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「今日は?仕事?」
気恵(キエ)がビールの入ったグラスを置きながら聞く。
「ううん。今日は完全オーフ」
波歌もグラスを置く。
「完全オフなんてあるんだ?今絶賛ドラマ撮影中なのに」
「ま、合わせがあるから」
「合わせ?」
「うん。ドラマを前中後くらいで割ったときに
同じセットで撮れるときは合わせて撮っちゃうのよ」
「そうなの?」
「そうなの。のほうが技術さんもスタッフさんたちも楽だしね。移動しなくて済むし」
「でも俳優さんは大変じゃないの?」
「ま、大変は大変だけど。
だからよくクランクアップで時期に差が出てるの不思議だなぁ〜って思ったことない?」
「あぁ!ある!」
「それ。その理由(わけ)がそれ」
「へぇ〜。知らんかった」
料理をつまむ。
「気恵は?」
「ん?」
「仕事どうなん?」
「どうなん?」
「うん。…うまっ」
「どうもなにも。変わらんよ」
「…」
聞こうとしたことがあったが、もう少し飲み進めてから聞こうと思い
「おかわり?」
と自分のグラス持ち上げて気恵に聞く波歌。
「んん〜…レモンサワーにしようかな」
「うーきー(OKの意味)」
ということで気恵はレモンサワー、波歌はビールのおかわりを頼んだ。
「んじゃ、お疲れー!また3人でドライブ行こうぜ?」
累愛(るあ)の家の前で累愛が降り、今まで運転席にいた累愛と入れ替わりに伊織が運転席に入る。
「ん。考えとく」
「とか言っちゃってー。伊織も楽しかったくせにー。
こーゆーときにツンデレ発動するんだから。ツンデレちゃんっ。
いや、ツンデレラかな?ツとシ似てるしいいじゃん。ツンデレラ。
あ、でも伊織は属性的に悪魔だもんなぁ〜。ま、とりあえずまたこの3人で行こうよ。
あ!次は愛ファス(愛嬌ファーストクラスの愛称)のライブ行ってもいいよね?
ほらルビアくん興味あるって言ってたし」
と累愛が一人語りしてルビアを見たとき、そこに車はもういなかった。
「あ…れ?」
「いいんですか?伊織先輩」
「話長ぇ。それにどうせ「一緒にアイドルのライブー」とか言ってたぞ。あれ」
ご名答である。
「ま、LIME来るよ。どうせ」
と言っていると伊織、ルビアの順でスマホが鳴る。
「ほら来た」
スマホを取り出すルビア。
「…今日は楽しかったね。次もあの3人でドライブしよう!
今度は愛ファスのライブでもいいかもね?ルビアくん興味あるって言ってたし。伊織も引き摺っていこう」
「ほら」
「ほんとですね」
「てか、興味あるって言ったの?」
「言いー…ましたかね。…」
記憶を巡らせる。
…
「累愛(るあ)さんご馳走様です」
と頭を下げる伊織。それを見てルビアも頭を下げる。
「ん?ないない。別会計よ?ルビアくんの分は伊織がどうするか決めなよ。伊織の直属の後輩なんだから」
「お前、うちの稼ぎ頭のくせにケチよな」
「オレは愛ファス(愛嬌ファーストクラスの略称)につぎ込むんで」
「地下アイドルだっけ?」
「そ。オレを含め愛ライダー(ファンの愛称)のみんなで
愛ファスをメジャーに押し上げようって頑張ってるのよ」
「…頑張ってくれ。地下アイドルハマんないようにしよ」
「なんでよ。伊織もおいでよ~底なし沼へ」
「怖い怖い」
「ルビアくんは~?地下アイドル、興味ない?」
「ま、ないことはないですけど」
「お!マジ!?今度一緒にライブ行く?」
「うちの後輩を沼に引きずり込むなよ」
累愛(るあ)は累愛で伊織はルビアの分までお会計を済ませて
「ご馳走様です!」
店を出た。
…
「あぁ。あの中華ファミレスで話したときに」
「覚えてな。あーあ。次アイドルのライブだったらマジでルビア恨むわ」
「そんなぁ〜…。先輩の悪魔ぁ〜」
「悪魔はお前だよ」
「たしかに」
「マジで今日何回それ言いかけたことか…」
「あぁ、累愛先輩が言ってましたね」
「ずっと悪魔ってうるさいんだよな」
「ずっと?」
「うん。入社してずっと」
「あだ名みたいなもんですか?」
「そうなんじゃない?累愛が天使らしいよ。社長が言ってた。
あの累愛の笑顔見て「小角決(おかけ)くんは天使のような笑顔だねぇ〜」って。
んで累愛が「じゃあ伊織はお客さんの前では笑顔だけど
普段は顔死んでるから悪魔だな」って、あの天使の笑顔で」
「おぉ。累愛先輩、言いますね」
「な。お前が悪魔だろって思ったけど、めっちゃ笑顔だったからな」
「ま、天使でも全然笑わない人とかいますけどね」
「へぇ〜。……………。え?天使もいるの?」
一度受け入れて飲み込んだものの「は?」と思い、今飲み込んだものを今一度確認し、驚く伊織。
「いますよ。なんなら一緒に住んでますし」
「ガチ?」
「ガチっす」
「ヤバ…」
なんて話ているとルビアの住むマンションについた。
「え。いいっすよ。伊織先輩の家行ってくださいよ」
「車どーすんだよ」
「あ、そうか。…でも同居人に取りに来てもらうんで」
という言葉を無視して駐車場に駐車する伊織。
「すいません。ありがとうございます」
「ま、早く免許取ってくれ。不動産でも割と必須だからな」
「わかりました!」
「んじゃー。お疲れー」
「お疲れ様です!楽しかったです!また行きましょう!」
「おけー」
と背中を向け、軽く手を挙げる伊織。死んだ顔は変わらなかったが
ひさしぶりに休日を誰かとどこかに行くという過ごし方をして口角が少し上がっているように見えた。
一方、こちらもひさしぶりに会った2人。お酒もだいぶ進みほろ酔い気味になってきた気恵(キエ)と波歌。
「さてさて。いい具合になってきたというところで」
「ん?」
「序盤に聞きたかったけど、高校んときから口は堅かったから、お酒で緩くなった今聞きます」
「そお?私そんな口堅かった?」
「堅かったよ。ほら、私がドラマ出るってなったとき
端役(はやく)だから恥ずかしいから言わんでねって言ったじゃん?」
「んなことあったっけ?」
「あったよ。で、放送日にさすがになんか言われんだろうなと思ったけど
気恵がガチで口つぐんでたから誰からも一切なんも言われなくてちょっと寂しかったもん」
「気づかれたいのか気づかれたくないのかどっちだよ」
と笑う気恵。
「あんねぇ〜。行くとこまで行った芸能人は気づかれたくないかもだけど
私がまだ高校生のときはテレビちょっと出たってので、ちょっとは騒いでほしかったもんなのよ」
「でも女子校だから陰湿なことされてたかもよ?」
「大丈夫でしょ。うち(紅ノ花水木女学院の気恵と波歌年代)はイジメとかなかったし」
「知らんだけかも」
「まあ、それはあるかもなぁ〜」
と2人で飲む。
「違う違う!」
波歌はグラスを置く。
「脱線した。あっぶな。聞きたいのは気恵の恋愛事情よ」
「恋愛事情?」
「ほらー。今のとこに就職して、少ししてから飲んだじゃん?」
「うん」
「そんとき言ってたじゃん。ちょっといいかもって思ってる人がいるって」
「言ったっけ?」
「言いましたー。親友の衝撃発言覚えてますー」
「衝撃か?」
「衝撃よ。で?今どんな感じ?」
「…変わらんよ。なーんも変わらん」
テーブルにペターンとうつ伏せになる気恵。
「なんか進展とか」
「ないない」
「少しも?」
「少しもー」
「もう告れば?」
「…うぅーん…」
「まだと」
「…んん〜…。わからんのだよね」
「なにが?」
「んん〜…。恋愛?」
「あぁ〜。ま、高校は女子校、大学もぼっちかましてたからなぁ〜」
「うん」
「てなると今回のが初恋?」
「ううん。初恋はー…幼稚園かな」
「ま、それが初恋ならそうね。初恋愛ではないか」
「でも幼稚園だし」
「中学って誰かと付き合ってたっけ?」
「中2の体育祭?あの後に告白されて付き合った…気がする」
「そうだっけか」
「ま、波はモテモテだったもんね」
「まあねぇ〜」
某女性芸人さんのように左手で髪をファッサーとする波歌。
「中学からエキストラやってたんで。
エキストラの中では群を抜いて可愛かったと言われてたりしたらいいなぁ〜と思ってたもんね」
「波は誰かと付き合ってたっけ?」
「ん?私は誰とも?好きな男子はいたけど告白されなかったし、告白する気もなかった」
「え。なんで?」
「ま、女優になるのがその頃からの夢だったから
仕事とかオーディションとかでデートとかできないだろうなぁ〜って。だから端(ハナ)から諦めてた」
「ふぅ〜ん。…あぁ…恋愛初心者がこんなところで足を引っ張ってくるとは…」
「ま、女子校出身あるあるじゃないの?知らんけど」
「んん〜…。告白かぁ〜…。でもなぁ〜…フラれたら転職考えないといけないし」
「転職?そんな?」
「だって職場狭いし。人少ないから死ぬくらい気まずい」
「あぁ〜…。そっか。デカい会社ならね」
「そ。顔合わせずに仕事できるかもだけど、デスク隣だし」
「おぉ〜!ラブコメぇ〜」
「そんないいもんじゃないよぉ〜…」
と話して飲み
「あ、お花摘んできます」
「あ、トイレね。いてら」
「いや、お花摘んでくるんだって」
「なにそのこだわり」
「いやぁ〜、女優なもんで」
「それアイドルが言うやつね」
「あ、私ビールおかわりお願い」
「はいはい」
と笑って波歌はお花を摘みに行った。
「んん〜…。告白ねぇ〜…」
スマホの画面をタップし、LIMEの伊織の名前を見る気恵。
店員さんを呼んで、気恵のレモンサワーのおかわりと波歌のビールのおかわりを頼んだ。
しばらくして店員さんがレモンサワーとビールを持ってきてくれた。
「ただいまぁ〜」
波歌が障子の隙間から顔だけを入れて部屋にいる気恵に言う。
「おかえりぃ〜」
ニマニマしている波歌。
「なに」
「んー?」
と入ってくる波歌。
「ほれほれ。入って入って」
「ほんとにいいの?」
「いいいい。恋愛についても相談したいから」
「じゃあ」
という会話をして障子の隙間から女性が入ってきた。
「すいません。お邪魔します」
「!えぇ!」
気恵は知っていた。
「暑冬(しょとう)凛夏(りか)さん?」
「あ、知ってた?」
「知ってる知ってる」
「初めまして。暑冬凛夏こと古賀野(こがの)凛夏です」
と言われ、正座し、姿勢を正す気恵。
「あ、初めまして。尾内(オウチ)気恵(キエ)と申します」
「なにかしこまってんの」
と笑う波歌。
「かしこまるでしょ」
「いやいやいや」
と言う凛夏。
「いえいえいえ」
と言う気恵。
「ま、とりあえず改めて乾杯しようじゃないの」
「そうだね」
「う、うん」
ということで3人で
「かんぱーい!」
「「かんぱーい」」
と乾杯し直した。
「実は同い年なのよ。凛夏ちゃん」
「そうなんです」
「あ、へぇ〜。そうでしたっけ?」
「26。今年27よね?」
「うん」
「え。波…波歌とはなんで」
「うわ。ひさしぶりに気恵に波歌って呼ばれた」
「波ちゃんとは中学のときに出た作品で知り合って」
「え。あ、そんな古くから」
「実はそうなのぉ〜。でも同い年だけど、芸歴で言ったら超先輩だからね」
「そっか。子役から」
「ですね」
「で、私は中学のときエキストラだったけど、凛夏ちゃんは中学のときもうメインに関わるくらいの役で
で、「同い年なんですー!」って話しかけて
そんときは「また同じ作品で関われたらいいね」って感じで終わったんだけど
高校生のときに出たドラマでまた一緒になれて「覚えてます?」って言ったら覚えててくれて
連絡先交換して仲良くなってって感じ?」
「へぇ〜。すご」
「波ちゃんも立派な女優になって」
「いやいやいや。凛夏ちゃんはさらにすごいことになってんじゃん」
「作品、全部ではないけど見させてもらってます」
「ありがとうございます」
「…あれ。でもお父さんの作品とかには」
「あぁ。出てないですね」
「なんかね、そーゆーコネとかで見られたくないんだって。
だから芸名にしたんだよね。お祖父様、お父様関係だと思われないように」
「そ」
「だから聞いたときは腰抜けそうになったよね」
「だよね?」
「うん。で、最近、ま、私より全然早かったけど、ドラマとか映画でいい役貰い始めて
暑冬(しょとう)凛夏(りか)という女優で売れ始めてから公表したんだよね?」
「まあ、したっていうか、半分バラされたに近いけどね」
「おもしろかったよね!あ、気恵今度家来な?
凛夏ちゃんが古賀野英彦(ひでひこ)監督の娘ってバレた瞬間のバラエティ番組DVDに撮ってあるから」
「マジ?」
驚く凛夏。
「マジマジ」
「行くわ」
と3人で笑う。
「で?恋愛のどうこうとは?波ちゃんの?ゴシップ?」
「違う違う」
笑う波歌。
「気恵の恋愛についてね」
「あぁ。尾内さんの」
「はい」
「私たち紅花(アカハナ)(紅ノ花水木女学院の略称)だったから恋愛に無縁でさ。ほぼ初心者だから」
「でも波ちゃん恋愛ドラマとか出てんじゃん」
「恋愛応援する役とかでね。しかもフィクションだから」
「ゆーて私も恋愛なんてしてないしなぁ〜」
ということで恋愛ほぼ初心者による女子会を楽しく過ごした気恵であった。