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お股ポテト
29
はるにし
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バルトが魔術師団に入団して二週間ほどが過ぎた。
僕は庭木を眺めていた。
「育っちゃったね、ボサボサだ」
「ぼさぼさだな」
隣に立っているバルトが繰り返した。
「庭師は戻ってこないのか?」
バルトが隣を振り返る。
シュメリが小さく息を吐いた。
「老齢ではあったからね。引退を打診されたよ」
「新しく雇うしかねぇのか」
「それも中々難しくてね」
「何かあるのか?」
バルトが不思議そうに問う。
「王立騎士団の団長の屋敷だ。出入りできる者は限られるのだよ」
「そうなのか」
「そうなんだ」
僕はバルトと同じ言葉を返した。
暗殺者のバルトが、事情はあるにせよ客人になっている。
だから、あんまり意識していなかった。
「それにしても、庭木の育ちが早いね。前はここまでではなかったのに」
ぼうぼうに伸び放題の植木を、シュメリが溜息交じりに眺めた。
「やけに成長が速いと、手入れしながら俺も思っていたよ。貴族様の御屋敷は植物から違うんだなと」
シュメリがバルトをじっとりねめつけた。
「そこまでの差はないよ」
「まぁ、今日は休みだし、適当に手入れしておくよ」
「悪いね、バルト。疲れたら切り上げてくれ」
そう言い残して、シュメリは屋敷の中に戻って行った。
書斎で仕事があるらしい。
「どれ、やるか」
腕まくりして、バルトが作業を始めた。
僕はバルトの邪魔にならない場所で、花を眺めて遊んでいた。
「リンネ、枯れてる花、摘んでくれるか?」
バルトが大きなハサミでジョキジョキ枝葉を切りながら言った。
「摘んじゃうの?」
「見栄えとしてな。貴族は枯れた花を嫌うんだよ。家の衰退を表すんだと」
「そういうのも、あるんだね。わかった」
僕は花壇を眺めた。
所々に、盛りを終えた花が、色を褪せて首を垂れてる。
「こういうのを摘めばいいのかな」
枯れた花に、そっと触れる。
「……可哀想だね」
ちょっと悲しい気持ちになりながら、花を摘まむ。
その指先から魔力が漏れた。
水色の魔力が雫になって指先から滴り落ちる。
ポン、と命が弾ける音がした。
枯れていた花が、鮮やかに色を戻して、見る間に顔を上げた。
「……え?」
僕はビックリして固まった。
「リンネ? 魔力を感じたけど、何かしたのか?」
「バルト……バルト!」
慌ててバルトの名前を呼ぶ。
バルトが駆け寄ってきた。
「枯れていたお花をね、掴んだの。僕の指から魔力が流れてね、お花が生き返った」
バルトが険しい顔をして、僕と花を見比べた。
「ちょっと……待て」
手の中に風を起こして、飛ばす。
「シュメリ、戻ってこられるか。見せたいものがある」
バルトの目が、花を見詰めていた。
書斎のバルコニーから飛び降りて、シュメリが走ってきた。
二階なのに、全然余裕だ。
「どうしたんだい」
バルトが僕に目を向けた。
「リンネ、もう一度できるか?」
「うん、やってみる」
僕は花壇に向き合った。
枯れている花を探して、摘まむ。
指先から水色の魔力が滴って、花の茎を伝った。
流れた魔力が土に沁み込む。
ポン、と命が開く音がして、花の色が鮮やかに戻った。
垂れていた顔を天に向けた。
(さっきと同じに、できた)
僕は、後ろで見ているシュメリとバルトを振り返った。
二人が、呆気にとられて花と僕を眺めていた。
「それは……誰かに、教わったのかい?」
シュメリが驚いた様子で問う。
僕は首を横に振った。
「ただ、摘まんでみただけ。魔力が自然と流れたの」
シュメリが息を飲んだ。
「蘇生……いや、遡及か?」
生き返った花を見詰めて、シュメリが独り言のように呟く。
「そんなんじゃなくて、活性化じゃねぇか?」
バルトの言葉に、シュメリが振り返った。
「命の活性化……精魂師?」
シュメリが目を見開く。
バルトが頷いた。
「俺はリンネとずっと一緒に暮らしてたから、意識してなかったが。今にして思い返せば、リンネと暮らし始めてから魔力が使いやすくなった、気がする」
「言われてみれば、私も……以前より魔術を使いやすい」
シュメリとバルトが同時に庭を見渡した。
伸びきった庭木を、二人が眺めた。
「まさか、これも」
「もしかしたら、な」
二人の間で話が進んでいる。
僕には、ちんぷんかんぷんだ。
「あの……ダメだった?」
恐る恐る聞いてみる。
「ダメではないよ。むしろ、素晴らしい能力だ。だけど……」
シュメリが頷いて、僕の肩に手を置いた。
「リンネ、今すぐ婚約しよう。私の元に来なさい」
「焦り過ぎだ。むしろ活性化で良かったじゃねぇか」
バルトが慌ててシュメリを僕から剥がした。
「この国に精魂師が何人いると思ってる? 魔術師団が欲しがるに決まってる」
「今なら、魔術師団に入っても心配ねぇだろ。貴重な精魂師ならクロノア副団長も下手な真似はできねぇよ。少なくとも実験体にはされねぇだろ」
「だけど!」
声を荒げたシュメリを、バルトが困った顔で眺めた。
「リンネのこととなると、取り乱すな。理屈じゃねぇんだろうけど」
「……すまない」
シュメリが項垂れた。
「そんなに……大変なことなの?」
問い掛けた僕を、シュメリとバルトが振り返った。
「大変ちゃぁ、大変だけどな。想定していた中では、マシなほうだぜ」
バルトが、僕の頭を撫でた。
「リンネが悪いことは一つもない。いつも通りにしてりゃぁ、いい」
「……うん」
僕は静かに頷いた。
「精魂師というのはね、魂を元気にする力だ。とても珍しい力なんだ」
シュメリが僕を抱きしめた。
「属性外と言われた時、ある程度は覚悟したつもりだったのに。やっぱりダメだね。私はリンネを失うのが、怖くて仕方ないんだ」
「僕、どこにもいかないよ」
「わかってる。そうさせない努力もしている。……わかって、いるのにな」
シュメリが眉を下げて俯いた。
シュメリは一度、僕を失っているから。
同じ状態になるのが、怖いんだ。
僕も、怖いって思う。
だからシュメリの気持ちは、わかるんだ。
「僕、今すぐ婚姻してもいいよ」
それでシュメリが安心できるなら。
そのほうがいい。
「リンネ、それは……」
「それはダメだ」
バルトが、割って入った。
「リンネはシュメリと添い遂げる覚悟があるのか? 自分の気持ちを、ちゃんと自覚しているのか?」
バルトの顔がいつもより真剣だ。
大事な話をする時の顔をしている。
「僕は……」
完全に転生する前、僕はシュメリに恋していた。
あの気持ちは、今だってあるよ。
だけど、覚悟とか、自覚とかは。
「まだ、よくわからない。けど、好きだよ。それだけじゃ、ダメなの?」
「なら、俺と結婚することになったら、どうだ?」
「……え?」
バルトの問い掛けの意味が、わからない。
「俺が好きとシュメリが好き、何が違う?」
バルトの質問に、答えられなかった。
何が違うのか、わからなかったから。
(きっと違う。違うけど、上手く言葉にできない)
そんな自分がもどかしい。
「……もういい。わかってるよ、バルト」
シュメリが絞り出すように言った。
僕の体を強く抱き寄せる。
シュメリがゆっくり顔を上げた。
「ゆっくりでいいんだ。リンネがリンネでいてくれれば、それでいい」
そう話したシュメリは笑っていたけど。
その笑顔は辛そうで、僕のほうが切なくなった。
「ごめん」
気持ちを言葉にできないのは、弱いからなのかな。
シュメリの気持ちより僕の気持ちがずっと弱いから、わからないのかな。
好きなのに。
そればかりが頭をグルグルした。
目に滲みそうになる涙を、僕は必死に耐えた。
コメント
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第40話読み終えた!リンネが枯れた花を蘇生させちゃうシーン、すごくキレイで一気に引き込まれたわ。「精魂師」っていう能力の希少さがバルトとシュメリの反応でしっかり伝わってきたし、シュメリがまたリンネを失うのを怖がる気持ち、すごく胸にくるものがあった…。リンネ自身がまだ自分の気持ちを言葉にできなくて、好きなのにごめんって思う切なさが、すごくリアルでグッときた。続きすごく気になる!