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その日、私たちはDVDでレンタルした女児向けのアニメを見ながら、お菓子を食べてくつろいでいた。
「このアニメずっと好きなんだよね。だから定期的にレンタルしちゃうの」
「そうなんだ、おもしろいよねこれ」
私は一花ちゃんにしなだれかかった。
「どうしたの、仁美」
「一花ちゃん、本当にありがとね。誕生日プレゼントのイヤホンもだし、一花ちゃんのおかげで、私、いろんな世界を体験することができた」
「どうしたのよ、いきなりそんなこと言って」
「一花ちゃん、凄く勝手な夢なんだけど、言ってもいい?」
「夢?」
「私ね、私と一花ちゃんの二人で、将来、舞台演劇がやりたい」
「舞台演劇?」
意外な提案だったらしく、一花ちゃんはきょとんとした。
「私、舞台演劇が凄く好きで、生のお芝居の迫力ってすごいんだよ」
「それは分かるけど、私がやりたいのって声優だし、舞台演劇ってちょっとピンとこないかも」
「別にそれをお仕事にしたいとかじゃないの。いつか二人でそういうこともやってみたいなって」
「言いたいことはわかるけど……」
「あのね、声優さんが企画した即興のアドリブ劇とかがあるの。男の声優さんが全部アドリブで演じる即興のコメディ舞台劇とか」
「へぇ、そんなのあるの? 仁美、よく知ってるわね」
「うん、だって私、一花ちゃんの生のお芝居をずっと聞いていたいから、そういうのってないのかなって調べたりしたから」
一花ちゃんは本当に知らなかったらしく、一花ちゃんは感心したような眼差しで私を見た。
「あのね、イヤホン越しの声でも一花ちゃんの声は素敵だよ。でもやっぱり、私は一花ちゃんの生の声が一番好き。広い舞台に一花ちゃんの声が響き渡って、それを私が一番近くで聞いてるのを想像するだけで胸がドキドキしちゃう。だから私、いつか一花ちゃんと一緒に舞台の上でお芝居したいな。一花ちゃんのお芝居、私が一番近くで聞きたいの。……あの、ダメ、かな?」
私はつい一方的にしゃべりすぎてしまったことに気付いて、最後はしどろもどろになってしまった。
一花ちゃんはちょっと驚いたような顔をしている。もしかして引かれちゃったかな?
でも一花ちゃんは顔をほころばせた。
「ううん、そういうのもいいかもね。……うん、……うん! なんかいい! 楽しそう!」
「ホント? いいの?」
「うん、ていうか、仁美の方からそんな夢を言ってくれるなんて思わなかった。ちょっと嬉しいかも」
「ううん、一花ちゃんのおかげだよ」
一花ちゃんは私の生きがいだった。
……もう高校二年の九月。高校生活も半分が過ぎようとしている。
多分一花ちゃんと私は、同じ大学にはいけないと思う。
一花ちゃんのお家の事情は分からないけど、いまどきアニメを見るのを禁止してて、勉強も大変そうだから、きっといい大学に入ることを望まれている。
今は学校も放課後も休日も、私と一花ちゃんはずっと一緒にいる。
ても高校を卒業した後はそうはいかない。
一花ちゃんが他にお友達を作ったり、さらに勉強に専念するするために放課後や休日に遊ぶ機会もなくなってしまうかもしれない。
どんどん一緒にいられる時間がなくなっていって、いつか私と一緒に作品を作っていたことも、なにもかも忘れられてしまうかもしれない。
そんなのはイヤだった。考えるだけで胸が張り裂けそうになる。
だから私は、一花ちゃんと同じ夢を持つことで、一花ちゃんとずっと一緒にいたいと思った。
一緒の夢を見てれば、きっとずっと一緒にいられるよね、一花ちゃん……。
「………………………………」
「一花ちゃん?」
気付くと、一花ちゃんは少し悩んでいるような、そんな顔をしていた。
「あのさ、仁美。それで私ね……。私からも、仁美にちょっと相談っていうか、お願い事があるんだけど……」
「え? お願い?」
突然そんなことを言われてきょとんとする。
「すごくお願いしづらいことで、仁美になら相談できるかなって。正直、とっても話づらいんだけど……」
そういう一花ちゃんはすごく恥ずかしそう。
恥ずかしそうというより、なにか少し思い詰めている感じもする。
私は明るく答えた。
「うん、一花ちゃんのお願いだったら、私、なんでも受け止めるよ。だから、なんでも相談して欲しいな」
「じゃあ、いうね。その前に約束してほしいんだけど、他の人には誰にも言わないでほしいの」
言うわけがない。一花ちゃんの秘密は、私が全部ひとり占めにするんだもん。
「一回だけでいいんだけど、したいことがあるの……」