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※もう長くなりすぎて飽きられそうなのでここでかなり省いて進めます。急すぎ展開ですが……。
夜八時を回っていた。目的もなく歩いていた。──いや、ただの“徘徊”だ。
吸いかけのタバコを咥えて、無意識のまま駅前から路地へ。
気づけば──遥の家の前に立っていた。
(……何してんだよ、オレ)
さすがに自分でも呆れる。
「戻らない」と決めたはずの場所に、脚が勝手に向かっていた。
そのときだった。
──バン、という音。
玄関が激しく開かれ、闇の中からひとりの影が転がり出てきた。
「……っ、くそ……どこだよ、あの……っ」
聞き取れなかった。
声が濁っていた。鼻血と、嘔吐と、泣き声で。
(……遥?)
反射で身を引いた。
声をかけそうになって、喉元で飲み込む。
──その姿が、あまりに異様だったからだ。
よれた制服。片袖が引き千切れかけている。
左足をかばうように引きずりながら、這うように塀際まで。
それでも背筋は伸ばしていて、どこか“無意識に格好をつけてる”ようにすら見えた。
(オレの前じゃ、見せなかった顔だ)
無理やり顔を整えて、視線だけで「何も言うな」と命じてくるような──
そんな、目。
──全身から、「壊れてる」が漏れていた。
(……限界、なんてもんじゃねぇ)
それでも立ち上がろうとする。
路地の隅で、歯を食いしばって、膝を支えに身体を起こそうと──
その背中を見て、
初めて、日下部は「もうオレには無理かもしれねぇ」と思った。
守れない。
壊すことすら、もう許されない。
こいつはもう、“誰かのもの”になってしまった。
いや、“何か”の所有物になってしまってる。
「……」
声をかけられなかった。
気づかれないように、その場を離れた。
吸いかけのタバコはとっくに火が消えて、湿ったまま指に挟まっていた。
(──オレが学校行ったところで、何ができんだよ)
そう思った。
でも、その背中が焼き付いて、頭から離れなかった。
翌日、日下部は制服を引っ張り出した。
クローゼットの奥に突っ込んでいた、皺だらけのやつ。
(“壊される瞬間”を、誰のものにもしたくねぇ)
──ただ、それだけだった。