テラーノベル
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あらすじ
四方を敵国に囲まれた中央国家。
終わることのない戦争の中、人々は一人の歌姫を希望としていた。
天音。
戦術支援オペレーターであり、兵士たちを励ます歌姫。
前線の兵士たちは彼女の歌を聞きながら戦う。
歌声には軍が開発した情動同調システムが組み込まれ、兵士たちの恐怖や絶望を和らげていた。
誰もが彼女を英雄と呼ぶ。
救世主と呼ぶ。
しかし、その誰もが知らない。
彼女が軍上層部の管理施設に閉じ込められ、戦争のために利用され続けていることを。
試作カタフラクト独立機動群。
戦線を渡り歩く精鋭部隊。
その隊長ユウは、天音と日々通信を重ねていた。
最初は仕事だった。
戦況報告。
補給申請。
作戦立案。
ただそれだけ。
しかし長い時間をかけて、ユウは知る。
テレビの中の歌姫ではない。
眠そうな声で文句を言う彼女。
徹夜続きで苛立つ彼女。
誰にも見せない弱さを抱えた彼女。
ユウはいつしか、天音を英雄ではなく一人の女性として見るようになる。
戦争は激化する。
軍は新たな計画を開始した。
共感覚接続計画。
兵士たちの精神データを天音へ流し込み、より深く兵士を理解し、感情を抑制させるための実験。俗にいえば恐怖面の割愛だ。
最初は小規模だった。
だが戦況が悪化するにつれ、その規模は拡大していく。
何万人もの兵士の感情。
恐怖。
絶望。
孤独。
死への怯え。
それらが天音の中へ流れ込む。
助けて。
怖い。
帰りたい。
死にたくない。
母さん。
寒い。
痛い。
助けて。
無数の声。
無数の叫び。
無数の人生。
それを受け止め続けた天音は少しずつ壊れていく。
それでも歌う。
歌わなければ兵士たちは立ち上がれない。
歌わなければ戦線は崩壊する。
歌わなければ世界は終わる。
いつしか彼女は信じるようになる。
私が苦しめばいい。
私が壊れればいい。
私が歌い続ければいい。
そうすればみんな救われる。
それは祈りではなかった。
狂った救済思想だった。
やがて兵士たちも変わり始める。
歌に依存する。
苦しみを尊ぶ。
自己犠牲を美徳とする。
天音のために戦うことを誇りとする。
世界は少しずつ狂い始める。
そしてその中心にいるのは天音だった。
ある日。
全軍放送。
誰もが聞く歌。
兵士たちは涙を流しながら耳を傾ける。
だがユウだけは違う。
歌の中に混じる僅かな違和感に気付く。
音程。
呼吸。
語尾。
誰にも分からないほど小さな変化。
しかし毎日通信してきたユウには分かった。
助けて。
それは歌姫の歌ではない。
一人の女性の悲鳴だった。
ユウは決断する。
命令違反。
軍への反逆。
独立機動群を率いて天音の奪還へ向かう。
上官たちは止める。
国家には天音が必要だ。
兵士には天音が必要だ。
世界には天音が必要だ。
だがユウは答える。
「知らない。」
「歌姫なんてどうでもいい。」
「救世主なんてどうでもいい。」
「俺が迎えに行くのは天音だ。」
中央戦術支援局。
軍最深部。
兵士たちの感情を受け続ける共感覚システムの中で、天音はなお歌い続けていた。
泣きながら。
壊れながら。
笑いながら。
「私が歌わなきゃ。」
「みんな死んじゃうから。」
「私しかいないから。」
ユウは彼女の前へ立つ。
「違う。」
「お前は救世主じゃない。」
天音は首を振る。
「違う。」
「私は歌わなきゃ。」
「みんなを救わなきゃ。」
ユウは怒鳴る。
初めて。
「そんなもの知るか!」
「世界なんかどうでもいい!」
「お前が苦しいなら終わりだ!」
「帰るぞ、天音。」
その瞬間。
歌姫でも。
救世主でも。
英雄でもない。
一人の女性としての天音が涙を流す。
『……帰りたい。』
それが彼女の本音だった。
『怖い。』
『苦しい。』
『助けてほしい。』
世界中が求めた歌姫。
国家が利用した英雄。
兵士たちの救世主。
その全てを捨てて。
ユウは彼女の手を取る。
星屑のように散っていった無数の命。
その悲しみを抱えながら。
二人は世界から逃げるように歩き出す。
これは戦争を終わらせる物語ではない。
世界を救う物語でもない。
世界に救世主として祭り上げられた少女を、
たった一人の男が取り戻す物語である。
『星屑への唄』
― 世界が歌姫を求めても、彼だけは天音を見ていた。 ―
コメント
1件
もう、ほんとに……胸がぎゅってなりました。天音が「私が歌わなきゃ」って壊れそうな笑顔で言うところ、そしてユウが「世界なんかどうでもいい」って叫ぶところ、涙が出ました。誰も彼女を一人の人間として見てなかったのに、ユウだけは違ったんですね。二人がようやく本当の言葉で向き合えた瞬間が、あまりにも尊かったです……。次がとても気になります!