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深夜、途切れ途切れの街灯。
車のクラクションが淋しく響く。
「着きましたよーおどろくさん、起きてください」
「あーあー爆睡だ…」
「まぁ真夜中ですしね…今日は私達も早めに寝ましょっか」
大体の荷物の運搬は終わっていたらしく、
もともと俺達は荷物が少ないせいもあり、(しぇいどさんのシビアすぎる断捨離のおかげだろう)、1時間程でほとんど引っ越しが終わった。
俺達の新天地、いわば新たなる「巣」は、王都から少し離れた街にある商店街のビルの一角。
治安はそこそこで、髪染めのチンピラなんてそこらにいるような街だった。
やっといろいろ片付いて、1時半、しぇいどさんと2人で夜食を食べた。
おどろくちゃんには内緒で、つけ麺を大盛りでしぇいどさんに作ってもらった。
彼女は驚くほど料理上手で、得も言われぬうまさだった。
鶏ガラスープとニンニクの旨味。ちょっと高い豚バラ肉。こんなにうまいものを食べたのは戦前以来だろう。それほど美味しかった。
そして初めてブドウ酒というものを飲んでみた。
今思えば未成年で酒なんて早熟すぎるし、子供に酒を売りつけるあの街もあの街だった。
ブドウ酒というんだからブドウジュースのように甘いものだと思ったが、思っていたよりほろ苦く、「大人な味」だった。いきなり赤は子供には早かった気もするが。
しぇいどさんは酒好きで、ワインをがぶがぶ飲んでいたが、案の定強い方ではないらしく、ずっと「私の嫁…フェアリー…」「緑の悪魔め…」「ドレディア愛してる」みたいなことを連呼するもんだから、まあそのときは大変だった。
しぇいどさんを介抱しながら食器の片付けもしたものだから、結局寝れたのは丑三つ時を過ぎた頃だった。
翌朝8時半、おどろくちゃんが花瓶を割る音で目が覚めた。
幼い彼女なりに、まだ寝ていた俺達を気遣って、しぇいどさんの日課である花瓶の水交換をしてくれていたらしい。
朝から胸が暖まった。
あんなもの、きっとそこら辺に売っているし、また買えばいいと2人でおどろくちゃんに伝えた。
やっぱり俺達は、組織とか、幹部とかそういうのは向いていない。
このまま、「普通の家族」としてすごしたいと思ってしまったことは、我儘だろうか。
だんだん人といることが好きになって、戦前と比べたら大きな成長だろう。
ただ、そこに、今に、少しでもひびが入ってしまったらすぐにこわれてしまいそうで、ちょっとだけ怖かった。
「第2回、あーっと、…かいぎ!はじめるのだ!」
「拍手ー」
「えーと、今から割と真面目な話します」
「うん」
「組織、解体したじゃないですか」
「そだね」
「もといた情報屋、どっかの別組織に買われたらしいんですよね」
「は?」
「なので、簡潔に言いますが情報屋がいません」
「じょーほーやってあれなのだ、なんか情報集めるやつ!」
「はい、その情報屋がいないんです…」
「俺たちだけでどうしろと…」
「そこで!たぶんコミュ力があるお二人にお願いです。いい感じの情報屋、拾ってきてくれません?」
「ちょちょちょタンマタンマ」
「しぇいどさんは?なんか情報系できそうじゃん」
「私パソコンとか触ったことなくて…」
「なんにせよこの通告が入ったのもついさっきなんですよ…買われやがったあいつから直々に…」
「そーゆーしぇんぱいはどうなのだ」
「ッアー…ハハハ…」
「でしょ?だから探しに行かなきゃ」
「しぇいどしゃんは残るのだ?」
「あなたがたのどちらかが残るってなるとなんだか心もとないんで…」
「おい凸さんに失礼だぞ〜!」
「そーなのだ!」
「まあそんなわけで、お二人は勧誘とか得意そうじゃないですか」
「ついでに組織も大きくしたいですし、フィーリングでいい感じの若者を拾ってきてください」
そういってしぇいどさんは「おつかいメモ」というものを俺たちに渡した。
半ば強引に送り出されたが、たまには朝買い出しに行くのも悪くないだろう。
錆びたドアノブに手を伸ばした。