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【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
「ないこ、今日左側のエレベーターに乗った?」
事務所の社長室に入ってくるなり、まろがそんなことを言ってきた。
定時で本業の仕事を終え、ミーティングがあるからとこっちに出向いてきたところだ。
そんなまろの言葉に小首を傾げながら、俺はさっきすぐそこのエレベーターに乗ったときのことを思い出す。
2機あるうちの…うん、確かに左側に乗った気がする。
「え、何で分かんの? こわ」
「今それ乗ってきたら、めっちゃないこの香水の匂いした」
「いやますます怖いわ!」
思わず大声で言ってから、俺はデスクに備え付けられた椅子に座ったまま自分で全身を見回す。
「そんな臭いかなぁ」
香水はつけているうちに自分では匂いが分かりにくくなって、つい量が多くなりがちだ。
もう少し減らした方がいいかな、と考えながら自分のジャケットに鼻を近づけ「すん」とその匂いを嗅ぐ。
それでも自分ではやっぱりどれくらい匂うのかは分からない。
「いや、俺が好きな匂いやから気づくだけかも」
さらっと答えて、まろはそのままこちらに近寄ってきた。
俺の後ろを素通りし、その更に奥のラックへ向かう。
これから処理すべき書類が順番待ちをするようにそこに鎮座していて、まろは自分が手伝うのが当然かのようにそのうちの1つに手を伸ばした。
その一連の動作を眺めている時、ふっと覚えのない香りがした。
いつものまろとは違う、キツめの香水の匂い。
「…まろ、今日くさい」
「はぁ?」
「なんかどギツイ香水の匂いがする」
やり返したかったわけじゃなくて、本気でそう思ったから口にした。
一瞬困惑したように首を捻ったまろだったけれど、すぐ後で「…あぁ」と小さく吐息を漏らす。
「今日取引先との商談があって、そこの…女性の香水がめっちゃきつかったから匂い移ったんかも」
さっきまでの俺と同じように、まろも自分の肩の辺りに鼻を寄せる。
やっぱり自分で自分についた匂いは分かりにくいらしく、また首を傾げている。
「両手の指全部にギラギラの指輪つけて、ネックレス何重にもしてそうなコテコテのおばちゃんの匂いがする」
「…見てきたように言うなよ。せっかくこっちが言葉選んだのに」
そう言って苦笑いを浮かべるまろ。
俺の表現はさして外れていなかったのか、恐らく50代くらいだろうそのやり手の女性を思い出しながら肩を竦めてみせた。
まろの会社でのことは、俺にはよく分からない。
あまり詳しくは話したがらないし、俺も自分から聞く方じゃない。
話の成り行き上とは言え、女性と会う話は聞いて気分がいいものでもなかった。
いくらゴテゴテに着飾ったおばちゃん相手で、恋愛に発展するような可能性がほぼ皆無だとしても。
だから、こういう時はいつも思う。
サラリーマンを辞めてここで社長をしている俺をまろは全て見ているのに、俺はお前のこと、まだ知らない部分がたくさんあるって。
俺の知らない世界を持っていて、俺の知らない人と笑って…。
いつかそんな俺の知らないところで、誰かに惹かれてしまったりするんだろうか。
…それは嫌だ。胸の内でそんな風に思う。
お願いだから、俺をここに置いていかないで。
「これ片付けてくるな」
こちらの思考なんて知るはずもなく、書類を手にまろはそう言った。
別室に移動しようとクルリと身を翻す。
「……」
それと同時に、考えるよりも早く俺は自分のデスクの引き出しに手を伸ばしていた。
そこから取り出した物を背後からまろに向ける。
俺の香水を入れてあるアトマイザー。
その蓋を取り、上側を思い切りプッシュした。
まろに向かって噴射された霧状の香水が、ふわっと慣れた匂いを宙に注ぐ。
「え、何? 香水?」
音と香りに驚いて振り返ったまろが、俺の手にした物を見て瞬きを繰り返す。
「しかも使い方間違っとるやん。人の背中に香水ぶっかけるなよ」
「…その匂い嫌い」
まろに移ったキツめの女物の香水を指して、唇を歪めてそれだけ言った。
するとまろはまた一瞬動きを止める。
探るような目でこちらを見つめ返すものだから、俺は居心地が悪くなってその目線から逃れるように逸らしてしまった。
それから「ふーん」と意味ありげな笑みを浮かべて、ニヤリと口元を綻ばせた。
こちらに戻って来て、椅子に座ったままの俺の前に立つ。
手にしていた書類はデスクの上に放り、両手首の内側を上に向けて差し出してきた。
「ん、ここにつけて」
「え? これ?」
アトマイザーを持ち上げると、まろは小さく頷く。
戸惑いながらも出された手首にワンプッシュすると、まろはそれを両手首に分けるように馴染ませた。
そのまま顎をあげ、首筋にもその手首を触れ合わせる。
顎から喉仏、首元までの筋張ったラインに、思わずドキリと胸が鳴った。
意図せず見惚れてしまっていたのか、そんな俺を振り返ってまろは「ふふ」と目を細めて笑う。
「好きな匂いって言うたけど、自分からないこの匂いがするって変な感じ」
言いながらまろは、微動だにすらできないこちらに手を伸ばした。
少しかがむような態勢で、椅子に座ったままの俺の首に腕を回す。
きゅっと抱きしめるように力をこめて、頬と頬が触れ合う距離で囁いた。
「どう? 匂い、上書きできた?」
妖艶な笑みを浮かべているだろう表情が、耳元の声だけで安易に想像できる。
こちらの思考が止まってしまいそうなほどのその漏れ出る色香に、俺はゴクリと喉を鳴らした。
コメント
3件
匂いを上書きとは考えたことがありませんでした…✨✨✨ エレベーターに乗っていても桃さんの香水の匂いを感じるというのは青さんよっぽど桃さんが好きなんだなぁとニヤけが止まりません😖💓 コテコテのおばさんもイメージが恐ろしい程に湧いてきます…見習いたいですその文章力……!!! あおば様の作品を見る度にもっと青桃好きになってます…投稿ありがとうございます😭💕
香水、、私使ってないなぁ、、最近、、匂いを上書き!独占欲?みたいでいい!桃くんが青くんに嫉妬してるのがさらにいいよね、、、毎日更新ありがとうございます!こうやって毎回コメ送ってるのフォロバ目的とかでよく間違われるんですけど、私は違いますからね!?ただ、尊敬してる人には絶対に毎回コメント送るんで!これからも頑張ってください!
お久しぶりです😊 嫉妬してる桃さんが可愛すぎる ᐡ⸝⸝> ̫ <⸝⸝ᐡ 香水の匂い上書きするの良すぎますね🍀*゜ やば、コメントの書き方忘れた🤣 どんなこと書いてたっけ……🤔? とにかく最高すぎました𓈒𓏸︎︎︎︎ 大好きです.ᐟ.ᐟ✊🏻💖 ̖́- 投稿ありがとうございます🙇♀️😊 最近浮上出来てなかったので、 久しぶりにテラー開いた時に更新されて嬉しかったです😊💖 頑張ってください✨‼️