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プロローグ:未完成の二人
「……まだ、好きなんだろ。田中のこと」
放課後、夕日が差すグラウンドの隅で、矢口がポケットに手を突っ込んだまま言った。
花恋は笑って答える。
「バレてた? さすが野球部の勘、鋭いね」
「いや、女の子ってそういう時、目に出るタイプいるんだよ。……お前、モロだから」
「うっさいな。でも、ありがと。矢口くん、こういう時だけ優しいよね」
「“だけ”は余計」
ふたりの間に、秋風が吹き抜ける。
まだ始まりじゃない。
でも——確かに、終わってもいない。
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