テラーノベル
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私を真っ直ぐに見つめる篤久様の目は、言葉通りに真実を知ろうとしているだけのものに思える。
私がそう思いたいだけなのかもしれない。
「あんな事件があって、真奈美さんがあれに何も思わないことはないと思う。それとも……お父様が被害に遭われた事件の原因があれとは知らない?」
何も言わない私が、冤罪事件と遥香の結びつきを知らずに、偶然ここへ配属されたという可能性を聞いているのね。
知らないのなら申し訳ないことを言ったと思ったのか、篤久様の瞳が揺れた。
「大丈夫です」
私の敵なら、ここでも私を射抜くように見たままのはず。
「知っています、ずっと前から知っていました」
ここにいるのか?に対する答えではない。
ただ知っているのかどうか……それだけ。
池田ではなく、篤久様が私に辞めろと言えば辞めざるを得ないのだから慎重に答えたい。
そう思いながら、少し胸が苦しくなる気がした。
両親にも私の復讐心は明かせていない。
心配を掛けてしまうに決まっているもの。
特に母に心労は禁物だ。
「そうか。知っていてここにいるなら、最初の質問の答えはイエス……だね」
「……」
「酷い仕打ちにどうして耐えているのか、それが分からなかった。うちが直接雇用しているなら、真奈美さんがここを辞めるというのは無職になることだけど、きちんとした会社から派遣されているのだから、ここを辞めたって他の家へ派遣されるだけで職には困らないはず。でも……あれに何をやられても、淡々としているか“自分が悪かったので”と言う。いつまで耐えるつもり?」
ふと優しく緩んだ篤久様の目に誘われたのか、私は
「あれに私と私の家族と同じ思いをしてもらうまで」
自分の決意を初めて人に言った。
篤久様は驚く様子もなく
「その目的は達成出来そう?」
と私に確めるように聞く。
すかさず頷いた私に
「思うようにやってくれて構わない。俺はあの親子に嫌悪感しかないから。今は……父も同じような気持ちだ。そう考えると、真奈美さんがここへ来たのはギリギリのタイミングだったね」
と言う。
どういうことだろうと、少し首をかしげた私に
「あれが結婚する前じゃないと、真奈美さんの目的達成は難しかったかもしれない。まあ、結婚の日程が決まったとはまだ聞かないが」
と教えてくれた。
「決まっていないのですか?」
「みたいだね。父と俺はノータッチだから決定事項を知らされるだけ。婚約者っていうのも俺と父が立会って何かをしたわけじゃない」
「それって……大丈夫なんですか?」
婚約が決まってからごちゃごちゃすると、婚約破棄などややこしいんじゃないかと思って聞いたけれど、篤久様は、ふっ……と笑った。
「自分も大変なのに、人の心配まで?」
「あ、すみません……」
「いや、悪い意味じゃない」
大きく微笑んだ篤久様……珍しいビッグスマイルだよ……
「本当に都合の悪い何かが起これば、父が認めていないと言うだけで済むレベルの口約束だと考えている。あの女たちは、中園の名前は名乗れても使える金に上限があることで、次期社長なんていう者を捕まえる作戦でも立てたんだと思う」
「同じようなことを考えていそうな相手ですけど」
「鋭いね、その通りだと思う。中園の名前に近しくなりたいのだろうけど、安易な考えが世間に通用しないことを知らないのが哀れだよ。そういう考えは見透かされるものだ」
そうだよね。
でも腐った二人の考えが腐っていても当たり前だと思うだけ。
私は私の目的を達成できればいい。
ただ、具体的手段は伝えていないにしても私の目的を知った篤久様が
“ご自由にどうぞ”
という風な態度なことと、彼の遥香母子に対する気持ちが聞けたことは安心材料として一つ良かったことだね。
「真奈美さんのやりたいことは分かったけれど、少しは息抜きが必要な頃じゃないか?」
コメント
8件
篤久様も何か考えとるんかな?
真奈美ちゃんと篤久さんの遥香親娘に対する利害が一致した訳かな?息抜きは全て終わった後でしますかな?
遥香母娘と池田に復讐と真奈美パパの冤罪が立証できたら。沢山の人の人生を狂わせたんだから 計画が終わるまで息を抜けないですが息抜き?