テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
霜月ユキナリ
・概要
主人公。狼遊戯学園に転入することになった高校二年生。一人暮らし。
トモヤとは幼馴染みでありクラスも一緒。ミサキともクラスメイトである。リンタロウは軽音部の後輩であり、声が良いと言われ、半強制的にボーカルにされた。コウに生徒会の空席だった庶務にされ、こき使われている。担任の先生であるショウマとは近所付き合いがあり、よく恋愛関連のことでからかわれる。
頼まれたら断れないし、流されやすいお人よしで、天然気味。しかしたまに鋭い一面を持つ。
筋力、精神力、知力、経済力、魅力という五つのステータスを、筋力ならばランニング、精神力ならば人助け、知力ならば勉強、経済力ならばバイト、魅力ならバイト先のカフェにたまに来るリンカのお願いを聞くことで上昇させる。
「この学園…おかしいぞ!?」
「生徒会から逃げるって正気じゃないよ!? えっ、ちょ、待って! リンタロウ待ってー! うわー!!」
「俺は! 女の子じゃ! ない!!…です!」
「お、俺と…恋してくれませんか?」
「…どうして、こうなっちゃったんだろう」
森ミサキ
・概要
高校二年生。ユキナリ、トモヤとは同じクラス。クラスのアイドル的な存在。何故かエセ関西弁を話す。
ユキナリにみんなの好感度や攻略方法を教えてくれる。
リンタロウとは複雑な関係なのか、少々気まずそうにしている。
「ユキナリくん、なんか元気あらへんなあ。うちでよければ聞くよ?」
「ふむふむ、ユキナリくんはその人が気になるんやね! せや! うちが手伝ったる!」
「んー、気を付けてねユキナリくん。何か嫌なことが起こるかもしれへん」
「前に、進めなかったんだ。弟に…リンタロウにあの日からずっと、会えていないの」
「ありがとう、ユキナリくん。君のおかげで私…リンタロウにやっと謝れる…!」
ネタバレ
リンタロウとは実の姉弟だったが、父親が事故に遭ったことで、金銭的にも精神的にも二人を育てられないということになり、リンタロウだけ叔父の家に引き取られた。リンタロウルートで判明する。
リンタロウを一人ぼっちにさせてしまったことや、高校生になるまでに会えなかったこともあって、罪悪感が半端なかった(ミサキも心が不安定だった母を支えていた)。
藍沢トモヤ
難易度 ☆
ヒント ステータスがどんなに低くても大丈夫。攻略対象の中では、比較的優しいが良心が痛むのなら拒絶しないほうがいい。
・概要
ユキナリの幼馴染み。高校二年生。とあるパン屋でバイトしている。
小学生の頃はいじめられていたが、勇気を出して助けてくれたユキナリを守るために、強くなることを決意し、有言実行した。しかしながら、大切な友達という居場所を失いたくないという気持ちと、拒絶されてしまった時の恐怖を想像して、一歩を踏み出せずにいる。
リンタロウに関してはとても明るくていい後輩だと思っている。
コウに対して何か複雑な感情を抱いている…?
ショウマのことは本能的に苦手なのか、無意識に避けている。
「ユキナリくん、変わらないね。…良かった。僕のこと、忘れちゃったんじゃないかって、不安だったんだ」
「君に、置いて行かれたくない。一人にしないで。何でもするから。…僕はあの日からずっと、君のためにできることを探してるんだ」
「新作パンを作ったんだ。ユキナリくんに、一番に食べてほしくて…」
「リンタロウくんって、すごいよね。ギターを振り回したり、ゲリラライブやったり、廊下を走り抜けたり…生徒会が怖くないのかな…?」
「…ユキナリくん、最近、あの人と仲良いよね。…何か、あったの?」
ネタバレ
トモヤがコウに抱いている感情は嫉妬。
実は強くて自信にあふれている彼に会う(というか存在を認識する)度に、劣等感を感じていた。
さらにユキナリに尊敬されていて、そこに恋愛感情をプラスされてしまえば、その嫉妬は抑えきれない。
ユキナリを守るためだったはずの思いは、徐々に歪んでいく。
飯田リンタロウ
難易度 ☆☆
ヒント 分かりにくいが感情のアップダウンが激しい。基本的にミサキとの橋渡しに徹すれば滅多なことは起こらない。さらに筋力と精神力が高ければなお良い。
・概要
高校一年生。軽音部の後輩。
ユキナリが教室を一人で歌を歌いながら掃除していた時に、突如窓から入ってきて、軽音部に入らないかと勧誘した後に、半強制的に入部させた。
ゲリラライブを学校中で行う問題児揃いのバンド、『Merry wolf』のボーカル兼ギター。ちなみにバンドメンバーはキーボードのイトカ、ドラムのリツ、ベースのレイト。ラキナはマネージャーである。顧問はイオリとサクマル。そして、ライブを終えた後の生徒会との鬼ごっこは有名(もはや伝統)。風紀委員どころか教師ですら匙を投げた軽音部の取り締まりは、現生徒会が請け負っている。
コウのことは、からかい甲斐のある面白い先輩であり、天敵でもある。いわゆる有名な猫のTとネズミJの関係。
トモヤに対してある感情を抱いている…?
ショウマの授業はあまり聞いていない。
「ねえ!♪ 君の声、すっごく綺麗だね!♪ 軽音部に入部してよ!♪」
「あはは♪ コウくんって面白いよね~♪ 毎回諦めずに追いかけてくるんだよ~?♪ ユキナリくんも気をつけてね~♪ 捕まっちゃったら反省文だから~♪」
「家? …ああ、別に大丈夫だよ。あの人は僕がいようがいなかろうが気にしないし」
「あのさぁ! ユキナリには関係ないだろ!? 僕の家がどうなっていようが、家族と離れ離れなっていようがさ! …やめろよ。そんな風に優しくするの。…本当に、意味が分からない。…お願いだからこれ以上、僕に君を好きにさせないでよ」
「…へえ、トモヤくんってユキナリくんの幼馴染なんだあ」
ネタバレ
トモヤに対して抱いている感情は嫌悪。
自分よりもトモヤを優先するユキナリを徐々に許せなくなり、ふとした瞬間にユキナリに殺意が湧いてしまうようになってしまう。
ダメだと分かっていながらも傷つけてしまい、きちんと謝るものの、やめることはない。
愛情と憎悪は表裏一体。ひっくり返るのは、一瞬だった。
赤村ショウマ
難易度 ☆☆☆
ヒント 上げるべきステータスは魅力と精神力と知力。すらりと躱すスタンスを心掛けるべき。
・概要
ユキナリの自宅の近くに住んでいる高校教師。担当は数学。
フェミニストで女子生徒及び女性教師は必ず一度は口説かれるらしい。ユキナリも、文化祭で女装する羽目になった時に、勘違いされて口説かれたことがある。
ユキナリのことは近所付き合いもあって、かなり気に入ってる。休みの日にたまに遊びに連れていくときもあれば、勉強を教えることもある。ちょっと(…?)自分のいかがわしい恋愛体験談を話して、ユキナリを赤面させるのも楽しんでいる。
どこか世の中を達観というか諦観していて、好感度を上げるとユキナリにちょくちょくそのことを零すようになる。そして、『…やべっ、かっこわりぃ所見せちゃったな。忘れてくれよ。美味いもん奢ってやるからさ』って誤魔化すように笑うまでがセット。
基本的にトモヤ、リンタロウ、コウに悪感情は抱いていない。強いて言うならば、たまにこいつら怖いなあーって感じ。
「はーい、お前ら席に着けー。 今日から転校生が来るから仲良くしろよー?」
「はじめましてだね。俺は赤村ショウマ。君みたいに可愛い子は生まれて初めてだよ。どうかな? 良ければ話を聞かせてほし…って、ユキナリくんなのか!?」
「うわーマジか。男相手に俺が…? しかも教師と生徒だし…? あー、どーしよっかなー…まあ、適当に相手しとけばいいか」
「あははっ、いやあ久し振りだな。ここまで焚きつけられたのはさ。それって、俺に愛される覚悟があるってことだろ?———逃げるなよ、ユキナリ」
ネタバレ
来る者拒まず去る者追わずなスタンス。
ユキナリとの恋愛も、最初はすぐに飽きるだろうとテキトーに相手をしていたが、思った以上に焚きつけられた。逃がしてやれそうにないけど、お前がそうしたんだから良いよな?って、感じで本命であるユキナリだけは何が何でも逃がさない。何だったらユキナリを共有することも吝かではないので、他三人とも手を組むことも可能。
眠れる獅子を起こすとは、こういうこと。
新村コウ
難易度 ☆☆☆☆
ヒント 無理だ諦めろ。…と、言いたいところだが、全部のステータスを最大まで上げるべき。マジで気休め程度だけどな。
・概要
学園トップの優等生である先輩。高校三年生。生徒会会長を務めている。鬼会長だの冷血漢だの生徒から怯えられ、教師から一目置かれている。ちなみに生徒会メンバーはチグサ(副会長)、チエ(書記)、リンカ(会計)。
わざわざユキナリを呼び出して、庶務に任命した。これも理由があり、実は幼い頃にユキナリに出会っていて、短い期間だったものの『大きくなったらずっと一緒にいよう』という約束を離れ離れになってもずっと忘れることなく再会を願い、そしてやっと出会えたと思っていたらユキナリ本人はすっかり忘れていた。自分の近くにいれば思い出してくれるかもしれないという期待半分、昔のような純粋ではない自分を見て幻滅されないか不安。
トモヤのことは正直に言って嫌い寄りの苦手だが、悪いやつではないと判断している。
リンタロウに関してある思いを抱いている…?
ショウマに関してはなんでこいつは教師になれたんだって思ってる。
「霜月ユキナリ。お前は今日から俺の庶務だ。異論反論は許さん」
「軽音部! ゲリラライブはやめろと言ってるだろ! って、おいこら逃げるな! 大人しく反省文を書けー!」
「…俺には誰かを愛することも、恋することもできない。…分からないんだ。あの日からずっと。それとも、お前が教えてくれるのか?」
「お前の幼馴染み…藍沢トモヤだったか? …ふん、まあ良い奴じゃないか。大事にしろよ?」
「…リンタロウには気を付けろ。何かされたらすぐに言え」
ネタバレ
リンタロウに対して抱いている感情は恐怖。
リンタロウの異常性を知ってしまい、ユキナリは自分が守らなくてはと決意を固くしている。
過去に大切な人を力及ばずに失ってしまった経験が、両親から得られなかったそれらが、彼の思考を狂わせていく。
よくある乙女ゲームみたいにステータスを上げて、選択肢を選んで好感度を上げる。
登場人物一覧でも書いたけど、筋力、知力、精神力、魅力、経済力っていう五つのステータスを上げる。そして六つ目の隠しステータスである第六感。何でこんなステータスがあるのかというと、今作ではハッピーエンドが存在しないため、危機を察知して、バッドエンドを回避するための隠しステータスであると考えていただければ…。つまりは攻略対象たちを疑う必要が出てくるということ。
そもそもこの五つのステータスは攻略するためのステータスではなく、攻略対象から逃げるためのものである。筋力は逃げ足。知力は対策を考えるため。精神力はヤンデレな行動をされても耐えきれるか否か。経済力は逃げた先で自活するため。魅力は変装のこと。そして難易度も攻略難易度ではなく、追いかけてくるという意味での鬼のレベルである。
・トモヤ…まず前提として二人は幼馴染みであること、ユキナリはトモヤの恩人であること。この二つの点がユキナリを傷つけられない理由。そのため鬼ごっこはしない。拒絶されたら『そっか。そうだよね。ごめんね』って、悲しそうに笑ってユキナリに謝って、飛び降りしに行く。ユキナリの恋愛相手がコウじゃなければ最後までいい友達でいてくれる。コウだった場合、没ネタ集に書いていた通り、鎖で繋いで心中する。ユキナリへの愛より、コウへの嫉妬が勝ってしまったエンド。
・リンタロウ…まず彼の場合、重要なイベントが多々ある。テンプレートだと思うけど、ご家庭のごたごたをユキナリが解決する手助けをするってやつ。それで信用と好感度が天元突破する。そのため、トモヤへの嫌悪が加速する。そしてユキナリにその矛先が向かう(ここで精神力が高くないとリンタロウの人形になってしまう)。鬼ごっこはヤバい。筋力を最大値にしても勝てないレベル。ミサキとの橋渡しに徹すれば安定するのでその点については問題なし。
・ショウマ…攻略も何も、こちらが何もしなければ向こうも何もしない。触らぬ神に祟りなしだが、起こしちゃったんなら仕方ない。頭を使って変装しながらとにかく逃げろ。来る者拒まず去る者追わず。だが本命になってしまった場合、決して逃がしはしない。本当に手に入れるまで取り繕うことが可能なので、第六感がちゃんと機能しなければゲームオーバーになる。そしてさらに言えば、他の三人と手を組む可能性がある。
・コウ…難易度見て分かったろ。無理だよ。スペック的に勝てない。そもそも前提として、ユキナリを(歪んでるけど)ちゃんと愛している。だけど信じていない。過去の経験から大切な人を何もできずに失うことが何よりも怖いから、手段も選ばないし、監視と監禁に走るタイプ。で、抵抗されるようなら誰かを人質に取って脅すくらい余裕でやりそう。
攻略対象全員から全力で逃げ切るとこのエンディングになる。
…麗らかな春の日。卒業シーズン。
狼遊戯学園でもそれは同じだ。
卒業を無事迎え、新たな進路へ進む三年生だった生徒たちが、ぞろぞろと校舎から去っていく。彼等はもう、この高校に来ることはないのだろう。
「…つまんねぇの」
屋上でそんな少年少女たちを冷めた目で眺めつつ、煙草の煙をふーっと吐いた。禁煙なんてルールは彼にはない。
ふとスマホで確認すれば、ある生徒数名に課した約束の時間の数分前だった。
「そろそろ行きますかっと」
少し遅れてもよかったが、帰ってしまいそうな生徒が約一名いたので、煙草の火を消して近くにあったゴミ箱に捨てた。
行先は彼、赤村ショウマが請け負う二年W組の教室だ。
***
きーん、こーん、かーん、こーん
起立、気を付け、礼。
きーん、こーん、かーん、こーん
教師一名と、生徒三名の特別授業が始まる。
***
「集まってくれてありがとうな~」
ヘラヘラした顔で、黒スーツをした教師が朗らかに話す。傍から見れば教師には見えないが、れっきとした数学教師だ。
「せんせーい、僕は赤点とってませーん♪」
「ぼ、僕もです。え、まさか他になんか悪いことが…」
ショウマはおちゃらけたリンタロウと不安そうなトモヤが対照的で面白いなーと、思いつつ、物憂げとも不機嫌そうとも取れる表情で、窓の外を眺めているコウをチラと見た。てっきり帰ってしまうんじゃないかと危惧していたものの、そんなことはなさそうで内心ほっとした。
「それならここにコウくんがいるのもおかしいよねー♪」
「…」
完全無視。リンタロウもこの態度にカチンときた。笑顔を浮かべたまま、よくある怒りマークが浮かんでいる。そんな二人の様子にトモヤは『あわわ…』とおどおどしていた。
コウは三年生ということもあり、今日で狼遊戯学園を卒業する。午前中は生徒会長最後の仕事としてスピーチをして、生徒会メンバーに暖かく見送られた。…その中に、ユキナリはいなかったが。
「はーい、静かにー。このままだと大乱闘が始まっちゃいそうだから本題に移るぞー」
白いチョークを取り出して、黒板にこの場にいる生徒の名前を書いていった。
「ここに書かれた俺たちの共通点が何か分かる奴は手を挙げて言ってみ? 何でもいいからさ」
「はーい♪」
「はいリンタロウくん」
「顔がいいことでーす♪」
「正解!…だけど違う!」
はじけるような笑顔で返って来た返答にショウマはずっこけた。
確かになまじ冗談ではない。ここにいる全員顔面偏差値が高い。
「は、はい?」
「はいトモヤくん」
「女装をしたことがある…?」
「ブッ、そうだけど! 違うって!」
思い出して吹き出した。
文化祭ではこの場にいる四人が女装コンテストなんてものに参加させられて、最終的に飛び入り参加した謎の美少女(ユキナリ)によって、優勝をかっさらわれたわけだが。
「…分かり切ってるだろ」
いい加減、この空間にいる意味を見出せなくなったのか、コウが呆れながらやっと言葉を発した。
「コウくんも意見があるなら手を挙げて言ってね~♪」
「…チッ、はい」
先ほどの仕返しか否かリンタロウにそう指摘され、コウは眉間にしわを寄せながらも、手を挙げた。やらなければ話が進まないと判断したのだろう。
「はいコウくん」
「俺たちの共通点…それは全員ユキナリのことが好きな点だろ?」
「…へえー♪」
「えっ…」
「大正解! さっすがコウ君」
「ふん」
コウの言葉に、リンタロウは意味深に納得し、トモヤは動揺を表に出し、ショウマはわざとらしく拍手した。
「ご存知の通り、俺たちみーんなユキナリくんのこと大好きだよな。もちろんいろんな意味でさ」
ショウマはそう言いながら、黒板にユキナリの名前を書き足した。
「でもまあ、行動が過激すぎちゃって逃げられちゃったわけだ」
トモヤのところに心中未遂。リンタロウのところにDV。コウのところに監禁未遂。…そして自分のところに、強…と書きかけたところで、
「…そう空気を悪くすんなよ。俺も未遂だって」
振り返らずにそう言うものの、余計なことを言えばミンチにされるくらいの殺気を感じた。学生でそんなことを考えるなんて物騒だなと自分のことを棚に上げて、ショウマは思った。
「俺が言いたいのは、協定を組まないかってこと」
くるりと軽やかに振り返る。三人とも、種類は違うものの怖い顔してることが改めて分かり、苦笑した。
「つまり、四人で力を合わせて、ユキナリくんゲットしようぜ~ってこと」
「協力のメリットはあるの?」
いつものおどけた態度はどこへやら、リンタロウが目を妖しげに光らせながらショウマに問う。
「んー、そうだな。まあ、分かりやすく言うなら…」
一度書いた関係図を消して、新たに正四角形を書いた。
「そもそも俺らには向き不向きがあるだろ?」
そして、名前の頭文字を四角形の角に書き足していき、真ん中に『ユ』と書いた。
「トモヤくんはユキナリくんに一番信用されてる。でも、行動するためのものはかなり足りないよな?」
「そう、ですね…」
トモヤはあの日のことを思い出した。コウのことが好きかもしれないと、相談されたときにその嫉妬が抑えきれなくなって、いつものようにユキナリを呼び出して、睡眠薬入りの紅茶を飲ませて、心中しようとした。入れる分量が足りなかったのか、ユキナリは目を覚ましてしまって…結局できなかったわけだが。ユキナリを探そうにもトモヤには足りないものが多すぎる。自分の命を人質にしたら、ユキナリは戻ってきてくれるだろうかと、そう考えるものの、今度こそ見捨てられてしまったら…と考えて行動できないでいた。
「リンタロウくんは身体能力はピカイチ。だけど環境的にユキナリくんを留めておける場所がないってわけだ」
「…まあ、そうだけど」
力ずくで捕まえられる自信はある。コウほどではないものの物探しは得意な方だ。しかしユキナリを閉じこめておける場所はない。ミサキにバレたら困るし、叔父にバレても面倒臭い。ユキナリのメンタルが弱ければ短時間で何とか出来たのになあ、とリンタロウは思っていた。
「コウくんが一番有利だ。でもユキナリくんだって、コウくんの脅威度が分からないわけじゃないだろ?」
「…」
…本当に、あと少しだったのに。ぎり、と歯軋りする。
あの日、リンタロウとのキスを目撃してしまったころから、コウはユキナリを見守っていた。何かあった時、すぐに助けることができるようにと。
本当に、両思いだった。卒業したらユキナリと一緒に暮らそうとしていた。なのに、何故か逃げられた。拒まれた。…よりにもよって、ショウマの所に逃げるなんてと内心毒を吐く。
「で、最後に恋愛関係だった俺も俺で、逃げられたっつー件で結構怒ってんだ。いやあ、久しぶりだよなあ。こんなにムカついたの」
口は笑っているものの、目は一切笑っていない。何も言わずに逃げたユキナリに心底怒っていた。逃がしてあげようと思っていたのに。焚きつけたのはユキナリだったのに。責任を、取らせないとなあ?と、ショウマは嗤う。
「そこで、俺たちが協力すればユキナリくんを捕まえて、閉じ込めるのも無理難題じゃないと思ったんだよなー」
そのショウマの言葉に沈黙が教室を包む。別にユキナリを捕まえることに抵抗があるわけではない。こいつはともかくあいつと組むのはなあ、という感情である。
「まあ、みんな独占欲強いだろうから、気に食わないなーって思うかもしれねえけど、ここで大事なのは『ユキナリ君を捕まえるまでの協力関係』だってことだ」
だから捕まえた後に殺し合いになろうが、協定を続けるかはショウマとしてはどうでも良かった。大切なのは、ユキナリが逃げるのを諦めて、誰かひとりを選ぶことである。もちろん自分であればなお良いが。
「悪くない話だろ? だってさ、ユキナリくんはみんなに『仲良く』してほしいんだからさ」
チャイムが鳴った。言いたいことは言えたし、連絡先も交換した。どうするかは彼ら次第だ。
「…んー、でも、上手くいきそうな気がするんだけどな」
みんなで仲良くも、案外悪くないのだから。
…狼が、群れを成す。獲物を確実に狩るために。
羊が捕まるまで、あと…。