コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あなたはパスタが好きですか?」
4話
【篠宮 圭吾の目線】
私はその場に立ち尽くしていた。
──違和感がある。
私は、これまで数え切れないほどの犯罪者や容疑者と対峙してきた。その経験から言えることがある。
ーー無実の人間は、ここまで冷静ではいられない。
普通の人間なら、自分が探偵に疑われていると知れば、もっと動揺するはずだ。
反発するか、逃げるか、あるいは過剰に自分の潔白を主張するか。
だが、あの男は、滝川 瑛人は違った。
こちらの探りに対して、何の隙も見せなかった。感情の揺れが一切ない。
まるで、自分が疑われることを想定していたかのように。
私は数年間、彼を追っている。表向きは確かにただの会社員だ。しかし、彼の行動は「普通」ではない。
何かが欠けている。いや──何かが「ズレている」のだ。
『……やはり、おかしい。』
私は低く呟いた。
長年の勘が警鐘を鳴らしている。
このままでは終わらない。
彼を追い詰める方法を考えなければならない。
私はゆっくりと夜の街へ歩き出した。
・・・
…またか。
またつけられている。
露骨に尾行するわけではない。あくまで自然に、周囲に溶け込むように。それでも、僕には分かる。
彼の視線が、明らかに僕に向けられていることが。
僕は小さく笑い、わざとゆっくりと歩を進めた。
──あいつの「しつこさ」は、もはや執念に近い。本当に、邪魔臭い。
僕は人気の少ない路地へと入った。
篠宮は少し遅れて、慎重にその後を追う。
道の先には、古びたビルの裏口があった。私はその前で立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「そんなに僕が気になりますか?」
篠宮はわずかに眉をひそめた。
『……気のせいでは?』
「いえ、あなたはずっと僕の後をつけていますよね。」
僕は静かに微笑む。
「どうぞ、そこまで興味がおありなら、少し話しましょうか。」
「──そろそろ、辞めてもらえますか?」
僕がそう言うと、
篠宮はポケットからスマートフォンを取り出し、
スリープ状態にした。そして、私に視線を戻す。
「あなたはずっと僕を追っておられる。何か得ました?」
『それは、これから得るのです。』
僕はゆっくりと歩み寄り、篠宮と正面から向き合った。
「…あなたは、僕が何かを仕組んだとお考えなのですね?それは何故ですか?」
『あなたが“普通ではない”からです。』
篠宮の瞳が鋭く光る。
『あなたは自分を隠している。自分の“本質”を、決して他人に見せようとしない。』
「…はあ。」
『……私は、あなたが怖い。』
その言葉を聞いた瞬間、僕は思わず笑ってしまった。
「僕が、怖い?」
『ええ。あなたの行動には、一切の迷いがない。普通の人間なら、
何かしら感情が揺れるものです。ですが──あなたには、それがない。』
篠宮は一歩、前に出た。
「随分と、しつこい探偵ですね。」
『ええ。』
篠宮は静かに言った。
『あなたが、私の執念を“厄介だ”と思っているのも分かっています。』
僕は微笑を消し、篠宮を見据えた。
「そうですね。」
篠宮はしばらく僕を観察するように見つめ、それから小さく息をついた。
『……あなたを追うのは、楽ではありませんね。』
「はい。」
『ですが、私は諦めません。』
「ええ、そうでしょうね。」
僕は静かに篠宮の目を覗き込む。
──彼は、本当に厄介だ。
だが、こんなにも執着してくるのなら、それを利用する手もある。
「これからも、ご自由に。」
僕は踵を返し、ゆっくりとその場を後にした。
篠宮は、最後まで僕を見つめていた。