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・【11 ナス・パーティ】


台所の調味料は自由に使っていいという仰ってくださった。

まずそれを確認する。

やっぱり畑をやっている家庭は食べ物に興味がある家庭なので、調味料が決して少ないわけではない。

ただ豆板醤のような、麻婆茄子を作れるような調味料は無いらしい。

あくまで一般的な家庭といった感じだ。

やっぱり違う味を四つくらい揃えたいというわけで、味噌ベース・めんつゆベース・ポン酢ベース・ケチャップベースと調味料から料理を考えることにした。

料理をするにあたって、長谷さんが家庭菜園の野菜をいくつか取ってきてくれた。

まずはこのピーマンとナスという夏野菜の黄金ペアの料理を作ろうと思う。

ピーマンは味噌とめんつゆで使わせて頂こう。

両用できるように一口サイズにカットし、ナスも一口サイズにカット。

ポン酢ベースとケチャップベースで使うナスも今のうちにカットしておくか。

食材を切る時に全部切っておいたほうが楽だから。

ポン酢ベースのナスは他のナスよりも薄めにカットする。これは電子レンジ調理をするから。

ケチャップベースはポン酢よりは厚いけども、味噌やめんつゆよりは薄くといった感じ。

ポン酢ベースとケチャップベース用のナスはそれぞれボウルに水を入れてあく抜きを行なう。

調理する時にクッキングペーパーで水気を取ればいいわけで。

まずはめんつゆベースの焼きびたしから作ることに。

揚げびたしも悪くないんだけども、台所を借りている状態で揚げ物料理ってどうかなと思ったので、ここは焼きびたしにする。

多めの油で素揚げにするようにナスとピーマンを焼いて、めんつゆに浸すだけの簡単な料理だ。

時間もそんなにあるわけじゃないので、まず最初に浸して味を付ける料理から作る。

さっさと終わったところで今度は味噌ベースの料理を作る。ナスとピーマンの味噌炒めだ。

まずナスを焼き始めて、頃合いを見てピーマンを入れる。ピーマンは温めすぎると苦みが出てくるのでサッとで良い。

味噌と醤油とだしの素で味付けした調味液を絡めて完成。

冷めてしまうと段々美味しさが損なわれていくので、ここからはスピード勝負といった感じでケチャップベースの料理を作る……前に、ここで真澄に連絡を入れて、このタイミングで長谷さんの家にみんな来てもらう。

連絡もさっさと済まし、また僕はフライパンと向き合う。

これは子供向けとして作るから砂糖も入れる。ナスとミニトマトのケチャップ炒めだ。

いつもはミニトマトの皮を剥く時もあるんだけども、ここはあえて皮を付けておく。

食材の大切さを教えたいので、皮は残すことにした。

皮にも栄養素や食物繊維があるので、ここを剥いてしまうと少しブレてしまう。

ケチャップに砂糖、めんつゆを入れた調味液、焼いていき完成間近で隠し味に醤油を加える。

この醤油の焦がした香りがまた食欲をそそるのだ。

このタイミングで真澄と村井さん、村井さんの息子さんが家へやって来たらしい。

玄関へ行くと、笑顔で手を振ってきた真澄に、会釈した村井さん、村井さんの息子は何だか目が泳いでいた。

無論、まだイタズラの件がバレていることは話していない。

だから村井さんの息子からしたら、今は気が気でないはず。

僕は台所に戻り、最後の料理に取り掛かる。

最後は料理と言うほどでもないんだけども、薄くカットしたナスをレンジで加熱してポン酢和えを作る。

加熱したナスは柔らかくなり、ポン酢と和えるだけで美味しく食べられる。

最後の盛り付けで鰹節を乗せて完成だ。

またこのタイミングで、味噌炒めのほうに畑で獲れた大葉を刻んで乗せる。早く乗せると大葉の色が変わってしまうので。

四品と人が揃ったところで、ナス・パーティが始まった。

ナスとピーマンの味噌炒めは素朴な色をしているが、大葉が入ったことにより、鮮やかな大地感が出て堂々と鎮座しているような感じ。

焼きびたしはしんなりとしつつも、ナスとピーマンは揚げ焼きしたので光沢を帯びている。

ケチャップ炒めは赤さに食欲が湧き出て、香りも甘めで優しい印象がある。

ポン酢和えは薄めにカットしているので、ナスの白い部分が大きく見えていて、ちょっと他とは違うイメージ。身も見るからにとろとろしている。

「今日は佐助くんという高校生が料理を作ってくれたんだ、ワシの妻は今ご近所さんと旅行中だからな、こんな美味しそうな料理は久しぶりだ!」

長谷さんは嬉しそうにそう仰ってくださって嬉しい。後は味だけども、どうだろうか。

真澄は手を合わせると、すぐさま村井さんの息子と目を合わせて、手を合わせるように促した。

すると村井さんの息子も手を合わせて、

「「いただきます!」」

と声を合わせた。

村井さんの息子も最初は警戒していたけども、料理を目の前にして何だか和やかな表情になったので良かった。そういう料理を作れたということだから。でもとにかく後は味。

村井さんも食べ始めたところで真澄が声を上げた。

「旨い! 焼いた味噌って何でこんなに旨いんだ! ナスも柔らかくて食べやすい! 大葉がまた口の中を爽やかにする!」

長谷さんもうんうん頷きながら、

「味噌のピーマンが思ったよりも苦くないな、野菜本来の甘みを感じられる。めんつゆも旨いな。油がコクを足しているが、揚げてはいないのでカロリーも抑えられるだろうし」

村井さんも最初は緊張した面持ちだったけども、今はニコニコしながら、

「このケチャップ味もいいですねっ、私、甘めな料理が好きなんですけども、ナスとトマトが合いますねっ。両方とも皮が付いているんですけども、それが歯ごたえになって私は好きです。噛むと、とろとろな実とのコントラストというか」

真澄がとにかくバクバク食う。いやまあオマエは最悪いいんだけども。全然食べなくてもいいんだけども。

でも長谷さんも村井さんも、その息子もちゃんと食べているようで嬉しい。

長谷さんはポン酢和えを一口食べて、

「こういう素朴な味もいいなぁ、サッパリしてまた別のナスが食べたくなる。いやぁ、佐助くん、ありがとう。そして!」

と少し注目を集めるように大きな声を出した長谷さん。

みんなの目線を集めたところで長谷さんは喋り出した。

「自然の旨味に感謝だな! 食べ物はやっぱり粗末にしてはいけない! 食べ物には常に感謝の気持ちを持って、決して遊んではならない! 遊んだとしてもそのあとはちゃんと食べてあげないといけないな!」

その言葉に少し大げさに拍手した真澄。村井さんも小さく頷きながら拍手した。

そのあと真澄が村井さんの息子に語り掛けた。

「分かった? ちゃんと食べ物には感謝するんだぞっ」

それに息子さんも元気に頷いてから、

「分かった!」

と言った。

すると真澄はニッコリしてから、

「だからナスで挟めちゃいけないんだぞ!」

と、めっといった感じに言った。

それに対して村井さんの息子は目が飛び出るほどビックリしてから、

「ぼ! 僕じゃないよ!」

と叫んだ。

額からは一気に汗を出して、あわあわと挙動不審にキョロキョロし始めた。

そんな村井さんの息子に僕は冷静な声でこう言った。

「ナスを挟めるという単語だけでそんな焦る時点で自分と言っているようなもんだよ」

すると村井さんの息子はシュンと肩を落とした。

どうやら観念したらしい。

僕は長谷さんのほうを見ると、優しく頷くだけだったので、僕が言うことにした。

きっと自分が言うと角が立つように言ってしまうかもしれないから、僕に任せたといった感じだ。

「まずイタズラは良くない。それも食べ物を粗末に扱うようなイタズラは本当に良くない」

「……ゴメンなさい……」

そう頭を小さく下げた村井さんの息子。

僕は続ける。

「何でこんなことをしたんだい?」

まずは本人に説明させる。それが反省を促す一番のポイントだ。

一方的に喋りたくなるけども、こういう時はまず向こうの言い分も聞く。それが大切なことなのだ。

「僕、このオジサンからよく叱られてたから、やり返してやろうと思って……」

「叱られていたってどんなことを言われたんだい?」

「車道に急に出るなとか、信号機を守れとか、うるさくて……」

「それは君のことを思ってのことなんだよ、確かに何度も言われたらうるさいかもしれない。でも、ちょっと嫌なことを言うけども、事故というものは、終わる時は一瞬なんだよ。道路での行動を今注意することで未来が続いていくんだ。それに、そのことを守れば長谷さんもそんなことは言わないよ」

「そうなの……?」

そう言いながら村井さんの息子は長谷さんのほうを見た。

長谷さんはゆっくり、だけども確実に頷いた。

僕はもう少し念を押す。

「そもそも長谷さんは君に注意しても得なんてしないんだ、こうやって君から反感を買うだけ。それでも何で言うか、それは子供を守ることが大人の責任だからだよ。みんな君のことを大切だと思っているんだ。勿論君以外の子供たち、みんな、ね」

「大切……」

「そう、大切な君の命を守りたいだけなんだ。だからちょっとくらい耳を傾けてほしいんだ。気を付けてほしいんだ。どうかな?」

「……分かった……」

一応どうやら話を分かってくれたみたいなので、これでおしまいかなと思っていると、真澄がこう切り出した。

「で、何でイタズラがナスを挟めるなの?」

まあ確かに気になるけども、もうそれはいいだろうとも思ったけども、村井さんの息子は口を開いた。

「あの、まず、畑を荒らすというイタズラを思いついて、で、ナスだからいいやと思ってナスをとって、でもナスいっぱい持ってたら怪しいから道に置いとくことにして、そのまま置いても面白くないから挟めていって、挟まったナスがこのオジサンの家のナスだと分かれば、このオジサンがしたことになるかもしれないから」

まさに子供の理由といった感じだ。このオジサンがしたことになるかもしれないからじゃぁないんだよ。ならないよ。

こんな話を聞いて、何をどう言えばいいか迷っていると、真澄がこう言った。

「分かる、ナス挟めたら面白いもんな!」

そう言ってニカッと笑った真澄。いや変なとこ共鳴するな。カスとカスの交響楽団じゃぁないんだよ。

その言葉に笑ったのが長谷さんだった。

「確かに! 食べ物で遊ぶと確かに面白いんだよな! ダメだけども! まあ今日はこうやって料理してもらえたし、良い日だったということにしてやるか! おい坊主! イタズラぐらいはどんとこいだ! でも車道にだけは急に出ちゃいけないからな! そういうドッキリはオマエのお母さんが一番困ってしまうからな!」

「……ママ、困るの……?」

「困るよ! 当たり前じゃない! 私はタカシが一番大切なんだから!」

「じゃあ分かった、車道をもっと気を付ける……」

まあなんとか話が落ち着いたみたいだ。

こうやって大勢の人たちから料理を食べてもらえたし、まあ僕としても今日のところはいいだろう。

僕と真澄、それに村井さん親子も一緒に長谷さんの家を後にして、長谷さんに真澄は大きくバイバイした。

その時に真澄が村井さんの息子へ、

「ほら! ほら!」

と言ったので、村井さんの息子も分かったみたいで、長谷さんに手を振った。

すると長谷さんも笑顔で手を振った。

何だか丸く収まったみたいで良かった。

村井さん親子とも別れて、二人で歩いていると真澄がまたどこかへ手を振ったので、

「村井さんの息子が追いかけてきたの?」

と聞くと、真澄が優しく首を横に振って、

「ううん、今、遠くに電車が通ってたから手を振ったんだ」

「いや! マジで子供か!」

村井さんの息子は分かってくれる子供だったけども、真澄は分かってくれそうにない子供だと思った。


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