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『』⇢ あなた



気持ちの良い、少し暖かい風が体にあたる。

珍しく早起きして見たニュースによると、桜は今日が満開らしい。前年度とは違う毎日が始まると思うと胸が踊る。



いつもとは何だか違うように感じる通学路を自転車で20分かけて走ると、我らが稲荷崎高校が見えてきた。



校門をくぐり自転車を駐輪場に置き、昇降口まで歩いていくと大きな背中が見えた。一瞬ゲッとしたが、見間違いだったことに安心する。


『治やん!今日早いなぁ』

「○○こそ早いやん。いつも遅刻ギリギリのくせに」

『治…お前も人のこと言われへんねん』


私の隣を歩いている男、宮治と他愛もない会話を繰り広げていると、あっという間に昇降口に着いていた。


「おお!お前らいつもは遅刻ギリギリのくせに今日はえらい早いなあ!」


朝早いというのにもう先生はそこに立っていた。よく遅刻ギリギリになる私たちを何かと見逃してくれた先生だ。だが挨拶だけはしないと面倒くさいことになるので治と一緒に少し背を曲げて挨拶を交わす。下駄箱に靴を入れ、昨年とは違う色の上履きを履こうとしたとき、バタバタバタッと大きな音を立てながら走ってくる人物が見えた。


『…ゲッ』

さっき言いかけた言葉が無意識に出た。さっきまではあんなに遠くにいたのにあっという間にこちらまで来た。


「ちょっ、こら宮!!挨拶くらいちゃんとせえ!!」


「お、ツム捕まったな」

と今怒られている自分の片割れを見て少し嬉しそうにしている治。


「うわ…。朝から怒られるとか流石」

『え、角名いつきたん…?』

「侑が怒られてたから普通に後ろ通ったらいけた」


いつの間にか来ていた角名はダルそうに私の質問に答えた。


「なんで新学期から怒られなあかんねん…」


さっきまで元気だった足取りが一転し、死人のようにのそのそとこちらに来る侑。


「…うーわ、なんか1匹豚が混ざってんねんけど」

「あ、始まった」


私を見下ろしながらそう言ったのは先程まで怒鳴られていて、私の大嫌いな宮侑という男。そして始まったと言いながらスマホを構える角名。


『なんやて?自分眼科行った方がええんちゃう?』


「あ?」

「まーたやっとるわ、侑と○○。仲ええなー」


侑が言い返そうとした時、友人らしき人と来た銀島結が少し冷やかすように言った。彼自身は自覚していないのだろうが…。


「『仲良うないわ!!!』」

見事なハモリ。


「そーいえば入学した時から喧嘩してたよな」

といつの間にか動画を撮るのをやめていた角名が言う。


「あー、あったな。ツムがえらい可愛い子がおる言うて声掛けに行ったらなんや喧嘩しとった」

「いや、俺は可愛いなんて言ってへん。えらいゴリラみたいな女子おるな思て動物園と間違えとるから声掛けてあげたんや」


そう。1年前の今日、私たちは稲荷崎高校に入学した。中学の頃とは違う新しい毎日、青春に胸をふくらませていた。そしてこの時の私にはこれから起こる悲劇、後に伝説の1年コンビと言われることをまだ知らない。



-1年前-


長い入学式も終わり、最初はわくわくしていた気持ちも今や微塵もなく、みんな退屈そうに各教室に足を運んでいる。そんな中まだピンピンしている様子の二人の男の声が後ろから聞こえた。


「なあなあサム、あの女子かわいくない?」

「でもあれや、胸ないな」

「あれは胸ちゃう。バレーコートや。……ちょっと声かけてくる」


とんでもない男やな。と思っていたのも束の間。


「なあ!自分名前なんていうん?LINE交換せえへん?」

『………え?』


たった今後ろで話していた顔の整った双子の金髪で見るからにチャラそうな男が私に話しかけてきた。まさか自分のことを言っていたとは思わず情けない声が出た。いや、そんなことよりも胸がないだのバレーコートだの気にしていることに対して散々な言われように腹が立った。


『いや、さっきまで自分ら私のこと散々言っとったよな?それやのにLINE交換しよとかちょっと図々しいんちゃう?』


「…あ?事実言ったらなんか悪いん?」


それからはご想像の通り、二人だけの間で起こっていた罵り合いはヒートアップしていき、それを見ていた生徒が動画を撮ったり他の生徒を呼んだりしてことが大きくなった。1人の女子が「わたし先生呼んでくる!」とその場は鎮まったがお互いに謝らず、同じクラスだったということもあり度々騒動を起こしては先生に怒られていた。


それからというもの、この事件は全学年に知れ渡り、男子からは「双子の金髪と入学式に喧嘩したやつ」と避けられ、女子からは侑の人気故に殺意の目が飛んでくる。




ああ、嫌なことを思い出してしまった。いや、でも今日からは新学期だ。新学期ということはクラス替え!!これで侑との日々もさよならだ!!


「あ、お前らまた同じクラスやん」


そう言ったのはいつの間にか下駄箱の先に置いてある大きな掲示板に目を通している治。は…え…?いや待て待て確認しよう。治が嘘をついている可能性も…。と思い早歩きでそちらまで行く。


たくさんの文字の中から自分の名前を探す。えっと…2組か。次に宮侑の名前を探す。


…………終わった。そこに書かれていたのは「宮侑 2組」という文字。

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