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「アルベルトが…召喚された理由?」
「ええ。」
王子用に淹れたホットミルクを片手にユリアは頷いた。
「貴方が野宿をしに外へ出た後、
ジャックと2人で召喚獣に
ついて調べて見たの、
この村は魔王の城に近い場所にあるし、
魔法に詳しい人達がたくさんいるから
何か情報が得られるかもって…」
「なるほど、調べてくれてありがとう。」
「いいのよ、それでね、
大変なことがわかったの。」
ユリアはそう言うと、ポケットの中から綺麗に折り畳まれた一枚の紙切れを取り出した。
広げてみるとそれには1枚の絵が描かれていた。
「!?」
私はその目を見て驚いた。
絵に描かれていたのは1匹のケルベロスだった。
足は馬になっていて、星の装飾が入っていて、でも肌は褐色で、白馬を連想させるたてがみがついていて…驚くほどにそっくりだったのだ、隣で寝ているアルベルトと。
「ゆ、ユリア…これは?」
「ええ、アルベルトよ。私も驚いたわ、…しかもこれ、村の人によると魔王に仕えていた最強の軍神だったらしいのよ。」
「ええっ!?、ていうことは…なに?アルベルトは…」
「魔王側の召喚獣、つまり魔物ってことね」
「…。」
衝撃の真実に私は思わず固まってしまった。
隣で寝ているアルベルトをみると、
彼は私の手を握ってすやすやと眠っている。
頭を起こさないように撫でてやると彼は猫のように気持ちよさそうな顔をして、
ごしゅじんさまぁ…と腑抜けた声をこぼした。…アルベルトが、魔物。
魔物は魔王に仕える、人間を脅かす敵だ。
ユリアはまっすぐな目で私を見る。
「…私は、アルベルトだけは討伐したくないよ。」
「そうよね、貴方ならそう言うと思ってたわ。でも、これが分かった今、
わたしたちはまずい状況にいるわよ。
サイラス王子に召喚獣を
飼っていることがバレて、
おまけにその召喚獣が魔物ってこともバレたら、ルナが魔王側の人間…いわば、
スパイと疑われる可能性が十分にある。」
「うん…ユリアとジャックも、疑われるよね、どうしよう…。」
「そうね…。それに加えてサイラス王子はあなたに首ったけだから、あなたの恋のライバルの彼が誰なのか調べるのは目に見えるわ。
…バレるのは、時間の問題になりそうね。」
ユリアのその言葉に私は下を俯いた。
さっきまでぎゃーぎゃーと賑やかった夜は一気に鎮まり、フクロウの声がさらに響き渡る。
しばらく黙っている私に
ユリアはヒントを与えるようにこう言った。
「ルナ、今の王子とアルベルトは
私の魔法で長期間眠るようになっているわ。
それはそれは深い眠りよ、
もし2人が起きたとしても、起きてしばらくは夢の中にいるかのような感覚に囚われるわ。
だから多少、変なことを言っても判断が鈍って信じてしまうでしょうね。」
ユリアの目が私から王子にそれた。
オレンジ色の彼女の瞳が罪悪感に染まり、
ちらちらと私の答えを伺っている。そしてその様子に、私は彼女が何を言いたいのかを感じ取った。
「…うん、分かった。
私、王子を選ぶよ。」
「…そう。」
「うん、私…ユリアとジャックを巻き込みたくない。」
「……ごめんなさいね。」
「ううん、私は…大丈夫。」
「…アルベルト。」
その日の夜、私は寝る前にもう一度アルベルトの手を握った。
まさか魔物だったなんて…といまだに信じられない幼稚な心を強引に拭って、
私は目を閉じ、これまで彼に助けてもらった数々の窮地と、楽しい思い出を振り返った。
「…アルベルト、ごめんね。」
そう呟いて、私は彼から離れ、
明日に備えて王子のそばにぴったりとくっついた。