テラーノベル
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いつもならインターホンを押すけれど、今日はせっかくの記念日を台無しにされたんだから、突然部屋に入って、尊を驚かせてやろう。
合鍵を使って鍵を開ける。
靴を脱ごうとした時、彼の靴とともに、玄関に女性物の靴が並べてあった。
それを見た瞬間、嫌な予感と、ドクン、ドクンと大きな鼓動が私の中で響く。
恐る恐る廊下を歩き始めた時
「あぁっ」
女性の淫らなが聞こえた。
嘘でしょ?
歩くのを止め、耳を澄ませる。
「ねっ!いいの?彼女、怒ってるんじゃないっ!記念日なのにドタキャンして」
甘い香りがするような可愛らしい女の子の声。
「いいんだよ。だって、|優亜《ゆうあ》ちゃんと会える時間の方が大切だから」
答えていたのは間違いなく、尊の声だ。
誰よ、優亜って。
「浮気者ー!あんっ、だめだって……。そこっ!」
私は意を決して、部屋のドアを勢いよく開けた。
「えっ!誰?」
「葵っ!?」
二人同時に声をあげた。
優亜と呼ばれていた女の子と尊、二人と目が合う。
女の子は、明るいブロンズのロングの巻き髪、化粧は真っ赤なリップ、長いつけまつ毛に、キラキラの涙袋。
服装は短いスカートだけど、女の子は上半身は下着姿、尊はワイシャツが開けられた状態。
ソファの上で尊が女の子を押し倒していた。
「尊、浮気してたんだね!」
感情的になり、私は彼を怒鳴りつけた。
「最低!」
怒りで震える手をギュッと握り締める。
「お前、何勝手に部屋に入ってきてんだよ!」
なぜか逆切れされたけれど、そこは素直に謝るとか、何か言い訳するところなんじゃないの?
「入ってきてほしくなったら、内鍵しとけばいいじゃん!尊だって私の部屋に勝手に入ってくることあるでしょ!?」
「それは昔のことだろ!」
尊は、ソファの上にあった私が使っていたひざ掛けを彼女に羽織らせた。
それ、私のなんだけど……と言いたかったが、堪える。
「その子、誰?」
私は女の子に目線を向けた。見たことがない、知らない子だ。
「いいだろう、誰だって。俺の好きな人だよ!!」
はぁ?俺の好きな人って……。それって……。
「尊さん」
女の子が彼の名前を呼ぶ。
「この際、いい機会だから言うけど、お前のことなんかもう好きじゃないんだ。優亜ちゃんみたいに可愛くもないし、地味だし、女としての魅力を感じないんだよ!最近は、遠回しに結婚の話ばっかり匂わせてくるしさ。もう飽き飽きなんだよ!別れてくれ。俺は、優亜ちゃんのことが好きなんだ」
「はぁ!?お義母さんにはなんて言うの!?うちの親にだってなんて説明すればいい……」
「別に籍を入れる日とか、結婚式が決まってたわけじゃない。こんな別れ話、よくある話だろ」
親は「良かった。葵ももうすぐね」なんて喜んでいたから、別れたって言ったら心配をするに決まっている。
「ねぇ、もう諦めなよ?尊さん、優亜のことが好きだって言ってるじゃん。未練タラタラなのはわかるけどさ。焦りすぎちゃったね、おばさん」
おばさん!?
確かにあなたに比べたら、私はおばさんだけど。引っ叩きたくなる衝動を我慢する。
「そういうことだよ。合鍵返して出て行ってくれ。お前の荷物とかは、あとで送るからさ」
尊って、こんな人だったっけ?
これが私が結婚したいと思っていた人?
私はバックから鍵を取り出し、尊を目掛けて投げつけた。
「痛っ!なんで投げるんだよ!」
怒りと悲しみで小刻みに震える身体で部屋から飛び出し、息が切れるまで走り続けた。
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