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l 。 l 🏐
(角名 side)
窓を叩く雨音が、図書室の静寂をより一層深いものに変えていく。
目の前で、小刻みに肩を震わせ、今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げる四ノ宮 紬。
その怯えきった瞳に、俺という「恐怖」が刻まれていくのを見るたび、俺の胸の奥では、どろりとした、暗い熱が沸き上がるのを感じていた。
「……怖い? いいじゃん。もっと怖がってよ」
自分の口から出た言葉が、自分でも驚くほど低く、残酷に響く。
けれど、それが本音だった。
いつからだろう。この、大人しくて、誰にでも平等に優しくて、無防備な後輩を、自分の檻に閉じ込めてしまいたいと思うようになったのは。
最初は、ただの「観察対象」だった。
バレーのコートと同じ。効率よく、最小限の力で相手をハメるための分析。
マネージャーとして俺を撮る彼女のレンズが、いつも俺の動きを正確に追っていることに気づいた時、俺はただ「面白いな」と思っただけだった。
でも、ある雨の日。
図書室で一人、必死にノートに向き合う彼女の、無防備なうなじを見た瞬間。
俺の中の「何か」が、音を立てて壊れたんだ。
(……この子を、俺だけのものにしたい。……誰にも見せない顔を、俺の手で引き出したい)
一度芽生えた独占欲は、猛毒のように俺の全身を駆け巡った。
彼女が他の男に名前を呼ばれるだけで、その男をコートの上で再起不能にしてやりたい衝動に駆られる。
彼女が俺以外の何かに笑いかけるだけで、その笑顔を塗りつぶして、俺への恐怖と依存だけで満たしてやりたくなる。
「……ねぇ、紬。君さ、俺のこと『攻略不可』なんて呼んで、勝手に憧れてたでしょ」
俺は彼女の細い首筋に指を這わせ、脈打つ鼓動を掌で確かめる。
この小さな心臓を、俺が握りつぶしてしまえば、彼女は永遠に俺のものになるんじゃないか。
そんな狂った思考が、深夜の脳内を何度も支配した。
合宿の夜、あの暗い空き部屋で彼女を組み敷いた時。
俺は初めて、心からの充足感を感じた。
俺の付けた傷跡を見て、俺の与えた熱に震えて、俺の名前を泣きながら呼ぶ彼女。
あぁ、これだ。これこそが、俺がずっと欲しかった「四ノ宮 紬」だ。
「愛してる」なんて、そんな綺麗な言葉じゃ足りない。
俺が彼女に抱いているのは、もっと汚くて、重くて、一生かかっても返しきれないほどの「呪い」に近い執着。
「……逃げようなんて、考えないでよ。……もし君がいなくなったら、俺、本当に何するかわかんないから」
耳元で囁きながら、俺は彼女の首筋に深く、深く、自分の印を上書きするように唇を押し当てる。
君が怖がれば怖がるほど、君が俺から離れられなくなるのが分かる。
君が泣けば泣くほど、君の身体が俺の熱を覚えていくのが分かる。
たとえ君が俺を恨んでもいい。
たとえ君の心が壊れてしまっても構わない。
俺の部屋の、誰にも教えない暗闇の中で。
俺だけのものとして、一生、俺に飼われていればいいんだよ。
窓の外、雨は激しさを増していく。
俺は、震える彼女を腕の中に閉じ込め、その絶望に染まった瞳を、愛おしくて堪らない気持ちで見つめ返していた。