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2件
あああナイスロロさああん!!!! 胸アツ展開最高です!!!!
✧≡≡ FILE_038: 人違い ≡≡✧
風が刺すように吹きつける。
気温は-2度。
雪は降っていないが、路面は白く凍り、街には人気がない。
ローライトは、“袋を片手で摘み”息を切らしながら走っていた。
「……間に合え……」
手にした小さな袋の中には、──“もしも”の時のために、ワイミーさんが託したものが入っていた。
──最悪これで何とかなるかもしれない。
その希望を胸にローライトは走る。
「はっ、はっ……はっ」
吸い込んだ空気が、氷の刃となって肺を裂く。胸の奥が焼けるように疼き、視界がにじむ。
──早産のせいで、彼の肺はまだ弱い。
冷気は毒。
走ることは、死に近づく行為だ。
それでも、彼は止まらなかった。
目指すは、ウィンチェスター大聖堂──
あの爆弾は間に合わないかもしれないという予感が、頭を焼くように疼いていた。
どう考えてもあれが大物の爆弾。
簡単に解除できるはずがない──そう思った、その瞬間だった。
「──見つけたッ!!!」
声が、風を切った。
振り向くより早く、全身がぶつかるような衝撃。
「ッ──!」
ローライトは、勢いよく抱きしめられ、肩がキュッと縮まる。
腕が背中を締めつけ、息が詰まった。
「ダメだろ……勝手にいなくなっちゃ!!どれだけ心配したと思ってる……!」
震える声。
頬を伝う涙が、肩に落ちた。
「AもBも、Kも……ッ、みんな、俺のせいで……俺がちゃんと見てなかったからっ、俺が、しっかりしてなかったから……!」
少年はその腕の中で、完全に硬直していた。
──誰だ、この人。
「さ、帰ろう、B──って、違う……!?」
顔を覗き込んだ男が、目を見開く。
「……ご、ごめん……キミじゃなかった、キミじゃ……」
彼はワイミーズハウスの職員──ロロだった。
AとBを探して街中を走り回っていた途中、よく似た背格好のローライトを見かけて、思わず取り乱したようだ。
「……A……B……K……どこに行ったんだ……」
「あの……」
「君くらいの子たちなんだよ……俺の、大事な……子どもたち……!」
目の前で、涙ぐみながらしゃがみ込むロロ。
しかし、ローライトは彼にかまっている暇などなかった。
この人は無害だ。けれど──今は、止まっている時間がない。
「……あの……すみません、どいてください」
小さな声で、しかしはっきりとそう言うと、ローライトはロロの横をすり抜けて、また走り出した。
「……え、あっ……待って……君、どこへ……!」
「ウィンチェスター大聖堂に、行かなきゃいけないんです」
「ウィンチェスター大聖堂!? 何しに!?」
問いかけたロロの声には、疲労と困惑が滲んでいた。
ローライトは短く答えた。
「爆弾を止めます」
「な……」
ロロの表情が凍った。
「あそこは、近づくだけで爆発するって──」
「だから行くんです! 何もしないより、マシですから」
ただ、迷いのない──“覚悟”。
8歳前後とは思えない勇敢な姿にロロは言葉を失う。
「……止められる方法があるんです。たぶん……でも、もう時間がない」
ローライトは再び前を向いて走り出そうとした。
そのとき──ロロが立ち上がる。
「──待って」
その声に、ローライトの足が止まる。
ロロはすぐさまポケットから車の鍵を取り出した。
「車出してやる、乗れ」
「……え?」
「大聖堂まで送る。走るより早い。君一人で行かせられるか」
「でも──」
「いいから乗って!」
ロロの目には、かすかに涙が残っていた。
「……君の目を見たら止められないよ。俺にはそれしかしてあげられないし。君には君のやるべきことがあるんだろう?だったらせめて、俺が送ってやる。行けるとこまで、全力でな」
ローライトは小さく頷いた。
「……ありがとうございます」
ロロは無言で頷き返すと、すぐさま車に向かって走った。
冷たい空気を割って、教会の鐘が今日も響いた。