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#怪異
耐え内
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#怪異
阿炎快空
123
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
「ちょ、ふざけないでよ!何これ、何これ!?」
胸のあたりまで、完全に土の中に埋もれてしまっている。由衣は懸命にもがくものの、柔らかい土が体にからみつくばかり。下手にもがくと、そのままさらにずぶずぶと体が沈んでいってしまいそうだった。
何がどうしてどうなっているのか、さっぱりわからない。
自分は確かに学校にいたはずだ。そして、廊下で急に人がいなくなって。夕方になって。見知らぬ学校のようになった空間で、あの女の声が聞こえて。
足元に穴があいて、落ちて――気づけば、この場所に。
――何処なの、ここ!?
とりあえず上を見上げてみることにする。木々の合間から青い空が見えていた。さっきの謎の学校とは違う、屋外の、昼間。周囲は雑木林であるようだった。かさかさに乾いた背の高い木々が、空高く伸びている。青々とした葉を茂らせ、ところどころ落ち葉らしきものが落ちて土の上に降り積もっているのがわかった。
これは、綾乃の仕業、なのだろうか。
彼女の謎の力で、自分はこんなところに飛ばされてしまったのだろうか。
そういえば、学校ではなく、どこかの雑木林で死体が見つかった方がいいとかなんとか、意味の分からないことを言っていたけれど――。
――人を一瞬でテレポートさせたってこと?そんなことが本当に人間に可能なの?それとも本当に、あいつが悪魔と契約したとでも?
理解がまったく追いつかないが、とてつもなく嫌な予感がするのは確かだ。このまま土の中に埋もれていたらそれだけでも餓死してしまいそうだが、あの女がそんな生ぬるい罰で済ませるとは思えない。なんせ、蛇のようにねちっこく、汚らしい逆恨みを向けてくるような相手。あの冬香を、あんな惨たらしく殺しておきながら平然と笑っていた相手なのだ。
「んん、んんんっ!」
一生懸命体を揺すり、自由になる両腕で這い上がろうとする。しかし、土が完全に下半身を捕まえてしまっているのと、両腕で捕まることが出来る場所が何もないせいでなかなかうまくいかなかった。這い上がろうと両手に力をこめると、そこの土も柔らかいせいで腕が沈んでしまいそうになる。これでは、下手に脱出を試みると逆効果になりかねない。
もし由衣が運動神経抜群で腕力も体力もある人間だったなら多少手の打ちようもあったのかもしれないが――生憎、由衣は普通の女子高校生よりだいぶ小柄だった。なんせ、十七歳にも関わらず小学生に間違われることが少なくないのである。それは低身長に加え、まったく出るとこ出ていない残念な体型と、まるっこい童顔のせいもあるだろう。大体、ツインテールで私服で歩いていたら、普通に子供料金で交通機関が利用できてしまうあたりお察しである。
つまり、力技で脱出するのが困難なのだ。
せめてポケットの中の携帯電話が使えればいいのだが、この状態ではポケットに手を伸ばすことも叶わない。
そもそも、落下してくる時に携帯が無事であるかどうかもかなり怪しい。落下の衝撃で壊れてしまったか、あるいはどっかに行ってしまった可能性は十分考えられるだろう。
――早く、早く逃げないといけないのに。あの女が来る前に!
「誰か!誰かいないの?埋もれちゃって、動けないんです!誰か、助けてくださいっ!」
声を張り上げ、周囲に助けを求めてみた。しかし、答えるのは木々の葉を揺らす風の音ばかり。ざわざわ、ざわざわ、という音にかき消されて、元よりさほど大きくない由衣の声はちっとも響かない。
そもそも、此処が街の近くであるかも怪しい。
もし、近くに人が全然いない、山の中のような場所だったとしたら。仮にこのまま脱出できても、迷子になって元の場所に戻れなくなってしまうのではないか――。
『ふふふふふ……』
「!」
声が、聞こえた。
由衣の助けを聞き届けてくれた救世主、などではけしてない。
野間綾乃。あの悪魔の女の声だ。自分を拷問して殺しに来たのだ。
――まずい、まずいまずいまずい!
この状態では碌な抵抗もできない。ただタコ殴りにされるだけでも大きな怪我を負う。身をよじってどうにか穴の中から抜け出そうとする。ずりずり、ずりずり、お尻を振り、足をばたつかせ、なんとか事態を打開しようとするのだが。
『無駄無駄。そんなことしたって意味ないわ。その土は、貴女を獲物としてがっちり捕まえてるんだから』
「なんですって!?」
『あたしね、魔法を使えるとなった時、いくつも想像したの。そして、ゲームに出てくる怪物についてもいろいろ思い出してみたわけ。中には、獲物を長く、じわじわ苦しめて消化していく空想上の怪物とかいるわよね。今のあたしなら、そういうものを作り出すこともきっとできるんじゃないかって』
綾乃は、楽しそうに笑う。
『あたし、忘れてないのよ。あんたと浮島冬香にされたこと、全て。あたしが歩いている時、落とし穴に落とされたこともあったわよね。でもって、あんた達は笑いながら上から土を落とした。大した量じゃない?窒息するほどの量じゃない?ええ、そうだったかもしれないわよ。でもあたしは、汚い土に埋もれて苦しかったし怖かった。そして恥ずかしかったわ。泥まみれになって這いあがる姿を、馬鹿な生徒たちに見られる屈辱といったら……!』
確かに、綾乃にそういう悪戯を仕掛けたこともあった。だが、それは綾乃が先に楓に対して酷いことをしたのが悪いのではないか。
そうだ。だって綾乃は、楓の大事なものをたくさん汚した。土まみれにしたこともあった。そんなに土が好きならお前が埋もれていればいい、と言い出したのは由衣の方。落とし穴にでも落ちて反省すればいいと思っただけだ。怪我などしないように大した深さにもしていないし、下にクッションも敷いていた。自分はこいつとは違う。精々服が汚れる程度で、怪我をするような悪戯は一度もしなかったというのに――。
「だったら、わたしにもまったく同じことをすれば良かったじゃない」
ぎり、と土を掴んで、由衣は虚空を睨みつける。
「なんで、人を土に埋めて、拷問するなんて話になるの?明らかにあんたの方がやりすぎでしょうが!なんであんたの方が苦しかったなんてことになるわけ!?あんたより、楓の方がよっぽど……!」
『はあ?あの女が先にあたしを苦しめたからやり返しただけじゃない。正当防衛よ。あんたこそ何?それこそ逆恨みだわ。あたしの方があんた達よりずっとずっとずっとずっとずっとずっと苦しかったんだから、百倍返しくらい当然でしょうが!』
「ぐっ……!」
駄目だ、とすぐに理解した。こいつには、何を言っても無駄だと。自分がやったことは全て正当化して、自分は全てにおいて完璧な被害者だと信じ込んでいる。己が悪行を成しているなど微塵も思っていない。
そして、こういう人間はタチが悪いのだ。己を正義だと信じているからこそどこまでも暴走する。罪悪感のストップなどけしてかかることがないのだから。
『もういいわ。そろそろ、始めましょ。教えてあげる……その土の中に、何がいるのか』
「なっ」
次の瞬間。ぶぶぶぶぶ、とまるでバイブでも埋まっているかのように、周囲の土が揺れ始めた。いや、それだけではない。段々と、全身が熱くなってくる。さながら、土そのものが熱を持っているような。
「あ、あつっ……!?」
暑い。秋の涼しい風もなんのその。全身が蒸されているように暑くなり、一気に首に、顔に汗が噴き出した。まさかこのまま焼き殺すつもりなのだろうか、と手で掴んだ土を見て由衣はぎょっとしたのだった。
土が、動いている。否。
蠢いている。土の一粒一粒が、まるで生き物のように。いや、これは、自分が土だと思っていたものは。
『あんたが埋もれているのは土に見えて土じゃないのよ。それはね、とっても小さくて細かい、蟲の集団なの』
綾乃は楽し気に言葉を紡ぐ。
『獲物を捕まえ、巣穴に引きずり込んで……じっくりと穴という穴から入り込んで、内側から喰らっていくのよ。腸にも、肺にも、子宮にも、膀胱にも入り込んでね。さあ、楽しいパーティのはじまり、はじまり!』
その瞬間、由衣の聴覚は捉えていた。ぶぶぶぶぶぶぶ、という羽音のような、蠢くような、そんな多数の生物が奏でる音を。そしてそいつがぞわぞわと、由衣の下半身をはい回り始めたのを。
「い、嫌!嫌っ!やだ、やだあああっ!」
――気持ち悪い!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
凄まじい嫌悪感で吐き気がしてくる。暑さと、それではない汗で首が、顔がぐっしょりと濡れていく。
だが、こんなものは悪夢の序章に過ぎなかった。ごそごそと蠢いていた蟲の集団が、由衣の制服のスカートをまくり上げ、下着の中にまで侵入してきたのがわかったからである。
ぞわ、と背筋が泡立つのと。お尻の穴に異物感を覚えるのは同時だった。
――ま、まさか、まさかまさかまさかまさか!
ぎゅうう、とお尻に力を込めて括約筋を締めたのがアダとなった。次の瞬間、ぶち、と何かがお尻の穴に噛みついたのが分かったからである。
ぶちぶちぶち、という音が――肛門括約筋を噛み千切られている音だと気づいたその瞬間。お尻から脳天に、突き上げるような激痛が走ったのだった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいいいいいっ!おしり、おしりが、おしりがっ……あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
勿論、それだけで済むはずがなかった。熱くなった蟲の群れが、括約筋が破断してまったく締まらなくなったお尻の内側へどんどん入り込んできたのである。それも、入るサイズなど完全に無視した状態で。
ぶちぶちぶち、という音が今度はお腹の中から聞こえて来た。直腸が圧力に耐えきれず、引き裂かれている。いや、直腸だけではない。結腸の壁も破られ、大腸さえも。
「いぎいいいいいいいいいいいいいいい、いいいいいいいいいいいいいいいい!」
お尻の引き裂けるような痛みが、お腹の中にまで浸透していく。しかも、蟲の集団はそのまま由衣の股間の方まで移動を始めたのだ。
下着を破り、まだ男性と交わったことなどない膣の方まで。
「ががが、がっ!」
快楽などあろうはずがない。女性としての快感をほとんど知らないその場所が、じゅう、と蟲が発する熱で焼け焦げ、引き裂かれて行く。
「あがああああああああああああああああああああああああああああああああ!やだやだやだやだ、やだあああああああああ!」
ぶつん、と子宮口が食いちぎられる音がした。あまりの激痛に、ぶくぶくと泡を吹き始める由衣。さらには虫の集団は膣の少し上、小さな尿道の穴にまで体を潜り込ませてくるのだ。
当たり前だが、膣よりも肛門よりも尿道の穴は狭い。そんなところに、小さいとはいえ多数の虫の集団が殺到すればどうなるか。しかも、膣や肛門のように伸縮するようには一切できていないのだから。
ばつん!
「がっ」
細い管を引き裂いて尿道を遡る蟲たち。あっけなく膀胱括約筋を破壊し、膀胱の中までいっぱいに満たす。
そのまま、腸、子宮と同時進行で、やわらかな臓器の内側から噛みつき、突き刺し、ぶちぶちと粘膜と肉を食い散らかし始め――。
「ぎゅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!だずげで、だず、だずげ、誰か、だず、いだい、いだい、いだいから、おねがっ……あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
地獄は、どこまでいっても地獄なのだと思い知る。
暫くの間、少女はひたすら泡を吹きながら絶叫し、腹の中を生きたまま喰われる苦しみに悶え続けたのだった。
コメント
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ああ、これは…読んでいて息が詰まりました。由衣の視点で描かれる、あの土の中に埋もれる閉塞感と無力感がひしひしと伝わってきて。自分は小柄で力もないからこそ、あの状況での絶望がよりリアルに感じられました。それにしても、綾乃の「自分は被害者」という歪んだ正義感、怖いですよね。蟲に内側から喰われる描写はとにかく衝撃的でしたが、それ以上に「過去のいじめの応酬がここまでエスカレートしてしまう」という構図に考えさせられました。続きが気になります…😢