言った
「心配よ・・・でもそこに書いてある通り、力には優秀な医療チームがついているし、今の私にはどうすることもできないわ・・・」
真由美は信じられないという表情で沙羅を見つめた、一歩近づき、沙羅の肩をつかんで言った
「でも・・・本当にそれでいいの? 力の傍に行きたくないの?」
沙羅は真由美の手をそっと外し、カウンターの端に置かれたパンのカゴを無意識に整えた、彼女の声は、まるで自分に言い聞かせるようだった
「私が力の傍に行きたくても、力は私を必要としていないわ・・・」
「でも―」
「八年前と同じよ!あの時もこうやって力を心配し、気を揉んで、怒りと恋しさの中で私は気が狂いそうになった!!でも彼は私と連絡を取るのを一切拒否している!何もかも八年前と同じなの!」
沙羅は一気に思いを吐き出し・・・やがて目を伏せた
店内に一瞬の静寂が流れる、真由美は言葉を失ってただ沙羅を見つめた
沙羅は再びトングを手に取り、まるでその動作で感情を押し込めるようにパンを並べ始めた
「今は私はここを離れられないし、私のやる事はひとつ!音々を育てるために仕事して生活をしていくだけ!」
沙羅の言葉は、きっぱりと何もかもを否定するように、店内の温かな空気に小さく消えた
ガチャッ「小麦粉の配達でぇ~~~す!」
その時裏口から配達業者が顔を覗き込んだ
「ハッ!ハ~イ!今行きま~す」
真由美は何か言おうとしたが、結局口を閉じてあわてて納品書を持って裏口へ向かった
沙羅はそのまま無言でただ黙々とパンを並べ続けた
その背中には、かつて力と共有した夢の重さが静かにのしかかっていた、もう力の事で何かを考える事すらしたくない、沙羅はポツリと呟いた
「私達は・・・また力に捨てられたのよ・・・」
沙羅の薬指には力から送られた指輪は外されていた
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【イギリス・ロンドン】
ロンドンの『セント・トーマス病院』のロビーは、冷たく静かな空気に包まれていた
テムズ川の北岸、ウェストミンスター橋のたもとに位置するこの病院は、12世紀に起源を持ち、近代的な医療施設として英国を支える名門だ
ガラス張りの高い天井から差し込む光が、白い大理石の床に反射し、ロビーの一角には、患者や家族が座るための硬いプラスチックの椅子が並べられている
時折、患者や医師が忙しく通り過ぎ、遠くで聞こえる医療機器のピッピッという電子音と、受付のスタッフの低い声が、緊張感を漂わせていた
拓哉はロビーの一角で、スマホを耳に当て真由美と話していた
『それじゃ・・・誰も力の容態が分からないのね?』
真由美の声は、電話越しでも落ち込んでいるのが分かった、彼女は拓哉に日本で沙羅が落ち込んでいる事を話した、拓哉はロビーの硬い椅子に腰を下ろし、ため息をついた
「二週間前に俺らのプロデューサーのジョンハンと力が二人でメシを食ってたんだ・・・そしたら突然力が倒れたらしくって、そのまま意識不明で病院に運ばれてさ・・・ずっと今もICUにいて、俺らもずっと病院に缶詰めなんだけど・・・力とは面会謝絶でまだ誰も力の顔を見れていないんだ」
真由美の声が小さく響く
『そんな・・・大変じゃない、じゃあ倒れてから誰も力を見てないの?』
「俺らも何がなんだか・・・だってずっと力は元気だったんだ、咽頭癌と診断されたけど、メンバー誰一人としてその診断を信じられないんだよ・・・俺らの知っている力は正真正銘、健康体そのものだった、そりゃちょっとツアーの疲れは見えていたけど、それは俺らも同じさ」
拓哉の声は次第に熱を帯び、苛立ちと無力感が混じる
『そうなのね・・・』
真由美の声は力なく、遠く日本から届く心配が重く響いた
「悪いけど・・・沙羅ちゃんの言う通りこっちに来たとしても、やっぱり俺らみたいに面会謝絶でずっとロビーに待たされるだけになると思う・・・正直俺らも戸惑っているんだ、ツアーも突然会社が中止にしてしまったし、チケットを買って待ってくれていたファンに申し訳なくて・・・」
自分の声に落ち込んで拓哉がはぁ~・・・とため息をつく
「とにかく、面会謝絶が解けて力の顔が見れたらまた連絡するよ、それまで沙羅ちゃんと音々ちゃんを支えてあげてくれ」
『わかった・・・あなたも無理しないでね』
「ありがとう・・・真由美・・・」
真由美の声は温かく・・・拓哉の心にほんの一時だけ安堵の休息をもたらせた
拓哉は電話を切ってスマホをポケットに押し込んだ、車いすを押す看護師が目の前を通り過ぎる
拓哉は膝に肘をついて両手で顔を覆った、力の笑顔とステージでマイクを握り、観客を熱狂させるあの姿が脳裏に浮かぶ
しかし今、力はICUのベッドで誰も近づけない壁の向こうにいる、その時、入口の自動ドアが勢いよく開いてジョンハンが青ざめた顔で足早に入ってきた
紺色の半袖ポロシャツに、きちんとプレスされたスラックスという、いつもよりややカジュアルな装いだ、ジョンハンは、ブラックロックを世界的スターに押し上げた敏腕プロデューサーであり、拓哉率いるメンバーも彼を尊敬していた
「ジョンハン!」
拓哉が立ち上がり、声を上げた
「おおっ!そこにいるのは拓哉か!」
ジョンハンは拓哉を見つけ、長い足で一気に近づいてきた
「力は?」
ジョンハンの声は切実だった、拓哉は眉を寄せて首を振った
「それが・・・ずっと同じだよ、まだ誰とも面会謝絶だって・・・」
「なんと!そうか・・・私と一緒にザ・リッツで食事をしてたんだ、すると突然力が苦しいと言って倒れて・・・私もパニックになったよ」
ジョンハンの声は低く、どこか遠くを見ているようだった、拓哉は彼に同情の眼差しを向けた
「ジョンハン・・・大変だったね、でも力が倒れた時にジョンハンがいてくれてよかったよ、もしホテルの部屋に力一人だったらと思うと・・・」
「いやいや、私は当然の事をしたまでだよ!」
ジョンハンは手を振って謙遜したが、その表情には一瞬の翳りが走った
「それに・・・ツアーが中止になって・・・」
拓哉の声は途切れがちだった、ブラックロックのワールドツアーは、ここイギリスで最高潮を迎えていた、それが一瞬で崩れ去ったのだ
「ツアーの事は心配するな、すべて私にまかせておきなさい、もうすでに払い戻しシステムが作動しているよ、それよりお前も寝ていないんじゃないかい?」
ジョンハンの口調はいつものように優しく、親しみやすい父親の様だった
「でも力が・・・」
拓哉の声は弱々しくて力を思うと涙が滲んだ
「何を言ってるんだ!力も大事だけど、お前達も私は息子の様に思っているんだよ、そうだ、会社に行って良いホテルを取らせよう、メンバー達と旨いものでも食って、ゆっくり休め!他のメンバーにもそう言っておくれ、私は力の医療チームの先生と少し話してくるよ」
ジョンハンは拓哉の肩を叩いて拓哉を慰めた、拓哉は目を潤ませ、声を詰まらせた
「ジョンハン・・・ありがとう・・・デビューした時からあなたには本当に何もかも世話になって・・・」
「何を言うんだ拓哉!私達はもう身内みたいなものじゃないか、一緒に私もお前と世界スターとして成長させてもらった、私にとってブラックロックは家族よりも大切だ」
ジョンハンの声は熱を帯び、その瞳は燃えるようだった
「ここが踏ん張りどころだ!拓哉!大丈夫だ!必ず力は元気になって、みんなでステージに立とう!」
「ジョンハン・・・」
拓哉は涙をこらえきれず、鼻をすすった
「さぁさぁ!お前に気弱な涙は似合わないよ!私の好きな、あのやんちゃな拓哉はどこに行った?さぁ、私に笑顔を見せておくれ、そしてここではなく、他のメンバーと一緒にホテルで休んで、私の連絡を待つと約束しておくれ」
ジョンハンは拓哉の背中を軽く叩き、タクシーに乗り込むよう促した、拓哉は気弱な笑みを浮かべて言った
「わかった・・・あなたの連絡を待つよ、ありがとうジョンハン」
拓哉を乗せたタクシーが「セント・トーマス病院」の敷地を離れ、ロンドンの街に消えていくのを、ジョンハンは静かに見送った
タクシーが見えなくなると、ジョンハンの唇に、ニヤリと冷たい笑みが浮かんだ
その唇には何かを企むような影がちらつき、ジョンハンは踵を返してICUへと続く廊下へと消えていった
・:.。.・:.。.
「え?」
「ど・・・どういうことだ?」
拓哉の声が、メンバーの静寂を切り裂いた・・・彼の目には、困惑と疑念が渦巻いていた
拓哉達がジョンハンに呼び出されたザ・リッツのスイートルームは、豪奢なシャンデリアの光が柔らかく降り注ぎ、金縁に覆われた一面の窓からはロンドンの夜景が眩しいぐらいきらめいていた
部屋の中央には、黒い革張りのソファとガラス製のテーブルが配置され、その向こうに、ジョンハンが悠然と腰掛ける豪華な椅子があった
そして彼の後ろには、まるで王座を守る衛兵のように、力の「影武者」が立っていた
その男は、笹山力そのものと言っても過言ではないほど、顔立ち、髪型、体のラインまで酷似していた
ブラックロックのメンバー、拓哉、海斗、誠、マネージャーのジフンは、その光景に凍りついた
「り・・・力?」
「いや・・・よく似てるけど・・・力じゃねえ」
「ああ・・・力じゃねぇ・・・」
彼らの目には困惑と疑念が渦巻いていた、その声は震え、信じられないものを見るような表情だった
8年間、ずっと一緒に居て共に汗を流し、ステージを駆け抜けてきた仲間だ、どんなに似ていても、目の前の男が本物の力でないことは、彼らの直感が告げていた
「プ・・・プロデューサー・・・これはどういうことでしょう・・?」
ジフンが声を絞り出す・・・メンバーの視線が影武者に注がれる、その男は力のトレードマークである黒いレザージャケットをまとい、髪は力と同じく無造作に整えられていた、初対面なら、誰もが「笹山力」と信じたかもしれない
しかし共に苦楽を分かち合ったメンバーには、その微妙な違和感が隠せなかった
まず本物の力より小柄だ、目の動き、口元のわずかな硬さ、人が良さそうで純粋な雰囲気を滲み出している本物の力より、どこかこの男の野蛮なオーラが「偽物」と暴いていた
ジョンハンが椅子の上で優雅に足を組み直し、口元に薄い笑みを浮かべた
「紹介しよう! 彼がこれからのブラックロックの笹山力だ!」
ジョンハンの声はまるで劇場の幕を開けるような華やかさだったが、どこか冷たく、計算高い響きを帯びていた
「どういうことだ、これからのブラックロックって? 力は?」
「力は まだ病院でしょ?」
拓哉と誠の声が重なって部屋に響く、拓哉の拳は握り潰されて青筋が浮かんでいた、誠とジフンの目は不安で揺れていた
ジョンハンは大仰にため息をついて悲しげに肩をすくめた
「実は本物の力はICUにいないんだ、残念だが逃亡したよ」
その言葉はまるで用意された台詞のように滑らかだった
「え?病気じゃないの?」
「と・・・逃亡ってどこに?」
メンバーの声が交錯する、海斗が一歩前に出て声を荒げた
「力がそんなことするはずないよ!」
ジョンハンはまるで子供の我儘を宥めるように実に悲しそうに手を振った
「それが・・・私にも分からんのだよ、突然やめると言って逃げ出してしまった、まあ・・・アイツは昔からそういう所があるんだ、いいかげんなヤツだよ」
彼の声にはどこか芝居がかった同情が滲んでいた
「どうしてやめるんだっっ!」
「さ・・・探しましょう!みんなで手分けして!何か必ず理由がありますっっ!」
誠とジフンが同時に焦って叫ぶ、拓哉は唇を噛み目の前の影武者を睨みつけた
「こんなヤツ・・・いくら似てても力じゃねえ!」
ジョンハンはゆっくりと立ち上がり、優雅な仕草で影武者の隣に歩み寄った
「まあまあ・・・よく聞いてくれ、こんな事もあろうかとね、アイツ一人がいなくなっても大丈夫な様に、私は以前から、ほれ! この通り、準備していたんだよ」
彼は影武者の肩を軽く叩き、メンバーに視線を戻した
「シナリオはこうだ!今から一か月後、力は咽頭癌の闘病生活に打ち勝ち、不死鳥のように蘇る、そして残りのファイナルツアーを再開し、精力的に攻略していく、その姿にファンは感激し、病気に打ち勝った力を再びステージで観て歓喜に泣きわめくんだ! そして、ブラックロックの新アルバムがリリースされる、なんと力の書きおろし新作ばかりだ!そのアルバムは、当社あげて過去最高の売り上げになるよ」
拓哉が両手を広げて怒鳴った
「バカな! そりゃ見た目は似ていても、こんなのファンは騙されねえよ! 第一影武者のソイツに歌えるのか?」
その瞬間、影武者がニヤリと笑って口を開いた
『そんなに怒るなよ拓哉! 俺だよ! 俺! 力だよ!』
メンバーとジフン全員が「ハッ」と息を飲んだ
信じられない事に影武者の声は力そのものだった・・・
低く、力強く、かすかにハスキーな、力の魂が宿ったような声、メンバーの間にどよめきが広がった
「リ・・・力の声だ!」
「まさかっ!」
海斗と誠が同時に叫び、ジフンが目を大きく見開く・・・拓哉だけが歯を食いしばり、拳を震わせていた
ジョンハンがニヤリと笑い、影武者の喉元に手を伸ばした
ベリッ——
鋭い音と共に力そっくりの影武者の喉元で肌色の皮膚が剥がされた
「わぁ!」
「ひいっ!」
メンバーが思わず後ずさり、一か所に固まった、ジョンハンは剥がしたものを手に持ち、子羊の群れを囲む狼のような足取りで、ゆっくりとメンバーたちに近づいた
「ほぉら、よく見なさい」
彼の声はどこか楽しそうで、まるで獲物を追い詰める肉食獣のようだった、拓哉は今まで父の様に自分達に優しく接してくれていたジョンハンの目に、初めて嫌悪を感じた、その計算高くて冷徹な光に、背筋が凍る思いでブルっと震えた
ジョンハンは掌を開き、剥がしたものをメンバーに見せつけた、それは人工的な粘着性の皮膚で、その中央には小さな超小型マイクが埋め込まれていた
「時代はテクノロジーだよ、諸君!この超小型ボイスチェンジャーマイクは、力のあらゆる声帯をパターン化したものだ、これを人工皮膚で喉に張り付けると、誰でも力の声が出せるんだよ」
彼は高らかに笑い、部屋にその声が響き渡った
「最新のAIテクノロジーで、八年間研究していた最高のモノが出来上がった、力の声帯を使って何万通りの歌も作れる、今現在、私が抱えている作曲家が、一日何百曲と編曲を上げてきている。これからは、ブラックロックの名で週一でアルバムを出すことだって出来るぞ!」
ジョンハンの目は、恍惚に輝いていた・・・
まるで自分の作り上げた完璧な世界に酔いしれるように
「まさに私が夢見ていた、世界一の音楽製造マシーンの出来上がりだ!」
「で・・・でも・・・」
「お・・・俺達が作ってない歌を、ブラックロックの名前で出すなんて・・・」
「そんなの詐欺じゃねーか!」
メンバーの声が怒りと絶望に震えた、ジョンハンの表情がふっと氷の様に冷たくなる、彼は物思いから引き戻されたように、ゆっくりとメンバーに視線を這わせた
「口の聞き方に気を付けるんだな・・・力の影武者が出来るのなら、お前達の身代わりなんか簡単に作れるんだぞ、お前らを病気にして他の人物と取り換えてもいい、なぁにすぐにファンはお前らなんか忘れるさ」
その言葉は氷のように鋭く、メンバーの心を切り裂いた、誰もがグッと押し黙り、額に冷や汗をかいている
「仕方ないだろう?力が勝手に逃亡したんだ、これでも苦肉の策なんだよ、大切なのは(グローバルロックバンド・ブラックロック)の存在とヴォーカル『力』のカリスマ性だ、この二つを世界に浸透させるのに私はどれほどの血と汗を費やしたか・・・機は熟した・・・これからはブラックロックの名のついたものは何でも売れる!ファンというATMは永遠にこれに金を払い続けるんだよ!」
ジョンハンは哄笑し、その声が部屋の隅々に反響した
メンバーは今見て聞いたことが、ただ、ただ・・・信じられず、その場に佇んだまま
目の前の影武者の男とジョンハンを・・・
彼らの夢を、力を・・・
ブラックロックを食い物にする怪物を見つめるしかなかった
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