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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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ノスフェラトゥは気づいていなかった。
いや。
正確には気づいていたが認めていなかった。
かつて。
スペクターの前でプライドを粉々に砕きながら、
「つけてくれ」
と自ら首輪と鎖を求めたあの日。
あの経験が完全に脳へ焼き付いていたことを。
普通なら一生モノの黒歴史である。
だが現在のノスフェラトゥは違う。
あの日の記憶を、
「人生最高の成功体験」
として保存してしまっていた。
非常にまずい。
結果。
彼の脳は一つの結論へ到達した。
「もっとおねだりしたい」
重症だった。
完全に重症だった。
ある日の昼。
スペクターは執務室で書類を片付けていた。
珍しく静かな時間である。
平和だった。
少なくとも。
ドアが開くまでは。
コンコン。
「主様」
来た。
スペクターは察した。
この時点で察した。
嫌な予感がした。
扉の向こうにはノスフェラトゥ。
両手には布。
なんか持ってきた。
絶対ろくでもない。
「どうしたんだい?」
「ご相談がありまして」
もう嫌な予感しかしない。
ノスフェラトゥは颯爽と入室した。
そして。
なぜかデスク横で跪いた。
まだ何も始まっていない。
相談の段階である。
なのに跪いた。
早い。
いつもより三工程くらい早い。
「自室のカーテンです」
「うん」
「黒にするか」
「うん」
「赤にするか」
「うん」
「主様に決めていただこうかと」
スペクターは布を見る。
黒。
赤。
普通の相談である。
ここまでは。
本当に普通だった。
「赤が似合うと思うよ」
終了。
相談終了。
解散。
誰もがそう思った。
ノスフェラトゥ以外は。
ノスフェラトゥは動かない。
微動だにしない。
じーーーーーーーっ。
見ている。
ひたすら見ている。
スペクターを。
圧がすごい。
怖い。
LMSみたいな圧を出している。
スペクターは顔を上げた。
「……ノスフェラトゥ?」
「はい」
「どうしたんだい?」
「いえ」
「うん」
「待っております」
「何を?」
「それを」
そこから先を言わせるな。
そんな顔だった。
スペクターは嫌な予感が確信へ変わる。
ああ。
まただ。
また始まった。
ノスフェラトゥは頬を赤くしている。
目が輝いている。
完全に期待している。
「欲しいと言いなさい」
待ちである。
例のやつである。
もう何回目かわからない。
午前中もやった。
昨日もやった。
一昨日もやった。
たぶん先週もやった。
スペクターは天井を見た。
助けてほしい。
誰か。
本当に。
「ノスフェラトゥ」
「はいっ!!」
来た!!
という顔。
期待で耳が立っている。
犬か。
「自分で決めなさい」
静寂。
世界が止まる。
ノスフェラトゥが固まる。
「……え?」
「自分で決めなさい」
「え?」
「カーテンくらい」
「え?」
理解できないらしい。
コンピュータがフリーズしたみたいな顔をしている。
「なぜですか主様!」
復活した。
面倒な方向に。
「私はおねだりしたいのです!」
「知ってる」
「叱ってほしいのです!」
「知ってる」
「欲しいと言いなさいと言ってほしいのです!」
「知ってる」
全部知ってる。
知った上で言ってる。
スペクターは静かに羽ペンを置いた。
「ちなみに」
嫌な予感。
「午前中のネクタイ」
「はい」
「昨日の靴」
「はい」
「一昨日の手袋」
「はい」
「全部同じことを聞きに来たね?」
「はい」
「私は全部、自分で決めなさいと言ったね?」
「はい」
「何故また来たんだい?」
ノスフェラトゥは真顔で答えた。
「今回はカーテンだからです」
スペクターは頭を抱えた。
論理が通じない。
重症患者だった。
ノスフェラトゥはさらに身を乗り出す。
「私の人生の選択を」
「うん」
「すべて主様に」
「うん」
「管理していただきたく」
「いやだよ」
即答だった。
人生初レベルの即答だった。
ノスフェラトゥがショックを受ける。
スペクターもショックを受けている。
なぜこんな会話になったのか。
双方ショックだった。
結局。
スペクターは面倒になった。
ぽんぽん。
頭を撫でる。
「はいはい」
「あうっ」
即死。
ノスフェラトゥ沈黙。
顔真っ赤。
機能停止。
ちょろい。
あまりにも。
そして退室。
廊下。
そこにはアズール。
腕を組んで待っていた。
どうやら全部聞いていたらしい。
「ねぇ」
「……」
「支配者に」
「……」
「あんなダルそうな顔させるの世界で君だけだと思う」
ノスフェラトゥは胸を張った。
「つまり特別ということだな」
「何でそうなるの?」
「愛だ」
「違う」
即答だった。
アズールは遠い目をした。
その横でノスフェラトゥは真剣な顔になる。
「次は朝食だ」
「何が?」
「明日の朝食メニューで勝負する」
「勝負って何」
「絶対に『欲しいと言いなさい』を引き出す」
アズールは思った。
たぶん。
スペクターより先に。
この吸血鬼の方が世界を疲れさせる。
そう確信したのであった。
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