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当てのない旅みたいだ。 曇天は己の心を表すかのように、軽い湿気を纏いながら首筋をくすぐる。ヘッドホンはブルートゥースの電波が混在するせいか、時折音にノイズが入る。消えかかった感情を軽快なテンポの音楽でなんとかつなぎ合わせながら通りを歩く。
本当の自分だとか本来したいことはなにかとか自問自答する時がある。おそらく暇なのだ。退屈なのだろう。起床してはいつも通り外を歩く。老人のような生活ではあるが自分はこの行為が好きだ。歩いている間は自分の悲観的な思考に酔えることができる。
空を見上げる。曇天の隙間から見える太陽は月が雲の割れ目から月明かりを発すようにカーテンを介して自分を照らす。本来の役目を阻まれながらもその存在を全うする、自分もそんなふうになれたら…なんて無い物ねだりをする。
救いの手はあるのか。ある哲学者は言った。「神は死んだ」と。近代の物質主義を根底に唱えたらしいが果たして本当であろうか。ゴミに等しい。それは近代という時代背景ありきの思索だ。つまりベースがなければその考えを考えることもできない。富裕層には余裕が、貧困者には選美眼が、そんな風に考えの根本がそもそも違う。平等なんてありはしないし、平和なんてもんは無知故の天国でしかない。かりそめなんだ。
悶々と思索を続けながら歩いているといつしか大通りから外れ周囲を見渡すとポツンと教会が建っている。入ってみると、入会者がいないのか人気が全くない。モンクスベンチは座るとひどく軋む。
でかでかとそびえる十字架を見る。かつてあの十字架には人がかけられていた、そして幾人の死人が積み重なった。復活?ここから?バカじゃねえの。お前は摂理に逆らうんだな。それが人智を越えた存在だからだって?違うな、お前が前世に未練があったからだろ。理不尽に殺されてもさっさと消えろよ、なんのための心臓なんだよ。
自分は宗教が好きでも嫌いでもない。それで救われる人間がいるならそれで良い。たとえ色眼鏡の視野だとしてもその人の生きる原動力となればそれで良い。だが問題なのは自分みたいなパットしない奴だろうな。変に知識だけはあるせいか、嫌いという位置までベクトルを持っていけない。それで救われる人間がいるというのを分かっている。同時に知識からの解脱の手段であり公平な思考を妨げるフィルターにもなり得る。公平ってなんだ??
「…馬鹿らし..」
悦に浸ってんだろうな。お前には簡単に従わない、自分はお前の偽りを知っている。考えていなくても思考のベースには必ず存在している。植物のように根を張って離れることがない。引き抜くころには死んでるんだろうな。
「あら?入会者の方かしら?」
振り替えるとシスターのような格好をした長身の女性?が立っている。黒に近い紫色のような服装だった。帽子には十字架が左右にかかっている。実にシスターらしかった。
「…すいません、休んでました」
「あら、そうなの?」
「邪魔だと思うので帰りますね」
足早に出ようとすると呼び止められ一枚のビラを渡された。結論から言えば勧誘だ。なぜか俺は承諾した。なんで即諾したのかはよく分からなかった。ただ一つ言えるのはどう足掻いても入信させられる気がした。
「これでいつでも来れるわ 」
屈託のない笑みで歓迎を体現していた。人数合わせのための行動ではないらしいことは分かった。気分は悪くなかった。大学も一年休学しているし別にいいか、そんな具合だった。
「そういえば名前は?」
「ノア・ディーム・アボです」
物珍しそうに見つめられる。しかし眼には忌避のような雰囲気はなかった。
彼女はSarvente言うらしい。
見た目は人間とは思えないが深くは考えないことはしないことにした。
ノア・D・アボ
♂
大学生
趣味:読書、ビート作り、散歩