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駅前にある雑居ビルの三階。
『Rabbit』とカラフルな文字で描かれた看板がドアにぶら下がり、
カラフルな電飾が巻かれ光り輝いていた。
「ね、涼太。来るの久しぶりなんじゃないの?」
咲山が坪井に問いかけながら、店の扉を開ける。
カラン、カランとドアに取り付けられた鈴の音が頭上で響く。
目の前に縦長の店内が広がった。
入り口のすぐそばからカウンター席が並び、恐らく真衣香たちよりも少し歳下だろうか?
若い男女が数人。
ガンガンと大きな音で鳴り響くBGMにもかき消されないほどの大きな声で、笑い合いながら酒を飲んでいる姿が目に入った。
思わず後ずさりそうになる、真衣香には馴染みのない雰囲気の店内は薄暗く、ブルーのライトが多方向から店内を照らしている。
「あ、涼太と夏美じゃん!久しぶり~!」
カウンター席が途切れた、奥の方から何人かが咲山と坪井の名を呼びながらこちらに向かってくる。
「わー、みんな久しぶり~。今日は涼太以外にも会社の子、もうひとり来てるんだよ~!」
咲山が後ろで黙りこくっていた真衣香の両肩を持ち、ずいっと群がる数人の先客の前に差し出す。
目の前にはピアスやネックレスなどのアクセサリーをジャラジャラと身にまとい、香水と酒の匂いを充満させる数人の姿。
誰に視線を合わせても、怖い。 直感的にそう感じた真衣香は下を向き、何とか声を張り上げた。
「はじ、初めまして! た、立花真衣香……です」
必死の思いで名を伝えると、どっと笑い声が生まれてしまった。
「なになに、夏美と涼太の連れにしちゃ毛色違うくね?」
「フルネームって! 真面目!」
「やだやだ、真衣香ちゃん何歳~? まさか高校生~?」
からかうような口調が返ってきて、真衣香は暑くなんてないのに背中にじわりと汗をかいたような気がした。
(どうしよう、最悪……。間違えた、絶対)
やはりこういう場は、もちろん慣れないし、大勢の前で発言するのも怖い。
それを言い訳になんて、もうしたくはないのだけれど……。
ケラケラと笑い飛ばされるくらいには、掴みは失敗したようだった。
はぁ……。と真衣香は自分に呆れ、小さく息を吐く。
そして思う。
赤の他人の集まり――世間の目は正直だ……、と。
焦る心の、どこか隅っこで冷静に考える。
異端なんだ。
この場に、自分は馴染めていないんだ。
傍目からも明らかに、坪井の隣にいて違和感がないのは咲山なんだ。
会社という小さな世界の中では、何かそういった属性的なものを隠せる要素があるのだと思う。
仕事の能力や、配属先や、そんなものでイメージはいくらでも補正できる。
その小さな世界を抜け出して、真衣香に突きつけられた現実だった。