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「!!」
驚いて声も出せない。初めて見る妖の異形の姿に魅入ってしまう。
穴から出た大きな蜘蛛。
八本の節足はどれもカマキリの鎌のように鋭い。その脚がギチギチと耳障りな音を立てていた。
胴体は餓鬼の腹のように異様に膨れ上がって赤黒く、醜悪。
貌は般若の面のように鬼の形相をしており、金色の大きな目玉がついていた。
──これは座学の巻物で見せてもらった、土蜘蛛そっくり。これは土蜘蛛に違いない!
土蜘蛛の目玉がギョロリと私を見た瞬間。土蜘蛛はモゾリモゾリとゆっくりと私に近づきながら、二対の金色の目玉が瞳孔を細めた。
それは嗤っているようだと、背筋がぞくりと感じたとき。
「妖よ消えろ!」
穴から這い出た土蜘蛛は炎に包まれた。
ぎぃぃと大蜘蛛の苦悶の声が庭に響く。そして、また姉達の悲鳴が起こる。
「皆様落ち着いて! 妖が発生しました! 環様、皆様と早く建物の中へと逃げて下さいっ」
葵様がこめかみを抑えながら、ここに居る人達へと指示を飛ばす。
その手には火の札を持っていたのが分かった。
土蜘蛛を包んだ炎は葵様が、札を使って土蜘蛛を退けてくれたのだろう。
土蜘蛛は炎に身を焼かれながらも、私の方へとにじり寄る。意思を持って私に近づいてるように感じた。
これは偶然だろうか。それとも──。
「まさか。私を狙っているとか」
小さく呟くと、土蜘蛛がギチィと私の声に反応するかのように声をあげた。
「!」
──土蜘蛛はひょとして私が、九尾だと見抜いた!?
私の驚きをよそにまた一歩。
土蜘蛛が私に近づこうとすると、ごうっと再び勢いよく炎が盛り上がった。
熱波を感じて目を強く閉じて、そっと目を開くと土蜘蛛は動きを止めて、あっという間に消し炭に変わろうとしていた。
それでもピクピクと、こちらに脚を伸ばしているのが気持ち悪かった。
辺りに焦げ臭い匂いと異臭。
土の匂いが充満して、せっかくのお庭がめちゃくちゃ。
でもこれで終わりかと思うと。
地面に落ちたいくつもの大小の土くれが震えていた。それらは生き物のようにガサガサと身を震わせたかと思うと、次々と土つくれの中から鋭い鎌のような脚が見えた。その光景にゾッとする。
「こ、この動いている土くれは全部。まさか土蜘蛛!?」
大きな声を上げると葵様が私のそばに駆け寄ろうとしたのを、なんと。姉達が葵様をむんずと掴んで騒ぎ出した。
「は、早く助けなさいよっ! きゃあ! あれも、これも。う、動いている!」
「早く焼き払って! 杜若家は妖祓い専門なのでしょう!」
「いやぁ!!」
葵様は「落ち着いて! そんなに密着されると術が使えないっ」と一喝するが、葵様の姉達は興奮して声が届いてないようだった。
そして土くれから、一斉にぐぼっと音を立てて土蜘蛛が湧いた!
その光景を見て──覚悟を決めた。
拳に力を入れて叫ぶ。
「葵様! ここに居る皆様をお願いしますっ。私が土蜘蛛を引き付けます!」