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ひんやりとした何かがぺちぺちと私の頬を叩く。
「もしもーし、生きてるー? 生きてまちゅかー?」
「あ……あぁ……」
目の前にいたのは、枢木みくりだった。
そしてそこは、みくりと初めて会った学校の裏手にある教会の中。
「あ、あれ、私? 私、私は……。私は、いったい……」
「ふーむ。一花は仁美の呪いに対する抵抗力がそこそこあると見込んだけど。仁美のこだわりの中心にあるせいか、だいぶ精神を侵食されてるみたいね。一花、アンタまだ正気は保ててる? 仁美がどうなってるか分かってる?」
「仁美……。あ、あぁ――! 私、私は仁美を――。仁美の事、ああぁぁぁぁぁぁ!」
「落ち着きなさい! 今あなたが接してる仁美は死んでるの!」
「し、死んでる? ……あ。そ、そうだった。私が今接してる仁美は、もう死んでて――。私は、彼女が暴走しないように彼女と接してたのに」
「そ、でもあの子の狂気が強すぎて、精神を侵食されていたのよ。しかも私が調査を進めている間に、もう何人も犠牲者が出ちゃったみたいね。そしてアンタも精神的に追い込まれていた。でも、ぶっちゃけ自業自得よね?」
「え?」
気付けば、みくりの目つきはとても冷淡になっていた。
「アンタ、あれだけの話をよくも私に隠していたわね。おかげでこっちは、アンタと仁美の関係性を誤解して無駄に時間食っちゃったのよ? 仁美がいきなり声優になりたいとか言ってたの、確かにちょっと妙だなとは思ってたけど、まさかアンタの夢だったとはね。もともとアンタが声優を目指してて、そのことを知った仁美は、いつしかアンタと一緒の夢を見るようになったのね。あーあ、私もすっかりアンタのお嬢様な外面にだまされたわー。まさかアンタが、仁美にお願いして赤ちゃんプレイするのが大好きなヘンタイだったなんてね」
「あッ――!」
顔がカッと熱くなり、耳まで真っ赤になる。
面と向かって、私は一番他人に知られたくない秘密を口にされてしまった。
あの仁美のカセットテープを渡した以上、彼女にバレることは覚悟していた。
だが、それを他人に面と向かって口にされてしまうと、さすがに恥ずかしかしくていたたまれなくなる。
「東雲一花。アンタは子供のころから立派な仕事をしている親に厳しく育てられ、声優になりたいという密かな夢すら親に隠していた。恥ずかしいと思っていたから。アンタの声優の夢を知って、しかもその夢を全面的に肯定してくれたのは仁美だけだった。仁美にとって東雲一花は、頼れる親友であり、憧れの想い人であり、いつしか仁美にとっては人生の全てになっていった。そしてアンタは、親からのプレッシャー、勉強のストレス、そうしたものが溜まりに溜まって、そのストレスのはけ口として、アンタは仁美に赤ちゃんプレイを要求したんでしょ? アンタは、ヘンタイ行為を仁美にぶつけることで、家や学校でのストレスを発散した。……おおかた、そんなところでしょ? 何か間違ってる?」
「………………………………あ、ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は顔を真っ赤にして、頭を抱えて喚き散らす。
これまで仁美を相手にしてきた行為の数々が急に脳裏によみがえって、私は頭を抱えてパニックを起こした。
命がかかっているから仕方がないとはいえ、いまさらながら本当に恥ずかしい気持ちでたまらなくなって、私は悲鳴を上げた。
だがみくりはそんな私の事を平然とした態度でスルーした。
涼しげな顔で、みくりは私にさらに酷な事実を突きつけてくる。
「でもそれは、優等生なお嬢様な東雲一花が隠す、じこちゅーな裏の顔の一つでしかない」
さっきとは打って変わって、ゾッとしたものが身体に駆け巡った。
「カセットテープには、そこまで……」
「いいえ。カセットテープの中の仁美の話は、最初から最後まで幸せなことしか語られてなかったわ。あの子は恐らく、あのカセットには一花との幸せな思い出だけ詰め込みたかったんでしょうね。アンタのキモい性癖すら肯定してしまうほど、仁美はアンタに心の底からのめりこんでたみたいだし。だからこそ、それだけ幸せだったあの子が、どうして死を選んだのか。アンタが仁美の死に強い罪悪感を持っているのを見れば、アンタがあの子の死を後押しする何かをしたのは日を見るより明らか。一花、いいげんそろそろ白状してくれる。アンタ、死ぬ前の仁美に対して何をしたワケ? もう、自分から逃げるのやめたら?」
「……………………」
正直、もう頭の中はグチャグチャだ。冷静な判断なんかできなかった。
いや、もういっそ何もかも吐き出した方が楽になるんじゃないだろうか?
私はあきらめにも似た気持ちで、口を開いた。
「分かりました、話します」