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◆ 第7章 遥が選ぶ未来 ユメトがいない朝を迎えてから、
遥の日々はゆっくりと変わり始めた。
寂しさはあった。
胸の奥にぽっかりと穴が開いたようで、
ふとした瞬間に風が通り抜けていく。
でも、その冷たさに負けるほど、
遥はもう弱くなかった。
――ユメトがいてくれたから。
● 学校へ向かう足取り
制服に袖を通し、家を出る。
歩道を歩きながら、遥は思う。
(ユメトが現実に落ちてきて……俺、初めて“誰かに必要にされてる”って思えた)
その感覚は今も胸の奥に、しっかり残っている。
交差点に差し掛かったとき、
信号待ちの横で小さな子どもが泣いていた。
「……どうしたの?」
気づけば声をかけていた。
泣きじゃくる子どもは、迷子らしい。
遥はしゃがんで目線を合わせる。
「大丈夫。お母さん探そっか」
手を差し出すその仕草は、
自分でも驚くほど自然だった。
(ユメトが見たら……きっと笑うんだろうな)
そう思うと、胸が少しあたたかくなった。
● 校舎の屋上で
放課後、遥は久しぶりに屋上に行った。
夕方の風。
オレンジ色の空。
街を見下ろす静かな景色。
ユメトと、もし現実の世界で一緒にいられたなら――
きっとここにも連れてきただろう。
そう思うだけで胸がきゅっと締めつけられる。
(……でも、前を向かなきゃ)
「俺は……」
遥はゆっくり空を見上げて言った。
「夢を見るだけの人間じゃ終わらない。
ユメトが好きだった、この世界で……ちゃんと生きる」
ユメトが“現実に興味を持ち始めた”あの顔を、
遥は思い出す。
この世界を知りたがった少年。
ここで笑った少年。
(なら……俺が生きている間くらい、ちゃんと綺麗にしておかないとな)
そう呟いて、遥は少し笑った。
● 夜、眠りにつく前
その夜。
布団に入る前、遥は窓を少し開けた。
「……ユメト」
ゆっくりと夜風が部屋に入ってくる。
「今日、ちょっと頑張れたよ」
誰もいない部屋。
返事はどこからも返ってこない。
でも――
風が少しだけ揺れた。
それはまるで、
『うん。見てたよ』
とでも言ってくれているようで。
遥は目を閉じて、静かに微笑んだ。
「じゃあ……おやすみ。ユメト」
眠りにつく直前、
夢の世界への扉は開かなかった。
けれど、胸の奥に残った温もりは消えない。
ユメトはもういない。
会えない。
でも――
それでも前を向いて、歩いていける。
ユメトが教えてくれたから。