Side青
「ごめん」
慎太郎は目を見開いた。丸い瞳が、さらに大きくなる。
「俺はどうしてもお前のことを恋愛対象としては見られない。…傷ついちゃうよね、慎太郎は本気なんだと思うから。でも、ほかの4人と同じ仲良いメンバーとしか思えない。これ以下でもないし以上にもなれない」
一息に話したあと、慎太郎の顔色をうかがう。案外落ち着いている。
「……そうだよね、そりゃそうだよな。俺、わかってたんだ。こんなこと言ったって樹は戸惑うって」
「…いつから?」
俺は訊いた。ずっと前、と彼は答えた。
「気づいたら想ってた。一番最初に出会ったときからだったかも」
そんなにも長い間、隠し通して我慢してきたのか、と心が苦しくなった。
「いや、まあ樹だって男だし。好きな女の人とかいるよね」
「違う…今は」
必死に否定したけど、こんなことではさらに痛めつけるばかりだ。
「じゃあさ…恋人にはなれないけど、俗に言う『友達以上恋人未満』みたいな感じにしない? 俺らの場合、メンバー以上か。まあ友達でもあるんだけど」
そう言うと、慎太郎は少し嬉しそうになった。それに胸をなでおろす。
「それでもいい?」
うん、とうなずく。
「…ねえ樹」
呼びかけてきた慎太郎を見返す。その表情は、寂しさや愛しさをはらんだ、見たことのないものだった。
「最後に一つだけお願い。友達としてでいいからさ……」
ちょっと視線を落として逡巡する。
「…ハグ、して」
俺は周囲を見回し、静かに歩み寄った。
その目が微かに潤んでいたことを、俺は見逃さなかった。
何も言わず、彼のがっしりした腰に手を回す。ひしと抱きしめた。
ごめんな、気持ちを満たしてやれなくて。
「周りの人の中で、お前らが一番好きだからな」
こんなことしか言えないけど、伝えたかった。
「――ありがとう」
5文字を俺の前に残して、慎太郎は背を向け走っていく。楽屋には入らなかった。
「あれ、しんたろどうしたの?」
楽屋に戻ると、きょもが訊いてくる。
「ああ…ちょっと一人にさせてやって」
みんなは俺を振り向いたが、食い下がらなかった。
もしかしたら、慎太郎とのことには気づいていたのかもしれない。でもあえて誰にも言わずにしまっておこうと思った。
やっぱり傷ついていないかな、悲しくなっていないかな、とその夜はずっと気掛かりだった。
俺のせいで大切なメンバーの心を切り裂いてしまったなんてこと、嫌だ。
悶々と過ごしていたところに、スマホの着信音が届く。
『なあ樹、今度一緒にラーメンでも食べ行かね?』
そこにはごく普段の文章で書かれた、慎太郎からのメッセージがあった。そんなにショックは受けてないのかも、なんて笑みが漏れる。
いつでもどうぞ、と返した。
続く
コメント
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しんたろ〜(T_T) 続き早くみたいです!!