コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
・
・【10 ナス】
・
「これは順番超えて一気にやる! 今すぐ! 放課後はレッツゴー!」
そう机に突っ伏している僕へ言ってきた真澄。
スマホを見ながら叫んでいる。でも僕の近くにいる。多分探偵としての仕事だ。面倒だ。
「何なんだよ、真澄。話へのカットインを凝ってますじゃぁないんだよ」
「いやいや! これすごいぞ! 写真付きだし! 見てくれ! 見てくれ!」
俺はどうせゴミステーションがちょっとだけ荒れているぐらいだろうと思ってその写真を見てみると、あまりにも異様な光景に目を丸くしてしまった。
その写真は町内の至るところにナスが詰まっている写真だった。
至るところというか、ナスが入りそうな隙間に全てナスが挟まっているみたいな写真。
「いや前衛芸術の良くない一面じゃぁないんだよ、何の風刺?」
「風刺とかは知らないけども、これは犯人の捜しがいがあるな! なぁ!」
なぁ! と言われてもと思いつつも、これは確かに犯人を捕まえたほうがいいということは分かった。
塀の隙間に中くらいのナス、下水溝というか排水溝の隙間に小さめのナス、横断歩道に設置された黄色い旗が置くところに細いナス。
「あのさ、これは町内一帯がそうなの?」
「おっ! やる気満々だな! いいぞ!」
「そんなオジサンの祭囃子はいいんだよ、オジサンしか盛り上がっていない町内会の出し物じゃぁないんだよ。スッと答えてよ」
「まあ何か、ある箇所で集中的にこうなってるらしいぞ! 詳しくは現地に行ってからだな!」
そう言ってから快活に高笑いをした真澄。
何がそんなにおかしいんだよ。
いやまあ考え方によっては笑ってしまうような事件だけども、思ったより深刻では? 知らないけど。
放課後になり、僕と真澄は現地へ直行した。
するとナスは既に撤去されていて、この事件の話を持ち掛けた依頼主の主婦の人がナスを袋に詰めていた。
本当はそのまま状態を保存していてほしかったんだけども、まあずっと異様な光景にしておくのも良くないし、仕方ないか。
主婦の人は村井奈子さんと言うらしく、今はこのあたりの部落の班長をしているらしい。
村井さんは僕と真澄に会って挨拶を交わすと、すぐにこう言い出した。
「こういうイタズラ、良くないですよね」
真澄は頷き、
「するなら泥!」
と叫んだ。
いや、
「泥もダメだろ、食べられないモノならギリギリセーフじゃぁないんだよ」
村井さんは真澄のボケに少々困惑してから、僕のほうだけを見て、
「さがしもの探偵さん、よろしくお願いします」
と言うと真澄が村井さんの視界へ入るように一歩踏み出し、
「勿論! 探偵の佐助と助手の真澄がやったります! 始めれば得る!」
それに対して村井さんは大人の会釈をした。
さて、まずは情報ということで、
「そのナスはいつ頃発見しましたか」
「早朝です。ゴミ出しに外へ出たらこんなことになっていて……」
ということは夜に行なったのか、それとももっと朝にやったのか、だから、
「その早朝というのは既に日が出ていましたか?」
「はい、太陽はもう昇っていました。午前の七時前後でしょうか」
というと早朝の可能性が高いかな。
それともう一つ、
「村井さん、このナスは売られているナスですか? それとも誰かの家の畑のナスですか? 誰かこの周りでナスを紛失した人はいませんか?」
すると真澄が、
「どういうことだ?」
と小首を傾げながら言ったので、
「僕の予想では誰かの家庭菜園か、農家さんのナスだと思うんだ。だってイタズラのためにわざわざモノを買わないでしょ? それこそ真澄の言っていた泥でもいいわけだし。でもナスを使ったということは多分誰かのモノのナスだと思うんだ。もっと言えば、犯人が恨みを持っている家のナスの可能性が高い」
それに対して村井さんは、
「それは分かりません。その、あんまり他の人には言わず、写真を撮ったらすぐに袋に詰めて片付けてしまったんで」
「じゃあ家庭菜園の可能性がありますね。この写真に写っているナスはまだ生育が良くはない。ということは家庭菜園で育てられている、アマチュアのナスですね」
村井さんは黙って頷いた。
まあ村井さんから得られる情報はこれくらいだと思うので、あとはもう、
「足で情報を稼ぐしかないですね、このあたりで家庭菜園をしている人や、そういうスペースがある家はありますか?」
と僕が聞くと村井さんが、
「このあたりなんですか?」
と質問文で返してきた。
だから僕は毅然とした態度で答えることにした。
「真澄や村井さんにバイアスを掛けたくないので言いませんが、犯人の目星はある程度ついています。犯人の特徴というか」
その言葉に真澄と村井さんはユニゾンして、
「「えぇっ?」」
と驚いた。
でも多分、それなりに僕は自信がある。だからこそハッキリとした口調で言う。
「きっとこの近くでナスを育てている人の畑からナスが盗られているはずです。ナスが挟まっていたのはこの地区だけですよね?」
「た、多分そうだと思います……別の地区でもあったという話も今日は聞きませんでしたし」
「それなら多分僕の予想で間違いないはずです。でも何か気になることがあったら、言ってください。三人寄れば文殊の知恵ですから」
すると真澄が手を挙げながら、
「ナス盗まれていたら大きな声で騒ぐと思うからこの近くじゃないと思う!」
「それは人によるでしょう、農家なら商売ですから騒ぐけども家庭菜園なら多分イタズラだと思って騒がない可能性もある。ではこの近くで家庭菜園している家に行きましょう」
村井さんがとりあえず知っている家へ行くことにした。
その家の周りには大きな土地があり、ベランダ菜園というよりは立派な畑だった。
村井さんが家のチャイムを鳴らすと、すぐさま家主のおじいさんがやって来た。
僕が喋ろうと思ったら、すぐに真澄が口を開いた。
「ナス盗まれていませんか!」
「いや先陣切り過ぎだよ、今、道の隙間という隙間にナスが挟まっていた事件を追っていて、もし貴方様が家庭菜園でナスを作っていらしたらそのナスが無くなっていたりしませんか?」
その家主のおじいさんはほぉ~と溜息をついてから、
「おやまあ、そんなことがあったんですか。それならそうですね、ワシの家のナスは盗まれていましたよ。そういうことがあったんですね」
村井さんはビックリしてから、
「そういうことがあったらすぐに連絡してください! そのための町内会なんですから!」
それに対して家主のおじいさんは、
「いやいや、どうせお金の無いヤツの犯行だと思ったんでそれなら仕方ないなと思っていたんですよ。でもそうですか、隙間という隙間? 隙間にナス? それはちょっと腹立たしいですね」
村井さんがナスの入っている袋を前に持ってきて、
「これ、長谷さんのナスですか?」
「まあサイズ的にはそうかな? もっと育てて大きいナスにしてから食べようと思っていたんですがね」
「じゃあこれ長谷さんに返しますね!」
「そりゃまあ良かった良かった。でもこんなにいっぱいもらっても食べ切れないから半分村井さんにあげますよ」
「いえいえ! もらったって元々長谷さんのモノなんですから!」
まあこんな町内会トークはどうでもいいとして。
早く解決して、家に帰りたいので、僕は核心を突くことにした。
「長谷さんは、子供に恨みを買ったりはしていませんか?」
すると真澄がすぐに、
「子供っ? 何で子供なんだ?」
「挟まっていたナスの位置です。写真を見る限り、挟まっていたナスの位置が全部低いんです。排水溝だったり、黄色い旗が入っているところだったり。早朝というのも子供が動く時間帯でもあるのかなって」
長谷さんは腕を組んで考えてから、首を激しく横に振ってこう言った。
「ダメだ! ワシはいろんな子供に説教しているから誰だか見当が付かん!」
「ではこの近くに住んでいる子供は誰でしょうか、ナスが挟まっていたのもこの近く、ナスがあった場所もここ、ということはこの家の近くに住んでいる子供が一番可能性が高いと思います。例えば、村井さんの家には小学生くらいのお子さんはいらっしゃらないんですか?」
村井さんは固まって下を向いている。
僕は続ける。
「何で村井さんが片付けたのか、僕は気になっていました。このあたりの班長とは言え、何か異変があったら警察に連絡してもいいでしょう。それをせずに村井さんが片付けて、この近くで探偵ごっこをしている高校生を頼った。つまり犯人に心当たりがあって、あまりことを荒立てたくはないけども、犯人を突き止めて注意はしないといけない。そういうことですよね?」
村井さんはポツリと声を出した。
「そうです……今日、息子が朝早く散歩に出掛けて帰ってきたら何か汗をかいていて……まさかと思って、でも、違うんじゃないかなと思いたくて……でも、貴方の話を聞いていると、やっぱりそうなんだな、って、思って……」
長谷さんと呼ばれている家主のおじいさんは後ろ頭をボリボリ掻きながら、
「まあ説教してやるしかないな」
と言ったところで、僕はこう言った。
「でも頭ごなしに否定するとまた何かしてしまうかもしれないので、ここは優しく、パーティをしながら言いませんか?」
「「「パーティ?」」」
今度は真澄と村井さんと長谷さんの三人がユニゾンした。もはやアカペラ・グループか。
いやまあそういうオウム返ししてしまうようなことを僕は言ったんだけども。
「このナスを料理して、まずは食べ物の大切さから教えていきましょう。その流れでうまいこと説教ができれば。最後のところは丸投げで申し訳ないんですけども」
それに対して長谷さんは、
「そうだな、ナスも消費しないといけないからな。まずはパーティにしようじゃないか」
というわけで、僕は長谷さんの台所を借りて、ナス料理を作り始めた。
村井さんの息子さんを呼び、真澄は一緒に遊んで警戒を解く要員だ。
長谷さんも人を呼ぶということで、部屋のセッティングをし始めてくれた。