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「――話は良く分かったんですけど、大きな問題があると思うんです」
「ほう?」
私の指摘に、ファーディナンドさんは興味深そうに聞いてきた。
「ユニークスキルを持っていない……っていう証明は、どうやってやれば良いんですか?」
言ってみれば、これは『悪魔の証明』だ。
持っていることを証明するのは、私自身が自分を鑑定すれば、すぐに証明できる。
しかしそもそもユニークスキルは『鑑定スキルによって看破されない』という性質を持っている。
その性質が知られているのであれば、他の誰が鑑定したところで、『ユニークスキルを持っていない証明』にはならないのだ。
「ははは……。アイナさんはユニークスキルの性質をよく知っているようだね。
確かに鑑定スキルや、それと同様の力では証明することが出来ない」
「ですよね?
そうしたらもう、私って詰んでるじゃないですか」
いくらしらばっくれたところで、待っているのはシェリルさんたちと同じ運命だ。
自白をするまで拷問……? うわ、今さらながらに怖いんだけど……。
「一応、私もシェリルを解放してやりたくて色々と調べてみたんだ。
それでまぁ、証明する手段をひとつだけ発見することは出来たんだが――」
……あ、いや!
本当に『証明する手段』があるなら、逆に『証明されてしまう』わけだから、私としてはむしろ困る。
それはシェリルさんも同様だ。せっかく今まで黙秘を続けたのに、苦労虚しくばらされてしまっては元も子もない。
……とはいえ、ばれるのを回避するために、その手段は聞いておきたいところか。
「ちなみにそれって、どういう方法なんですか?」
「うむ。ドラゴンの上位種……竜王という存在の話になるんだが、彼らは何でも見通す『神眼』というレアスキルを持っているそうなんだ。
つまり竜王を見つけて、その力を借りて証明する……ということになる」
竜王――
……それは神々の眷属と呼ばれる、この世界における上位の存在。
六属性それぞれに対応し、全部で6体が存在しているという。
「……竜王、ですか。それって会えるんですかね……?」
「何せ、伝説上の存在だからな。
しかしこの大陸は、竜王の加護を受けているという言い伝えがある。
となると、案外近いところにいるかもしれんぞ?」
「近いところって……。
まさかそこら辺の山にいるわけでも無いでしょうし――」
「ははは、まぁな。
ただ、この話を上手く使えば時間は稼げるはずさ。
表向きはほどほどに従っていれば、国王陛下もあまり無茶なことはしないだろう」
「そうだったら良いんですけど……。
……はぁ。王都の暮らしが、一気に暗雲立ち込めてきましたよ……」
「私も出来るだけの助力はしよう。
しかし、私の動きはかなり制限されているからな……」
ファーディナンドさんは難しい表情を浮かべた。
それにしても、どう考えてもグランベル公爵より、ファーディナンドさんの方が人間的に優れているんだよなぁ……。
……そうだ。
グランベル公爵と言えば――
「私、グランベル公爵には結構、怒ってるんですよ」
「む? ……そうだな、アイナさんからすればそれも仕方が無いことだろう」
「ちょっと仕返しをしてあげたいんですけど……。
ファーディナンドさんは、それくらいは許してくれますか?」
「ははは、どうぞどうぞ。私も酷い目に遭ってきたし、ハルムートの振る舞いには目に余るものがある。
他の人間を巻き込まないのであれば、私も応援するぞ」
「ありがとうございます。
とりあえず、グランベル公爵が一番嫌がることをやって差し上げたいのですが」
「ふむ、一番嫌がることか……。
髪の毛を全部抜く、とか」
無慈悲!!
「え、えーっと……。それは酷いですけど……。えー……?」
「ははは、ハルムートは自前の髪に自信を持っているからね。
私なんぞ、少しこう……いや、少しだけ後退してきたところも……まぁ、あるような気はするだろう?」
「……心配でしたら、育毛剤を差し上げますよ」
「む……。それでは一応、もらっておこうかな……」
真面目な中にも、茶目っ気が光るファーディナンドさん。
しめさば
「では、それはあとで差し上げますね。
っていうか、もっとこう……ありませんか? 髪の毛を抜いても、ただの嫌がらせで終わっちゃいますし……」
「嫌がらせとしては致命的なんだけどな……。
あとはそうだな……。国王陛下からの信用を落とすとか……」
「それはなかなか!」
「……いや、しかしそうするとグランベル家の立場がな。
家督は奪われたとはいえ、私もグランベルの名を誇りに思っているんだ。
さすがに、それは手伝うことは出来ないかな……」
「ふーむ……。
それじゃいっそ、ファーディナンドさんが家督を奪い返すっていうのはどうですか?」
「む……?」
「ファーディナンドさんは肩身の狭い思いをしなくて済みますし、私としても充分な仕返しになります。
それに、新しい被害者も出さないで済みますし――」
「ふむ……。それはなかなか挑戦的な意見だね。
アイナさんも、危ないことを言い出すものだ……」
そう言いながら、ファーディナンドさんは宙を見上げて考え始めた。
ぶつぶつと、何かを呟くのが聞こえてくる。
「……難しいですか?」
「それは難しいさ。
ハルムートが下手を打って、家門の者から突き上げを食らう様なことでも無い限りな」
しかし、もしもファーディナンドさんに強い権力が移るのであれば、今後の私のためにもなるだろう。
例えば王様からのちょっかいを、少しくらいは退けてくれる……とかね。
「……すぐに思いつくような話でもないですし、これは次の機会にしますか?」
「うん、そうだな。そんなにぱぱっと思いつくものなら、とっくにやっているだろう。
ここはアイナさんの力を計算に入れて、持ち帰って考えてみることにしよう」
「よろしくお願いします。でも私、もの作りしかできませんけどね」
「アイナさんレベルだと、十分に凄いんだがな……。
……ああ、そうだ。折角だし、せめて新しい被害者を生み出さない方法くらいは考えてみようか」
「あ、それは良いですね」
「ハルムートが虐待をするときに使う部屋が地下にあるんだ。
部屋数としては1つだけなんだが……これを使えなくする方法は、何かあるかな?」
「……うーん。爆弾で吹き飛ばす、とか?」
「おいおい、ずいぶんと怖いことを言うな……」
「いえ、冗談ですけど……。
でも極端なことを言えば、そういうことですよね?」
「そうだな。
しかしさすがに、屋敷内で爆発騒ぎを起こすのはどうにもな……」
ふーむ……、と考えること約5分。
私は元の世界にあった、とってもアレな存在を唐突に思い出した。
「そうだ!
私の国に、とても臭くて有名な食べ物があったんですよ」
「ほう?」
「それをその部屋で開封する、っていうのはどうでしょう。
臭くなって、しばらく近付けないと思いますよ!」
「……え? いや、いくら何でも、食べ物の臭いだけで解決できるわけは無いだろう……?」
「んー。それじゃ、早速作って――」
……って、アレの素材は魚だよね。さすがにアイテムボックスには無いから、今は作れないか。
錬金術で作れるかはちょっと分からないけど、今までの経験から考えれば、多分いけるはず……。
「――あ、いえ。
それではファーディナンドさん宛てに、お届けしますね」
「ふむ……。送るだけなら屋敷の者に言ってくれれば良いぞ。
食べ物であれば、さすがに中身までは調べられないからな」
「缶詰ですけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。
缶詰なら、今までも開けられたことはないからね」
「分かりました。それでは後日、お届けします。
あ、間違えても自分の部屋で開けないでくださいよ?」
「……それって、食べ物なんだよな……?」
ファーディナンドさんは不思議な表情を浮かべて聞いてきた。
はい、食べ物です。
それでは全世界の臭い食べ物ランキングのトップランカー、『シュールストレミング』を作ってあげることにしましょう……!!