「?、ルナ…?」
やばいやばいやばいやばい、
カタカタと本が動く音がする。
分厚い靴のカタログが薄い布団に包まれたこともあって、ボフボブと布団と共に音を立てる。
…アルベルトが外に出ようとしてる!
このままだと、まずい!そう思った私は勢いよくサイラス王子の服の袖を掴んだ。
「お、王子…
す、少し離れたところで話しませんか?
わ、私…なんだか暑くなっちゃいました。」
私はそう言いながら手で
パタパタと風を仰いで、
上着を脱ぎ暑くて暑くて仕方がない素振りを見せる。
しかし、
ここでも何かのスイッチを押してしまったのか、サイラス王子は動くことなく私を引き寄せた。
「…お前、俺を誘っているのか?」
「ふぇ?」
「そんなに肌を見せて俺をどうするつもりだ。まさか、もっと俺の心を掻き乱したいと思っているのかこの小悪魔め。」
「えっ…いや、私は…ここを離れたいだけで、ちょっ…離してください、
私、汗臭いですから…!」
どうしてしまったのか王子は突然私を抱きしめるとぐりぐりと肩に顔を埋めた。
湿った髪が冷たくて、すこしくすぐったい。
「今の男(アルベルト)を諦めて、俺にしろ、ルナ。」
「いや、待って…ちょっと、だ…誰かっ!…んっ!」
その時、王子の唇がちゅっと首筋に吸い付いた。
そしてカタカタと動く本が一瞬だけ
動きを止めた後、勢いよく開いて中からアルベルトが出てくる。
「貴様ァッ!ご主人様になにをした!この俺が許さん!」
「あー!」
…出てきちゃったー!
自分の後ろで弓を手に王子を睨むアルベルトの気配がして私はしまった、と呟いた。
そして彼を目にした王子は突然ケンタウロスが出てきて驚いたのか私から身を離す。
「!?、お前はなんだ?…ケンタウロス、いや…ユニコーンか?見たことない召喚獣だな。
…まぁいい。おいお前、今良いところだから邪魔するな、消えろ。」
「消えるのは貴様だこの阿呆が!」
「アルベルト、阿呆って言っちゃダメ!」
「むっ…アルベルト?まさか…ルナ、この召喚獣がお前の恋人なのか?」
「あっ…。」
その瞬間、思わず私は自分の唇に甘噛みした。ここで名前を出すなんて、
なんて間抜けな口なんだろう。
「なんてことだ、
召喚獣と恋人になるなど生まれてから
一度も聞いたこともないぞ。それも
こんな奴のルナが…。
ああ、かわいそうなルナ、どうせこの獣に純潔な心を弄ばれていたのに違いない。」
「黙れ、お前こそ食事の時からずっとご主人様をいやらしい目で見つめていたくせに、
ご主人様の慈悲を好意だと
勘違いしてわいせつなことをしようとしたお前に俺を蔑む資格はない。」
「ちょっ…あの、ふ…2人とも?」
「ほう?資格がない?
なら言わせてもらうが、
お前の方には俺を蔑む資格があるのか?
ルナと一緒に食事をしたこと、服のボウネクタイを結んでもらったことはあるのか?
…ないよな?お前は服すら着ない召喚獣なのだから。」
「フン、その程度で俺よりお前が上だと思っているのか?
そんなものは社交辞令から派生された行為に
過ぎんわ、
俺はご主人様を乗せたこともあるし、
髪をすいてくれたこともある。
こういった肌のふれあいをお前はご主人様としたのか?
接待でしかご主人様と距離を詰められなかったお前にとやかく言われる筋合いはない!」
…やばいやばい、だんだん声が大きくなっていってる。
フクロウがばさばさと遠慮して撤退するほどの声で2人の言い合いはヒートアップしていった。
アルベルトはなぜか自分が恋人ではないことを言わないし、
王子は絶対こんな時に使うものではないであろうヴァルキリーを呼び出そうとしている。
このままだと、フクロウにも、ヴァルキリーにも迷惑がかかると考えた私は2人の間に入ってなんとか話の熱を収めようとした。
するとその時、しっとりとした女性の声がうっすらと聞こえた。
【スリープレイン】
それは睡眠を促す賢者の魔法だった。
話に夢中になっていたアルベルトとサイラス王子はまんまとその魔法にかかり、
地面に倒れ眠りにつく。
「ふふ、ややこしいことになったわね」
「…ユリア。」
「取り合いになっていたところ、
ごめんなさいね、ルナ……緊急事態よ。
アルベルトがあなたの元に生まれた
秘密が分かったわ。」
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