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第79話 「最後の春」
2023年4月。
入学式から数日。
柳城高校野球部は通常練習へ戻っていた。
三年生になった塁と史陽。
グラウンドに立つ姿にも、自然と風格が出てきていた。
一年生たちはまだ緊張している。
練習の準備一つにも戸惑う。
そんな姿を見て史陽が笑う。
「去年の俺たちやな」
塁も苦笑する。
「もっとひどかった気がする」
その時。
一年生がボールを落とす。
慌てて拾おうとして転びそうになる。
周囲から笑いが起きる。
塁が近寄る。
「大丈夫か」
一年生は慌てて頭を下げた。
「すみません!」
塁は笑う。
「謝るな」
「次から気をつけたらええ」
その姿を遠くから見ていた福間監督が少しだけ目を細めた。
春の県大会。
柳城は順調に勝ち進んでいた。
だが。
以前のような圧倒的な強さではない。
接戦も多い。
苦しい試合もある。
それでも勝つ。
勝負どころを知っているチームになっていた。
準決勝。
柳城 3-2 西福岡高校。
決勝。
柳城 5-3 東海学院高校。
春の県大会優勝。
だが。
表彰式の後。
選手たちの表情は落ち着いていた。
目標はここではない。
夏。
最後の甲子園。
それだけだった。
ある日の放課後。
塁と史陽は部室に残っていた。
ふと壁を見る。
歴代主将の写真。
先輩たちの名前。
そして。
佐伯たちの代。
その横には。
啓介たちの代もあった。
史陽が言う。
「兄ちゃん達もここにおったんやな」
塁は写真を見つめる。
啓介。
舞。
田村。
福間監督。
たくさんの人が柳城を作ってきた。
そして今。
自分たちの番だった。
帰り道。
夕日が校舎を赤く染めている。
史陽が空を見上げる。
「あと三か月やな」
塁は頷く。
三年間。
長かったようで短かった。
悔しい負けもあった。
嬉しい勝利もあった。
その全てを背負って。
最後の夏へ向かう。
校門を出る時。
風が吹いた。
桜の花びらが一枚。
ゆっくりと舞い落ちる。
春は終わろうとしていた。
そして。
運命の夏が近づいていた。
第79話 終
#高校生
コメント
1件
塁が一年生に「謝るな」「次から気をつけたらええ」って優しく声をかけているシーン、じんわりきました。去年までああやって教わる側だった二人が、いつの間にかチームを引っ張る存在になってる。福間監督が目を細める場面も含めて、静かに「積み重ねてきたもの」が伝わってくる回でした。あと三か月、夏が始まる予感と桜の花びらが合わさって、すごくいい余韻を残してくれましたね。