覗き穴

東條は、渡辺といいことしようと言う。

渡辺を見る目つきが怖い。

この身体に触れていいのは目黒だけ。

東條の言ういいことは何を意味するか分かっている。

簡単にOKするわけにはいかない。

２週間、家に行かなかった。

東條はどう思っただろう。

渡辺は、少し痩せてきた。

食べても、吐いてしまう。

目黒に助けは求めない。

そう決めたのに、気持ちが弱くなっているから助けてほしいと思った。

でも、やっぱり東條のことは言えない。

だから、1人で耐えている。

そんな渡辺に溺愛の鬼が気がつかないわけがない。

ある日、無理矢理、目黒の家に連れて帰って来た。

渡辺は抵抗したが、力で敵わない。

部屋に入ると、涙が出てくる。

見られている。

渡辺が来たことを知られている。

ポロポロ泣く渡辺。

目黒はどうしたか聞くけど、渡辺は何も言わない。

抱きしめると、しがみついて来る。

ソファに座って、渡辺に聞く。

目黒ーまだ言えない？

渡辺ー・・。

目黒ーこんなに痩せて。

渡辺ー食べて・・る。

目黒ー吐いてるんでしょ？

渡辺ー・・。

首を振る渡辺。

そのくせ抱きついて離れない。

目黒は、誰かに怯えているんじゃないかと思う。

専務みたいな人が現れたんじゃないかと思う。

目黒ー誰かに何が言われてるの？

渡辺ー・・。

目黒ー翔太くん。

渡辺ーそんなことない。

言わない。

きっと、誰かがいるはずなのに。

目黒ーこの前のマスクの下、怪我じゃない？

渡辺ーちょっと切っただけだ。

目黒ー何で？

渡辺ー・・。

目黒ー誰が切ったの？

渡辺ー自分で。

目黒ー嘘、切られたんじゃないの？

渡辺ー・・。

目黒ー翔太くんに何が起こってるの？教えて？

渡辺ー何もない。

泣きながらそう言う。

説得力ない。

目黒は誰かの存在を感じる。

渡辺が言えないのは、その誰かのせい。

渡辺にもだが、目黒にも都合悪い人物。

目黒ー言えないのは、俺のため？

渡辺ー・・。

目黒ー翔太くんだけのため？

渡辺ー何も、聞かないで。

目黒ー言えないの？

渡辺ー帰る。

目黒ー送って行こう・・

渡辺ーダメ！

目黒ー俺たち2人が一緒にいたらダメなんだね？

渡辺ー・・帰る。

目黒ー翔太くん！

伸ばされた目黒の手を振り払い、玄関から走ってエレベーターまで行く。

降下ボタンを連打し、急いで乗り込んで帰って行った。