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#オフィスラブ
猫塚ルイ

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結局、その日は一日中、ナオミは穂乃果をベッドから離してくれなかった。
思い返せば、食事を摂るときと、汗を流しにお風呂に入るとき以外は、起きている間中ずっと身体を重ねていた気がする。
(私、あれよあれよと流されすぎじゃない!? こんなに誰かに夢中になるなんて、信じられない……)
穂乃果はベッドの枕にガバッと顔を埋めて激しく身悶えた。あまりの自己嫌悪に足をバタバタさせたいくらいだ。
けれど、穂乃果がベッドの上で気だるさに動けない間にも、ナオミは手際よく美味しいご飯を作ってくれたり、至れり尽くせりで看病のように世話を焼いてくれたのだ。
(あんなハイスペックなスパダリっぷりを見せつけられて、優しくされて……こんなの、好きにならない方がおかしいよ……)
直樹の時には決して与えられなかった、無条件で全肯定されて甘やかされる贅沢な時間。
思い出すだけで顔から火が出そうになり、穂乃果はもう居ても立ってもいられなくなった。このままではベッドの上で恥ずかし死んでしまう。
「し、仕事! 夜勤の準備しなきゃ……っ!」
パニックを落ち着かせるように無理やり声を出すと、まだ出勤には早い時間だというのに、ベッドから飛び起きてバタバタと夜勤の準備を始めてしまう。
洗濯を終えて畳んであった白衣をクローゼットから引っ張り出し、逃げるような手つきで必死に通勤バッグへと詰め込んだ。そうして身体を動かしていないと、ナオミの残香にまた脳を溶かされそうだったから。
「じゃあ、アタシ、一足先に行ってくるわね」
不意にリビングから声をかけられ、振り返った穂乃果は思わず息を呑んだ。
そこに立っていたのは、ウィッグもドレスも身につけていない、まぎれもない『男(ケンジ)』の姿をしたナオミだった。
「あの……ナオミさん、今日は、すっぴん……なんですか?」
ドギマギしながら尋ねると、彼は少し困ったように眉を下げた。
「入院中は化粧禁止って言われてるのよ……あまりこの素顔(顔)で出歩きたくないんだけどね」
低く掠れた地声で苦笑しながら、彼はそのままスマートに家を出て行ってしまった。
パタン、と閉まったドアを見つめながら、穂乃果はトクン、と切なく跳ねる胸を押さえた。
メイクを落とした彼の素顔は、ハッとするほど男らしくて、格好いい。
――本当になぜ、これほどまでに格好いい大人の男性が、普段あんな完璧な女装をしているのだろう。
知りたい。けれど、そこにはきっと、自分が安易に触れてはいけない深い理由があるような気がして、どうしても聞くことができない。
ナオミがいなくなり、急に広くなったように感じる静かな部屋。
夕方からの夜勤まで、まだたっぷりと時間があった。一人きりになると、どうしても頭の中に浮かんでくるのは、さっき見送った彼の『素顔』のこと。
(……待って。ナオミさん、あの格好いい男の姿のまま、一人で大きな総合病院に行くんだよね?)
ふと、おかしな想像が頭をもたげた。
あの色気と抜群のスタイルで、ウィッグもドレスもない『素の男』として歩いていたら、嫌でも目立つに決まっている。
(入院棟のロビーとか、売店とか……あの姿でうろついたりしたら、変な女の人に逆ナンされたりしないかな……っ!?)
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