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口を塞がれた瞬間、肺の空気が凍りついた。心臓はドクドクと激しく鳴り、浴室の静寂の中でその音だけがやけに大きく響く。
誰……?
誰なの……?
恐怖で足先まで震える中、首筋に突然、湿った感触が触れた。
キスだった……。
{……如月ちゃん、好きやで。}
その声を聞いた瞬間、血の気が引いた。
……大晴くん?
信じたくないのに、耳が勝手に確信してしまう。
次の瞬間、肩や腕をつたう指先が、まるで獲物を確かめるみたいにゆっくりと触れてきた。
やめて。
やめてって言わなきゃ……。
でも、口は強く塞がれていて声が出ない。
身体は恐怖で固まり、呼吸だけが荒くなっていく。
{逃げんでええよ……如月ちゃん。}
{ずっと、こうしたかったんや。}
背後から囁かれた大晴くんの声は、いつもの優しいものではなかった。
低くて、暗くて、壊れたような響き。
胸の上をかすめる指。
震えが止まらない。
足がすくんで、椅子から立つことすらできない。
「……っ」
声にならない声が喉で詰まる。
視界が揺れる。
息がうまく吸えない。
怖い。
怖い怖い怖い……。
大晴くんの手は、まるで私の反応を楽しむかのように、ゆっくりと下へ近づいてくる。
{なぁ……なんで震えてるん?嫌なん?}
{……でも、ええよな?俺のこと……ちゃんと見てくれへんかったから……。}
声がどんどん歪んでいく。
まるで嫉妬と執着が全部混ざったみたいに。
まるで後ろから抱かれてるかのように口を塞がれている為、逃げる隙がない。
身体の奥から寒気がせり上がり、頭が真っ白になった。
「……や……」
言おうとした瞬間
口を塞いでいた手がさらに強くなり、恐怖の限界で呼吸が乱れ、視界が一気に暗くなる。
耳鳴りがひどい。
自分の鼓動だけが遠くで鳴っている。
やだ……だれか……
たすけて……
こわい……
そこで、意識がふっと途切れ……
私は、そのまま気を失った。
浴室の中で。
暗闇の中で。
名前を呼ぶ声すら届かないまま……。