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天樹
『わ〜こんな本も置いてるんだね・・・』
私は書庫の分厚く古い百科事典を引っ張り出していた。
そこに並ぶ単語は、今では使われることのないものばかりで逆に目新しく感じる。
夢中になって読んでいると、フェネスが横に立っていた。
『わ!?ごめん、気付かなかった・・・』
「あ!すみません・・・懐かしかったものですから・・・」
『懐かしい・・・?』
「はい。この百科事典、俺が生まれた時代に書かれたものなんです」
『そうなんだぁ・・・』
古めかしい表紙を撫でて遥か彼方を見ているようなフェネスに、私の胸に小さな穴が空いたような気分になった。
『・・・』
「・・・どうかなさいましたか?」
何も言わなくなった私を心配して、フェネスは顔を覗き込んでくる。
『ううん、何でも・・・。
・・・いや、ちょっとだけ寂しくなっちゃったかも・・・』
「寂しい・・・ですか?」
フェネスは不思議そうに聞き返した。
『うん・・・皆長生きだから、私の知らない皆がいるのがちょっとだけ・・・』
「そうですか・・・」
フェネスはちょっと考えてから口を開く。
「でも、これからではないですか?」
『これから・・・?』
「主様がお屋敷にいらっしゃってからまだ1月も経っていません。
それなのに、俺みたいな執事にもすごく親切にしてくださって・・・そんな主様との思い出をいっぱい作れば良いと思うんです。
これから・・・ずっと一緒に居られるのですから、誰よりも長く俺達の側に居る主様になってください。
そして・・・主様が来てくださった今年の辞典を買って、ずっと未来で懐かしいねって話しましょう」
『いいね、それ。
毎年、一冊ずつ買って揃えようよ』
「はい!目標はどうしますか?」
『そうだなぁ・・・やっぱり3600冊かな!』
3600冊の辞典を集めて、未来で懐かしく思えるように。
私達は本屋に買い物に行ったのであった。
『・・・どうしよう、フェネス・・・
お屋敷の外だと字が読めない』
「どういう仕組になってるんですか」
『英語読めない・・・』
「・・・主様のところの本だとドイツ語?というのに近いですよ?」
『英語ですらない・・・?』
「お勉強しましょうね、主様」
『3600年あればそのうち覚えるよ・・・』
「引きこもりの人が何をおっしゃいます」
『辛辣・・・』
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