コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「――話は良く分かったんですけど、大きな問題があると思うんです」
「ほう?」
私の指摘に、ファーディナンドさんは興味深そうに聞いてきた。
「ユニークスキルを持っていない……っていう証明は、どうやってやれば良いんですか?」
言ってみれば、これは『悪魔の証明』だ。
持っていることを証明するのは、私自身が自分を鑑定すれば、すぐに証明できる。
しかしそもそもユニークスキルは『鑑定スキルによって看破されない』という性質を持っている。
その性質が知られているのであれば、他の誰が鑑定したところで、『ユニークスキルを持っていない証明』にはならないのだ。
「ははは……。アイナさんはユニークスキルの性質をよく知っているようだね。
確かに鑑定スキルや、それと同様の力では証明することが出来ない」
「ですよね?
そうしたらもう、私って詰んでるじゃないですか」
いくらしらばっくれたところで、待っているのはシェリルさんたちと同じ運命だ。
自白をするまで拷問……? うわ、今さらながらに怖いんだけど……。
「一応、私もシェリルを解放してやりたくて色々と調べてみたんだ。
それでまぁ、証明する手段をひとつだけ発見することは出来たんだが――」
……あ、いや!
本当に『証明する手段』があるなら、逆に『証明されてしまう』わけだから、私としてはむしろ困る。
それはシェリルさんも同様だ。せっかく今まで黙秘を続けたのに、苦労虚しくばらされてしまっては元も子もない。
……とはいえ、ばれるのを回避するために、その手段は聞いておきたいところか。
「ちなみにそれって、どういう方法なんですか?」
「うむ。ドラゴンの上位種……竜王という存在の話になるんだが、彼らは何でも見通す『神眼』というレアスキルを持っているそうなんだ。
つまり竜王を見つけて、その力を借りて証明する……ということになる」
竜王――
……それは神々の眷属と呼ばれる、この世界における上位の存在。
六属性それぞれに対応し、全部で6体が存在しているという。
「……竜王、ですか。それって会えるんですかね……?」
「何せ、伝説上の存在だからな。
しかしこの大陸は、竜王の加護を受けているという言い伝えがある。
となると、案外近いところにいるかもしれんぞ?」
「近いところって……。
まさかそこら辺の山にいるわけでも無いでしょうし――」
「ははは、まぁな。
ただ、この話を上手く使えば時間は稼げるはずさ。
表向きはほどほどに従っていれば、国王陛下もあまり無茶なことはしないだろう」
「そうだったら良いんですけど……。
……はぁ。王都の暮らしが、一気に暗雲立ち込めてきましたよ……」
「私も出来るだけの助力はしよう。
しかし、私の動きはかなり制限されているからな……」
ファーディナンドさんは難しい表情を浮かべた。
それにしても、どう考えてもグランベル公爵より、ファーディナンドさんの方が人間的に優れているんだよなぁ……。
……そうだ。
グランベル公爵と言えば――
「私、グランベル公爵には結構、怒ってるんですよ」
「む? ……そうだな、アイナさんからすればそれも仕方が無いことだろう」
「ちょっと仕返しをしてあげたいんですけど……。
ファーディナンドさんは、それくらいは許してくれますか?」
「ははは、どうぞどうぞ。私も酷い目に遭ってきたし、ハルムートの振る舞いには目に余るものがある。
他の人間を巻き込まないのであれば、私も応援するぞ」
「ありがとうございます。
とりあえず、グランベル公爵が一番嫌がることをやって差し上げたいのですが」
「ふむ、一番嫌がることか……。
髪の毛を全部抜く、とか」
無慈悲!!
「え、えーっと……。それは酷いですけど……。えー……?」
「ははは、ハルムートは自前の髪に自信を持っているからね。
私なんぞ、少しこう……いや、少しだけ後退してきたところも……まぁ、あるような気はするだろう?」
「……心配でしたら、育毛剤を差し上げますよ」
「む……。それでは一応、もらっておこうかな……」
真面目な中にも、茶目っ気が光るファーディナンドさん。
「では、それはあとで差し上げますね。
っていうか、もっとこう……ありませんか? 髪の毛を抜いても、ただの嫌がらせで終わっちゃいますし……」
「嫌がらせとしては致命的なんだけどな……。
あとはそうだな……。国王陛下からの信用を落とすとか……」
「それはなかなか!」
「……いや、しかしそうするとグランベル家の立場がな。
家督は奪われたとはいえ、私もグランベルの名を誇りに思っているんだ。
さすがに、それは手伝うことは出来ないかな……」
「ふーむ……。
それじゃいっそ、ファーディナンドさんが家督を奪い返すっていうのはどうですか?」
「む……?」
「ファーディナンドさんは肩身の狭い思いをしなくて済みますし、私としても充分な仕返しになります。
それに、新しい被害者も出さないで済みますし――」
「ふむ……。それはなかなか挑戦的な意見だね。
アイナさんも、危ないことを言い出すものだ……」
そう言いながら、ファーディナンドさんは宙を見上げて考え始めた。
ぶつぶつと、何かを呟くのが聞こえてくる。
「……難しいですか?」
「それは難しいさ。
ハルムートが下手を打って、家門の者から突き上げを食らう様なことでも無い限りな」
しかし、もしもファーディナンドさんに強い権力が移るのであれば、今後の私のためにもなるだろう。
例えば王様からのちょっかいを、少しくらいは退けてくれる……とかね。
「……すぐに思いつくような話でもないですし、これは次の機会にしますか?」
「うん、そうだな。そんなにぱぱっと思いつくものなら、とっくにやっているだろう。
ここはアイナさんの力を計算に入れて、持ち帰って考えてみることにしよう」
「よろしくお願いします。でも私、もの作りしかできませんけどね」
「アイナさんレベルだと、十分に凄いんだがな……。
……ああ、そうだ。折角だし、せめて新しい被害者を生み出さない方法くらいは考えてみようか」
「あ、それは良いですね」
「ハルムートが虐待をするときに使う部屋が地下にあるんだ。
部屋数としては1つだけなんだが……これを使えなくする方法は、何かあるかな?」
「……うーん。爆弾で吹き飛ばす、とか?」
「おいおい、ずいぶんと怖いことを言うな……」
「いえ、冗談ですけど……。
でも極端なことを言えば、そういうことですよね?」
「そうだな。
しかしさすがに、屋敷内で爆発騒ぎを起こすのはどうにもな……」
ふーむ……、と考えること約5分。
私は元の世界にあった、とってもアレな存在を唐突に思い出した。
「そうだ!
私の国に、とても臭くて有名な食べ物があったんですよ」
「ほう?」
「それをその部屋で開封する、っていうのはどうでしょう。
臭くなって、しばらく近付けないと思いますよ!」
「……え? いや、いくら何でも、食べ物の臭いだけで解決できるわけは無いだろう……?」
「んー。それじゃ、早速作って――」
……って、アレの素材は魚だよね。さすがにアイテムボックスには無いから、今は作れないか。
錬金術で作れるかはちょっと分からないけど、今までの経験から考えれば、多分いけるはず……。
「――あ、いえ。
それではファーディナンドさん宛てに、お届けしますね」
「ふむ……。送るだけなら屋敷の者に言ってくれれば良いぞ。
食べ物であれば、さすがに中身までは調べられないからな」
「缶詰ですけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。
缶詰なら、今までも開けられたことはないからね」
「分かりました。それでは後日、お届けします。
あ、間違えても自分の部屋で開けないでくださいよ?」
「……それって、食べ物なんだよな……?」
ファーディナンドさんは不思議な表情を浮かべて聞いてきた。
はい、食べ物です。
それでは全世界の臭い食べ物ランキングのトップランカー、『シュールストレミング』を作ってあげることにしましょう……!!