テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#探偵
橘靖竜
5,135
おだんご🍡
44
82
エレベーターの中まで手を繋ぐ必要はないのかと思ったが、侑加が離そうとしない。月呼はそのままにしておくことにした。
「私ね、避難訓練は真剣にやるタイプだったの。って、大抵の人がそうか」
緊張と気まずさをごまかすように話しかける。
「でね、避難訓練を不真面目にやっている男子がいると『ちょっと、そこの男子ー!』って怒鳴り散らしていた。ちゃんとしない人間は許せない」
当時を再現するように、怒ってみせる。エレベーターという狭い空間だと月呼の声は響いた。
「ははは」
侑加が笑う。月呼が見た目で異性から好意をもたれても、すぐに恋愛対象からはずれる要因。人を笑わせるつもりはないのにもかかわらず、お笑い芸人のような気質があるから。ただ、クールな侑加の笑顔を自分が引き出したことは誇らしくもあった。
「前沙さんは思ったことを言うタイプなんだ」
「意外?」
「ルール説明の時はほとんどしゃべらなかったから、集団でいる時は静観しているタイプなのかと」
「あの時は寝起きで、頭が働いていなかっただけなの」
月呼は自分の頭を指す。ふたりは静かに笑う。現時点で、月呼から見て侑加は好印象だった。侑加の前だと自分を飾る必要がなく、気をつかわなくていい。レムリア・ゲームはまだはじまったばかりだが、月呼は幸先のよさを感じていた。
一階のロビーに向かうと、そこには数名の参加者や局員がいた。ローラシアの姿もある。
「今は手を繋ぐ必要はありませんよ」
ローラシアが月呼たちを見て言った。
「えっ、そっ、そうなの!?」
月呼は繋いだ手をぱっと離す。
「別に、お互いが手を繋ぎたければ好きに繋いでもいいですが」
月呼の焦りに、ローラシアは被り物の下で笑っていそうだ。
「もーっ! ローラシアさん! からかわないでくださいよ!」
ローラシアはインターカムで呼ばれたようで、その場を去っていく。
「……あの人はバールバラじゃないの?」
侑加が月呼に聞いた。
「違うよ。彼はローラシアさんって言って、私の面談を担当した人」
「みんな被り物が同じなのに、違いが分かるの?」
「ローラシアさんはね、局員の中でもお喋りで人間味がある人だよ」
「ふーん……」
「さっきは私に意地悪をしていたけれど、根はいい人だと思う。私の話もつまらなくはないから自信を失う必要はない、みたいなことを遠回しに言ってくれたし」
「面談でそんな話までしたの? すぐに他人と関係を築けるのがすごい」
月呼はエジプトで現地の人とコミュニケーションが取れるくらいだ。時には食事を奢ってもらうことだってある。
「侑加くんの面談を担当した人はなんて名前だった?」
「なんだったっけ。ユーラメリカ?」
「ここの局員、みんな名前がおぼえにくいよね」
避難訓練には十名の参加者が集まった。この時点でのリタイア者はひとりもいないようだ。リタイアはいつでもできるのだから、今は参加しておく方が賢明ではある。
参加者は局員の指示どおりに動いて、避難経路を確認した。最終的に全員で正面の出入り口から外に出た。洋館は十二階建て。各階につき十部屋はあるようだ。
「うわあー! こうして見ると、立派な建物なんだね!」
月呼は洋館の規模の大きさに驚いた。
「いいなあ、大金持ちは。無人島を買い取って、自分の好きなように島を作りかえることができるんだから」
「……」
侑加は洋館を見つめたまま、なにも言わない。
「お疲れさまでした。この後、十二時から昼食ですので、遅れることなく二階のダイニングルームに集まってください」
ケノーランドという局員が参加者に告げた(避難訓練の場に局員のバールバラの姿はない)。
「えーっ。食事の時間が決まっているの? 各自、好きなように食べちゃだめなの?」
くるるは反発する。月呼としては食事が用意されていることは好都合に思えたが、集団行動が苦手な人間にとっては反対にストレスとなるだろう。
「はい。皆さんの部屋にそれぞれ一日の予定表を置いてありますので、目を通しておいてください」
参加者のスケジュールは厳密に管理されているようだ。このゲームは観光のない修学旅行のようなもの、と月呼は思った。
コメント
1件
いやあ、第9話もめちゃくちゃ面白かったわ!月呼が「避難訓練は真剣にやるタイプ」って自分語りするところとか、侑加を笑わせちゃう無自覚なお笑い気質とか、キャラの人間味がどんどん出てきて好きだわ。ローラシアにからかわれて慌てて手を離すシーンは思わず笑った。月呼と侑加の距離感が自然に縮まってるのもいいなぁ。管理局のスケジュール管理が修学旅行みたいって比喩もツボったわ。次が気になる🔥