テラーノベル
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「……なぁ蓮。現代の若者というのは、なぜわざわざ自分の愚行を世界中に発信して、人生を台無しにしようとするんじゃ?」ある日の午後、コマがスマホの画面を見ながら、心底理解できないといった様子でため息をついていた。
画面で流れていたのは、地元の有名レストランの厨房で、アルバイトの少年たちが売り物の食材を使って悪ふざけをしている動画だった。瞬く間に大炎上し、ネット上では彼らの本名や学校、実家の住所まで特定する動きが始まっている。
「ただのバカだよ。画面の向こうの『いいね』っていう一瞬の麻薬のために、一生消えないデジタルタトゥーを自ら刻み込んでるんだからな」
蓮は冷房の効いた部屋で冷たいお茶をすしながら、冷ややかに言い放つ。
そこへ、一人の初老の男性――そのレストランのオーナーである松下が、顔をごっそりやつれさせて境内に駆け込んできた。
「烏丸さん、助けてくれ……っ! バイトの連中があんな動画を上げたせいで、お店に苦情の電話が鳴り止まないんだ! 予約はすべてキャンセル、株価は暴落、このままだと何十年も守ってきた店が倒産してしまう……っ!」
松下が泣き崩れると、彼の背後から異様な怪異が這い出てきた。それは、動画を見た数百万人のネットユーザーの「正義感に基づいた怒り」と「悪ふざけの代償」が融合して生まれた怪異――『大炎上のタトゥー(炎上ムカデ)』だ。
ムカデの体は、無数のスマホ画面が連結してできており、そこから「謝罪しろ」「店を潰せ」「人生終了」といった罵詈雑言のテキストが、赤黒いノイズとなって吹き出していた。
「(あーあ、一度燃え広がった大衆の正義感はタチが悪い。正論で殴るのが一番気持ちいいから、誰もブレーキを踏まないんだよな)」
蓮は面倒くさそうに立ち上がり、いつものように電卓を叩いた。
「松下さん。お祓い代は、お店の損失とネット上のデータ消去の規模を考えて、きっちり40万円。その代わり、アンタの店を焼き尽くそうとしてるその『悪意の火だるま』を、システムごと消火してやるよ」
「お願いします……! お金ならいくらでも払う、店を、従業員の生活を守ってくれ……っ!」
松下が懇願した瞬間、炎上ムカデが巨大な咆哮を上げ、赤黒い炎の触手を伸ばして社務所ごと飲み込もうと襲いかかってきた。
「コマ、他人の人生をエンタメ消費するネットの暴徒どもを、アクセス拒否(シャットアウト)するぞ! 神力をよこせ!」
「おうともさ! 悪ふざけの代償とはいえ、関係のない店の歴史まで焼き尽くさせるものかァ!」
コマが怒りで激しく輝き、その神聖なエネルギーが蓮のタッチペンに集約される。ペン先からは、燃え盛る悪意のデータを冷却して凍結する「サーバー切断」の青い稲妻が激しく放たれた。
蓮は襲いかかる炎の触手を鮮やかに躱し、炎上動画が転載されて拡散し続けている「まとめサイトのまとめ役(インフルエンサーのまとめデータ)」のコアを瞬時に特定した。
「正義の味方を気取って他人を叩くなら、自分のアカウントが灰になる覚悟をしてからにしろ。――強制終了(ミュート)だ」
蓮がタッチペンを、怪異のコアに向かって鋭く突き刺す。
「――拡散連鎖遮断・元データ完全消去(ログ・クリア)!!」
ズガァァァン!!!
社務所に凄まじい電子的衝撃音が響き渡り、炎上ムカデは「このコンテンツは非公開にされました」というエラー警告の悲鳴を上げながら、今度はシュレッダーにかけられた「ただの利用規約の紙屑」へと姿を変え、空気中にサラサラと消滅した。
同時に、ネット上に転がっていた問題の動画、および松下の店に関するまとめ記事や個人情報の特定カキコミは、すべてプラットフォームのサーバーから一斉に強制削除され、元のクリーンな状態へと戻った。人々の関心も、まるで魔法が解けたように別のトレンドへと移っていった。
数日後、松下の店には平穏が戻り、悪ふざけをしたバイトの少年たちには、松下からきっちりと法的な損害賠償請求(現実の罰)が下されることになったという。
夜。社務所で蓮はホクホク顔でお札を数えていた。
「いやー、大炎上の消火活動で40万。やっぱりネットのトラブル解決は一番実入りがいいな」
「蓮……お前、相変わらず動機はゲスいが、今回は伝統ある店を救ったな。あのバイトの少年たちも、ネットで私刑にされるより、法的にきっちり裁かれた方がまだ更生の余地があるというものじゃ」
コマが、松下からお礼に届いた最高級和牛のジャーキーを美味しそうに食べながら、満足げに鼻を鳴らす。
「ネットの私刑はただの娯楽だからな。さぁ、明日からは『企業の危機管理・SNS炎上対策特設フォーム』のバナーをホームページの目立つところに貼るぞ!」
拝金主義のクズ神主。彼の冷徹なタッチペンの前では、ネットに渦巻くどんな大炎上も、一瞬で消去されるただのバグデータに過ぎないようだった
コメント
1件
ああ、第16話読み終えました……! 今回はSNSの炎上とデジタルタトゥーがテーマで、すごく身近で胸が痛くなる話でしたね。松下さんの悲痛な叫びと、蓮の「正義の味方を気取って叩くなら覚悟しろ」っていう台詞がめちゃくちゃ刺さりました。ネットの私刑を娯楽扱いしてる蓮のスタンス、現実的で好きです。40万の祓い代で店と人生守るって、この作品らしいゲスいカッコよさでした!🦋