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ここで「アルフォンス様と結婚の約束をしました」と言えない。
言ってしまえば、まるでアルフォンス様とレティが結婚するのに反対したくて、我が儘を言っているように捉えられてしまう。
彼は立派な婚約指輪を贈ってくれたけれど、公式な求婚をしていない。
ここで指輪を見せても、彼の気持ちの証明にはならない。
それに私はレティに見られるのが怖くて、指輪を部屋の宝石箱にしまっている。
彼と一緒にいた時は愛される事を決意したはずなのに、シャレット王国に戻るとまた情けない〝ハズレ姫〟に戻ってしまった。
民だって若き美貌の皇帝と聖女が結婚するなら、「お似合いだ」と言うだろう。
そんな中〝ハズレ姫〟が聖女を差し置いて「皇帝陛下に求婚されたのは私です」なんて、図々しくて言えない。
押し黙った私を見て、レティは慰めるように優しい声を掛けた。
「フェリはアルフォンス様に優しくしていただいたから、複雑な気持ちになるわよね。でも書状を送られたのに沈黙していたら、カール様への印象が悪くなってしまうわ。とりあえず帝国に赴いてアルフォンス様とお話してみてはどうかしら」
慈愛の籠もった笑みを浮かべるレティを見ると、ズキズキと心が痛む。
「上皇陛下は気難しい方だし、まずは素直に言う事を聞いたほうがいいと思うの」
彼女は正しい。
王女としてまっとうな意見を言っているし、これに私が反論しても非難を浴びるだけだ。
「…………そうね」
力なく頷くと、レティは私の手をギュッと握ってきた。
「ねぇ、フェリ。心細いから帝国に行く時、一緒に来てくれない?」
「えっ?」
目を丸くすると、私とうり二つの彼女は天使のようと言われた笑みを浮かべる。
「一人じゃ心細いわ。半身がいてくれたら、きっといつものように振る舞えると思うの」
姉に半身と言われて頼られ、私は胸を引き裂かれるような苦しみを抱えながら、切ない笑みを浮かべた。
「……そうね。……分かったわ」
力ない返事を聞き、レティは「ありがとう!」と歓声を上げて私を抱き締めてきた。
**
その後、一日遅れでアルフォンス様から手紙が届いた。
【すまない。父上から勝手な書状が送られて驚いただろう。父上は俺が君と親しくしている事を間者から聞き、嫌がらせをしたらしい。今、熾烈な親子喧嘩を交わしている真っ最中だ。『魔石さえなければ……』と思うともどかしい。こちらでは対策を講じているから、君は報告を待っていてほしい。それとは別件だが、魔石の問題を解決するために、レティシアに力を貸してもらえないかと考えている。一旦レティシアを呼び寄せるつもりでいるから、君も同行してくれないか? 事情を知っている君がいれば説明も省けると思う】
彼の手紙を読んで、波立っていた心が落ち着いていった。
まず、アルフォンス様がレティとの結婚を望んだのではなくて安心した。
さらに彼は聖女なら魔石の呪いを解けるのでは、と期待している。
レティは稀代の聖女と呼ばれるほどの力を持っている。
(もしかしたら、問題は解決するかもしれない)
アルフォンス様の呪いが解けるなら、少しぐらいの事は我慢しないと。
(彼は私を想ってくれている。その気持ちを信じよう)
アルフォンス様だって本意ではない展開になり、憤りを感じているはずだ。
私一人だけ「どうしてこんな事に」と嘆くなんて子供っぽい。
自分に言い聞かせた私は、気持ちを入れ替えて手紙の返事を書き始める。
そんな私を、ジョゼが褒めてくれた。
「成長なさいましたね。以前なら雨後のカタツムリのようにジットリとされていましたのに」
「……あなたは私を何だと思っているの……」
私は思わず突っ込み、溜め息をつく。
「私、アルフォンス様が大変な事情を抱えていると知らなかったわ。なのに彼はずっと私を心配し、導いてくれた」
私は胸に手を当て、今まで彼から受けた恩、優しい言葉の数々を思い出す。
「だから私は、アルフォンス様がお困りなら全力で助けたいし、彼が求める未来のためなら我慢する。私は彼から愛されていると確認したし、求婚もされて指輪も贈られた。今はそれを信じるわ」
半分自分に言い聞かせるように言うと、ジョゼは満足そうに頷いた。
「それでこそ姫様です。とても誇らしいですよ」
今までの苦悩をすべて知っている彼女に褒められ、私はニコッと笑うと小さく拳を握った。
その後、私はレティと一緒に帝国に向かう事になった。
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