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――パンッ。
乾いた音が、アパートの中に響いた。
一瞬、何の音か分からなかった。
次の瞬間、胸の奥が嫌な感覚で締めつけられる。
銃声だ。
俺は考えるより先に、階段を駆け上がっていた。
二段飛ばしで踏み、手すりに指をかける。
その時だった。
視界のすぐ横で、壁が弾ける。
粉塵が舞い、白い跡が残った。
――銃弾。
ほんの数十センチずれていたら、
そこにいたのは俺だった。
息を呑み、視線を前に向ける。
さっきまで、そこにいたはずの彼女が――
いない。
踊り場にも、階段の先にも、
彼女の姿はどこにもなかった。
逃げた?
それとも――。
嫌な予感が、背中を這い上がる。
俺は手すりに近づき、
ゆっくりと下を覗き込んだ。
一階の暗がり。
そこに、人影があった。
いじめっ子の男だ。
そして、その手には――
はっきりと銃が握られていた。
見てしまった、と思った。
これは偶然じゃない。
最初から、狙って撃っている。
その瞬間、横にいた女が動く。
わざとだと分かるほど、はっきりと。
女は指の力を抜き、
銃を床に落とした。
ガン、という金属音が、
階段全体に響き渡る。
それに反応したのは、彼氏だった。
「待て」と言おうとした。
でも声が出るより先に、
彼は階段を下り始めていた。
助けようとしたのか。
止めようとしたのか。
理由なんて、どうでもよかった。
分かってしまったからだ。
――罠だ。
だが、その距離を止める術はなかった。
彼が曲がり角に差しかかった瞬間、
再び音が鳴る。
――パンッ。
姿は見えない。
けれど、その一発で十分だった。
空気が、凍りつく。
俺は動けなかった。
声も、足も、意思も。
ただ、その場に立ち尽くしていた。
これは事故じゃない。
衝動でもない。
最初から、
ここまで含めて仕組まれていた。
そして、俺は気づく。
彼女がいなくなったのは、
撃たれたからじゃない。
銃弾が壁に突き刺さった、
あの瞬間。
彼女は――
消えるべきタイミングを選んだんだ。
俺は、震える足で階段を下りた。
一階の踊り場に、
いじめっ子の男女が並んで立っていた。
もう、銃は持っていない。
代わりに、男がポケットに手を入れる。
取り出したのは――
釘のように細長い、金属の塊だった。
「……これを」
理由も説明もない。
ただ、それを差し出してくる。
嫌な感覚が、背中を走る。
触れてはいけないものだと、本能が告げていた。
俺はそれを受け取り、
反射的に投げ返した。
次の瞬間、
二人の表情が、わずかに歪む。
――試された。
そう思った時には、
俺はもう走り出していた。
高い場所から飛び降り、
枯れた草の中に転がり込む。
背後で、何かが起きた気配がしたが、
振り返らなかった。
そして、そこで――
意識が途切れる。