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炭酸@サイダー🌠💙🎧️
2,005
星乃桜※宿題は敵
3,019
#仁瑠衣
こお
4,348
「仁! 早くしろよ!」
「分かっている。そんなに急かすな」
いつも通りの朝だった。
瑠衣が騒ぎ、仁が呆れ、杖道が二人を見て笑う。
何も変わらない、いつもの日常。
ただ、その日の仁は少しだけ頭が痛かった。
「……仁?」
「何でもない」
「顔色悪くね?」
「気のせいだ」
そう答えた直後だった。
突然、経験したことのない激しい頭痛が襲った。
視界が歪む。
立っていられない。
「……っ、ぐ…ッ」
「仁!?」
瑠衣が駆け寄る。
仁は何かを伝えようとしたが、声にならなかった。
そのまま意識を失った。
「仁!! おい、仁!!」
瑠衣の叫び声が、遠くに聞こえた。
病院に到着した仁は、すぐに検査を受けた。
診断は、くも膜下出血。
医師から説明を受けた瑠衣と杖道は、言葉を失っていた。
「出血の状態が非常に深刻です。緊急手術が必要になります」
「手術すれば助かるんだよな?」
瑠衣が尋ねる。
医師はすぐには答えなかった。
「正直にお伝えします。今回の状態では、手術が成功する可能性は約10%です」
「……10%?」
瑠衣の声がかすれた。
「非常に厳しい状況です。それでも、手術をしなければ助かる可能性はさらに低くなります」
杖道は拳を握りしめた。
「……お願いします。助けてください」
「最善を尽くします」
そのとき、医師が続けた。
「ご本人が一時的に意識を取り戻しています。短い時間ですが、会うことはできます」
二人はすぐに病室へ向かった。
仁はベッドの上で目を開けていた。
「……瑠衣?」
「仁!!」
瑠衣が駆け寄る。
「お前、何やってんだよ……! いきなり倒れて……!」
「悪い」
「謝んなよ!」
その後ろから、杖道も近づいた。
「仁、手術を受けることになった」
「……そうか」
「かなり難しい手術だそうだ」
仁は二人の顔を見た。
何となく、分かってしまった。
二人が何かを隠していることも。
その表情が、今まで見たことのないものだということも。
「成功率は?」
二人は答えなかった。
その沈黙が、答えだった。
「……10%だ」
杖道が静かに告げる。
仁は天井を見つめた。
10%。
数字だけを聞けば、あまりにも小さな可能性だった。
自分が助かる未来など、ほとんど残されていないように思えた。
「……そうか」
仁は目を閉じた。
もう十分だと思ったわけではない。
怖くないわけでもない。
ただ、諦めかけていた。
そのとき、瑠衣が仁の手を握った。
「なあ、仁」
「何だ」
「俺、まだお前に勝ってないんだけど」
「……こんなときまで勝負の話か」
「当たり前だろ!」
瑠衣の声が震えていた。
「お前がいなくなったら、誰と勝負すりゃいいんだよ」
杖道も、仁をまっすぐ見つめた。
「私も、仁が帰ってくる場所を空けて待ってる」
仁は二人を見た。
いつも騒がしい瑠衣。
どんなときも二人を見守ってくれる杖道。
当たり前だった日常。
また三人で話したい。
瑠衣とくだらないことで言い合いたい。
杖道に呆れられて、笑って。
そして、何でもない朝を迎えたい。
「……俺は」
仁の声がわずかに震えた。
「生きたい」
瑠衣が顔を上げる。
「まだ、瑠衣とおっさんと一緒にいたい」
その言葉に、瑠衣は俯いた。
「……当たり前だろ」
杖道も静かに頷いた。
「帰ってこい、仁」
「ああ」
仁は二人を見つめた。
「約束する」
手術室の前。
仁が運ばれていく。
「仁!」
瑠衣が声を上げた。
仁はわずかに顔を向ける。
「……うるさい」
「終わったら覚えとけよ! 絶対勝負するからな!」
「分かった」
「絶対だからな!」
杖道も声をかける。
「待ってるぞ」
仁は小さく頷いた。
そして、手術室の扉が閉まった。
赤いランプが点灯する。
二人は廊下に残された。
長い時間が過ぎていく。
瑠衣は何度も時計を見た。
「おっさん……」
「何だ」
「仁、戻ってくるよな」
杖道はすぐには答えられなかった。
「……戻ってくると信じよう」
瑠衣は俯いた。
「俺、まだ言いたいこといっぱいあるんだよ」
「俺もだ」
「まだ一緒にやりたいことだってある」
「そうだな」
「だから……」
瑠衣は唇を噛んだ。
「帰ってきてくれよ……」
杖道は、何も言わずに隣に立っていた。
どれほど時間が経っただろう。
手術室の扉が開いた。
二人は同時に立ち上がる。
医師は疲れた表情を浮かべていた。
「手術は……っっ!!!!」
瑠衣が勢いよく尋ねる。
その手は小刻みに震えていた。
医師は一度、深く息を吐いた。
「成功しました」
「……え?」
「出血の原因への処置は無事に終わりました。非常に難しい手術でしたが、乗り越えてくれました」
瑠衣は動けなかった。
「成功……したんですか?」
「はい。ただし、まだ意識が戻るか、どの程度回復できるかは分かりません。これからも慎重な経過観察が必要です」
杖道は目を閉じた。
「……ありがとうございます…っ、ありがとう、ございます…!」
瑠衣はその場に座り込んだ。
「よかった……っ…!」
何度も、何度も呟いた。
涙が頬を伝って滴っていく。
「よかった……仁……」
成功率10%。
その数字を思えば、奇跡といっても過言ではない結果だった。
それでも、まだ終わりではない。
二人は仁が目を覚ます日を待ち続けた。
数日後。
病室に小さな声が響いた。
「……ん」
瑠衣は顔を上げた。
「仁?」
仁の瞼が、ゆっくりと開く。
「……瑠衣」
「仁!!」
瑠衣はベッドに駆け寄った。
「おっさん!! 仁が!!」
「分かってる、落ち着け!」
杖道もすぐに近づいた。
仁は二人を見て、少しだけ目を細めた。
「……騒がしいな」
「うるせえ! どんだけ心配したと思ってんだよ!」
「悪かった」
「もう謝んな!」
瑠衣は涙を拭った。
「本当に……よかった」
杖道も、いつもの穏やかな声で言った。
「おかえり、仁」
仁は二人を見つめた。
そして、小さく笑った。
「……ただいま」
退院までには、長い時間が必要だった。
体力を取り戻すためのリハビリや検査。
以前と同じように動けるようになるまで、焦らず少しずつ進んでいった。
―――そして、ようやく退院の日。
病院の外で、瑠衣が待ち構えていた。
「仁! 遅いぞ!」
「お前が早すぎるんだ」
「退院祝いだぞ!」
「分かっている」
杖道が二人の間に入る。
「まあまあ。今日はゆっくり帰ろう」
「おっさん、俺はもう大丈夫だ」
「そう言って無理するのがお前だろ」
仁は少しだけ笑った。
「…バレたか」
「とっくのとうに、な」
―――それから数か月後。
ホークアイズのハウスには、再び賑やかな声が響いていた。
「仁! 次の事件、俺と勝負しろ!」
「病み上がりに何を言っている」
「関係ねえよ!」
「瑠衣は少し加減を覚えろ」
「おっさんまで何言ってんだよ!」
三人の笑い声が重なる。
仁はふと、あの日のことを思い出していた。
成功率10%。
あのとき、自分は本当に怖かった。
けれど、あの二人がいたから。
もう一度、明日を迎えたいと思えた。
「……瑠衣」
「ん?」
「次の勝負、受けてやる」
「よっしゃ! 絶対勝つからな!」
「返り討ちにしてやる」
杖道が笑う。
「本当に懲りないな」
仁は窓の外を見た。
今日も空は青い。
明日も、その次の日も。
きっと、三人で迎えられる。
あの日、10%の可能性に託した未来。
それは、奇跡のように繋がっていた。
<<< Fin 〜*✧
コメント
1件
なぽりたん🍝解読者さん、読ませていただきました。 「10%の希望」という重い数字を背負いながらも、瑠衣の「まだ勝ってない」という一言が仁の生きる気持ちを繋ぎとめた場面が胸に響きました。奇跡を信じたくなるのは、ああやって誰かが手を握っていてくれるからなんだなと。ラストの「ただいま」にほっとして、じんわり温かくなりました。ありがとうございます🌷