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ああ、もう、胃が痛くなる……! 四十五万円の成功なのに、税金への恐怖で逃げ出しちゃう主人公の気持ち、すごくわかって辛いです。「来月には飽きられる」って怯えながら、無期限休止をポストするところ、胸がぎゅっと詰まりました。でも、逃げれば逃げるほど追いかけたくなるネットの怖さ……次、どうなっちゃうんでしょう。続きが気になって仕方ないです!
第14話:逃げ腰の四十歳〜税金という名の死神と、無期限休止宣言〜
「……胃が、ぶっ壊れそうだ」
四十五万円。
前回の配信で叩き出したその推定収益の数字は、一晩明けても幻として消えることはなく、ヒビ割れたスマホの画面に冷酷な現実として鎮座していた。
普通なら、狂喜乱舞して特上寿司の出前でも頼むところだろう。
だが、四十年間社会の責任から逃げ続けてきた俺の脳内を占めているのは、歓喜ではなく「純度100%の恐怖」だった。
俺は万年床の上で膝を抱え、ガタガタと震えていた。
「税金……そうだよ、税金だ。四十万稼いだって、来年には国から『住民税と所得税払えや』って請求書が来るんだろ? しかも、生活保護を抜けたら国民健康保険料も年金も、全部自分で払わなきゃいけなくなる……!」
俺の貧困なマネーリテラシーでも、それくらいは分かる。
ネットのニュースで見たことがある。一発当てて大金を稼いだYouTuberが、翌年に人気が急落して収入がゼロになったのに、前年の収入をベースにした莫大な税金の請求が来て破産した、という地獄のような記事を。
「来月、俺のバズが落ち着いたらどうなる? 同接が五十人に戻ったら? 俺は保護費という命綱を失った上で、税務署から借金取りみたいに取り立てられるのか……!?」
想像しただけで、全身から冷や汗が滝のように噴き出す。
「ジェ、ジェミニ! おいジェミニ、助けてくれ!!」
俺は震える指でスマホを操作し、すがりつくようにAIにプロンプトを打ち込んだ。
『VTuberとして今月まぐれで大金を稼いでしまった四十歳の無職です。来月人気が落ちて収益がゼロになった場合、来年の税金が払えずに自己破産する確率はどれくらいですか? また、税金対策として今すぐやるべきことをバカでもわかるように教えて』
俺の切実なSOSに対し、ジェミニは相変わらず無機質で、一切の容赦がない回答を数秒で弾き出した。
『クリエイターエコノミーにおける収入の乱高下と税金のリスクについて
一過性のバズによって得た収入が翌年以降も継続する保証はなく、おっしゃる通り、翌年の税金(所得税、住民税、国民健康保険料など)が支払えなくなるケースは多発しています。自己破産に至る確率は個人の状況によりますが、極めて危険な状態であることは間違いありません。
【今すぐやるべきこと】
1. 絶対に全額使わないこと。 収入の最低でも「30%〜40%」は、来年の納税用として別口座に隔離し、絶対に手を付けないでください。
2. 青色申告の準備。 開業届を提出し、日々の経費(通信費や機材費)の領収書を保管して帳簿をつけてください。
3. 継続的なコンテンツ制作。 収入を安定させるため、現在の視聴者を維持する努力を続けてください。』
「…………さんじゅっパーセント、だと?」
俺はスマホを取り落としそうになった。
稼いだ額の半分近くを、最初から「ないもの」として封印しなければならない? しかも、帳簿? 開業届?
四十年間、まともに家計簿すらつけたことのない底辺ニートに、そんな高度な事務作業ができるわけがない。
さらに、ジェミニの回答の最後の一文が、俺の心にトドメを刺した。
『現在の視聴者を維持する努力を続けてください』
「無理だ……」
ポツリと、声が漏れた。
星乃宮アリスとのコラボで12万人に見られ、俺のチャンネルには今、大量の新規リスナーが押し寄せている。彼らは「社会の底辺のリアル」や「限界おじさんの哀愁」という珍しいエンタメを求めてやってきているだけだ。
俺に、彼らをずっと楽しませ続けるトークスキルや企画力があるか?
……あるわけがない。俺はただ、ケースワーカーの鈴木さんに怯え、Amazonから届いた大量の物資に文句を言っているだけの、うすら体調の悪いおっさんなのだ。
「来月には絶対飽きられる。そして俺は、税金が払えなくて路上生活になる。……いやだ、働きたくない。借金もしたくない。俺はただ、この四畳半で誰にも怒られずに、特売のみそラーメンをすすって生きていきたいだけなんだ……ッ!」
パニックに陥った俺の脳は、生存本能に突き動かされるように、一つの「最悪の逃げ道」を導き出した。
(そうだ……逃げよう。今すぐ、すべてを投げ出して逃げるんだ)
俺は這うようにしてポンコツPCの前に移動し、X(旧Twitter)を開いた。
フォロワー数が数万人という、見たこともない数字に膨れ上がっているアカウント。俺はそこに、震える指でタイピングを始めた。
『お知らせ。
誠に勝手ながら、魔王ルシフェルは本日をもって無期限の配信休止とさせていただきます。理由は体調不良(主に重度の胃痛と、税金への恐怖)です。
今までありがとうございました。探さないでください』
推敲など一切しない。
ただ己の弱さと逃亡の意思だけを込めたそのテキストを、俺は『ポストする』のボタンを押して、全世界に向けて放流した。
「はぁっ、はぁっ……」
荒い息を吐きながら、PCの電源を強制的にブチッと切る。
ブーン、というファンが止まる音が、四畳半に静寂を取り戻させた。
終わった。
これでいい。収益化の件は鈴木さんに土下座して謝って、なんとか保護費を維持してもらうよう頼み込もう。俺には、数万人のリスナーの期待を背負って、確定申告に怯えながら生きるような「主人公」の器はないんだ。
「……寝よ。もう全部忘れて、寝るんだ」
俺は万年床に潜り込み、布団を頭まで被った。
これで、元の静かで平和な(そして何の希望もない)底辺生活に戻れる。そう信じて疑わなかった。
しかし。
俺のその情けなすぎる「逃亡宣言」が、ネットの海に生きるリスナーたちにとって、どれほどの『燃料』になるかを、俺はまだ理解していなかった。
逃げれば逃げるほど追いかけたくなる。
それが、狂乱のインターネットというバグの正体だということを。
こよい
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