不意に巻き込まれるように降りかかった冒険譚、彼女はこれまで確認したことさえなかった、持ち前のガッツと闘魂で笑い声と共に乗り越えてきたのである。
そんなコユキの声を聞いて、幼き頃からの唯一の友達(日本では)である善悪が躊躇する訳が無い。
ニコリとした笑顔を返した後、ラマシュトゥから二つの魔核を受け取った彼は優しい声で呟くのであった。
「『持続可能魔力(エスディージーズ)』、おわっぁ!」
パリパリパリリィーンッ! サラサラサラァッー……
バアルが唖然としながら言う。
「く、砕けちゃったね……」
アスタロトもビックリ仰天である。
「お、おう…… これって…… 復活できる、の、か?」
漆黒の天使姿のモラクスが砕けた魔核を覗き込み、その肩に飛び乗った小さなシヴァが答えた。
「うん、ゆっくりだが回復しているな…… 恐らく真核(しんかく)が何処かに有るんだろう、魔将などと大仰に名乗っていた割には弱いやつ等だったが、一応真核持ちではあったらしいな」
なるほど、砕け散った二つの魔核の破片はそれぞれ寄り集まって行き、徐々に大きな塊に統合されつつある事が見て取れる。
魔将と名乗っていた悪魔達は、どうやら他の魔王種と同じく、どのような状態からでも復活可能な真なる核を有しているらしい。
てっきり『殺っちまった』と思っていた善悪は胸を撫で下ろしながら言った。
「良かったでござるよ、てっきり殺生戒(せっしょうかい)を破ってしまったと思ったでござる、それにしてもアスタとバアル、みんなを止めるのが今後のリーダーとしての分別でござろ? それが率先して約束破るとか…… がっかりでござるよ、失望を禁じえないのでござる」
「ごめんよ兄様、妾、二人と離れるのが寂しかったんだ……」
「わ、我には別に他意など無かったぞ、さ、先に行った奴等が心配だったからな、それで急いでいただけ、そ、そう言う事だっただけだぞ」
素直なバアルに怪しさマウンテンのアスタロト。
コユキがやれやれといった表情を浮かべながら言う。
「あらまあっ、らしくないわねアスタったら、ねえ知ってる? 嘘って弱者の武器なんだってよ? アンタほどの魔神が嘘ついちゃうとか…… 善悪の言った通りがっかりだわ! ペッよ、ペッ!」
アスタロトは視線を足元に落としながら答える、糾弾者に抗議の視線を向けないとは……
私、観察者から見ても、嘘吐きの卑怯者の態度にしか見えない、残念だ……
「う、嘘じゃないぞ…… 先行した者共が、し、心配だっただけだぞ……」
「ふーん、言い張るのでござるな、んじゃ答えてでござる! 先に行った奴らって誰なのでござるか? ほれ、言ってみて、でござる!」
「そうよっ! 一番先行しちゃうだろう狂信者のイーチはここに居るのよ? 他に誰がサタンを食べに向かうって言うのよ! イーチ以上に狂っている奴なんか居ないでしょう? どう?」
「エッヘン!」
何故だろうか? イーチ的には狂っているという言葉が褒め言葉になっているようである。
胸を反り返す骨にチラリと視線を移した後、アスタロトはコユキに向き直って言った。
「いいや、そっちの馬鹿じゃなくてあっちの大馬鹿の事だよ、アヴァドンな、アイツとオルクスが先に行ってしまったんだぞ? 心配じゃないのか、コユキィ?」
「えっ! あの大馬鹿とオルクス君が? マジで?」
善悪が珍しく慌て捲くった様な声を出す。
「そ、そう言えば、オルクス君も結構サタンに怒っている、許さない的な事を言っていたでござるよっ! コユキ殿ぉ! 急いで向かわないとぉ、オルクス君がピンチでござるよぉ!」
ユキは深刻な表情を浮かべて言う。
「そ、そうね、大馬鹿なアヴァドンが一緒なんて最悪の結果しか想像できないわね…… 行くわよ皆! いざっ! 最終決戦よぉっ! 付いて来なさいっ! ここからは滅私よ滅私ぃっ! アタシと善悪の指示通り動いてねぇー! 行くぞっ! 『聖女と愉快な仲間たち』っ! 七生報国(しちしょうほうこく)ぅっ!」
『おおうっ!』
「行くのでござるっ!」
言うと同時に、このフロアの最奥にチラ見えしていた上階への階段に向けてドタドタ走り出した善悪を軽く追い越して進んだコユキは上の階の有様を見て思わず呟きを漏らしてしまったのである。
「こ、こ、ここここ、これは……?」